冤罪で殺された悪役令嬢は精霊となって自分の姪を守護します 〜今更謝罪されても手遅れですわ〜

犬社護

文字の大きさ
20 / 48
第二章 動き出す歯車

20話 《魔術》と《魔法》

しおりを挟む
《身分差交流演習》は、今日から六日後に実施されます。

相手は王都内に住む高位貴族のいずれか、六日間その方の家でお世話になります。学園に通っている方がいた場合、その方と一緒に学園へ登校し、帰る際も一緒に帰宅する。前半の三日間は学園の授業もありますが、後半の三日間は三連休の祝日となりますので、ここで本格的な教養などが教えられます。前半の間に高位貴族の方々と親交を深めておかないと、後半が厳しいことになるでしょう。選ばれた十名が誰のもとへ行くのか、それが発表されるのは三日後となりました。現在、最終選考中とのことです。

ホームルームも終わり、チェルシーとクリスティーは寮へ戻るそうですが、私は図書館へ行くことを伝えると、心配そうな目で見つめてきました。

『ルーテ、迷子になるかもしれないし、学園の案内ならクリスティーと一緒にするけど?』

これからは、私もチェルシーと同じ部屋で住むことになるのですが、寮の場所と部屋番号については朝のうちに聞いておきましたし、彼女たちの憂いも問題ありません。

『大丈夫ですよ。案内してくれるのは嬉しいですが、全授業終了後に二人揃って歩き回っていると怪しまれますわ。私は一人で散策しますので、二人は先に寮へ戻っていてください。私は図書室に行き、精霊に関わる書物を探しておきます』

私は別れの挨拶を済ませ二人と別れると、すぐに図書室へ向かいました。実のところ、少し前まで学生だったので、どの施設が何処にあるのかは大体把握しています。図書室などの大規模な施設は、早々移動されることはありませんから。

「まずは、自分自身を把握すること!!」

私が図書室へ入ると、人は少なく閑散としていましたが、一人知り合いがいました。アンリエッタ・エクスランデ、彼女はボ~ッとしたままテーブルに肘をつき、窓を眺めています。教室内ではチェルシーもいましたから明るい笑顔を務めていたようですが、一日の授業が終了したことで気が抜けたのか、人が近くを通っても何の反応も示しません。本来であれば、身分差交流演習においても、アンリエッタならば選ばれてもおかしくありませんが、これも事件の影響で流れてしまいました。皆も遠巻きに見ているだけで、声をかけようとしませんわね。そっとしておきましょう。

精霊関係が収めらている資料棚へ行くと、誰もいないようなので、存在を皆に把握できるよう設定を変更しておきました。流石に、机に座った状態で不可視のまま資料を閲覧すると、私に触れていない資料だけが皆に見えてしまい、かなり不自然になってしまいます。資料棚からで三冊ほど選び、近くのテーブルに置き、私は一冊の本を読み進めました。

人は精霊の扱う魔法に興味を持ち、魔法に似たものを作り出した。
それが【魔術】。

現在までに様々な術式が開発されていますが、全てにおいて発動させるには《手順》通りに進めないといけません。最も重要なのが、《イメージ》と《詠唱》です。頭で魔術のイメージを固め、それを詠唱しながら強固にしていき外界へ放つ。これが基本、無詠唱で発動させることも可能ですが、魔術の原理を真に理解しないといけません。簡単な小規模魔術であれば習得者も多いですが、中規模以上になると、イメージも複雑化し、詠唱も長くなるため、無詠唱の習得者は殆どいませんし、短時間で行使できる魔術師も少ないですね。

しかし、今から四十年程前、魔術回路が開発されたことにより、魔術革命が起こりました。それによって開発された世紀の大発明ともいえるのが、【陣】と【符】です。


【陣】
特殊な大型シートに使用したい術の魔術回路を刻み込み、使用者はイメージする必要もなく、一定量の魔力を陣に注入するだけで術を発動させることが可能という優れ物です。短時間で発動し、おまけに何度も使用可能、大型で精細な分、魔術としての成功率も高いのですが、持ち運びに不便であるため、現在は主に大規模魔術に使用されています。

【符】
【陣】を小型化したもので、縦十七センチ・横七センチ程のサイズとなっているため、陣と違い、カバンの中に数十枚入れることも可能です。ただし、サイズが小さい分、刻める魔術回路の面積が限定されてしまうため、使用可能な魔術も限られます。製作者の腕次第では、高難度の中規模魔術までなら刻むことも可能と言われていますね。


魔術の場合、無詠唱かつ短時間で術を行使したいのなら、陣や符などの道具が必要とされますが、魔法は違うようです。

簡単に言えば、陣や符など道具を一切必要とせず、全てイメージだけで即座に顕現可能なようです。ただし、精霊には位が存在し、位が高いほど保有する魔力量も多くなり、《上級》以上になると魔法一つで街を壊滅させることが可能……《特異》ともなると国一つを吹き飛ばせるとか……フューイ様を絶対に怒らせてはいけませんね。

「あ…これは…」

精霊には必ず《属性》というものがあり、その属性の系統魔法と無属性魔法しか使用できない。しかも、特異以上になると、その属性に関わる魔法のみを創造することができるそうです。

私の場合、無属性魔法《念話》しか使用できませんが、アルテイシア様は魔術回路に対する私の解析速度が異様に速いことから、『あなたは《光》属性の精霊です』と仰っていました。

「なるほど…大体わかりましたわ」

私は、自分の属性を確認しないといけませんわね。光以外に持っている可能性もありますし、魔法を創造できるかも重要です。イメージだけで魔法を行使しないといけませんから、かなり繊細な制御力が必要とされますね。精霊としての《理》を所持していれば、制御なども簡単にできるのでしょうが、私はそれを持っていません。まずは、人に知られている精霊魔法を把握して、使いこなせるようにしましょう。

あとは実践あるのみ!!

問題はどこで練習するかですが、私の場合眠らなくても普通に生きていけますので、夜中の訓練場が妥当ですわね。


○○○


精霊としての魔力の扱い方を理解したことで資料を元の位置に戻すと、アンリエッタが先程と同じ姿勢のまま座り、窓の外を見つめていました。あの子、あの状態のままピクリとも動いていませんわ。

「あなた、大丈夫ですか?」

私が声をかけると、アンリエッタは目だけをこちらに傾けました。かなり失礼な態度なんですが、それだけ無気力になっているのですね。図書館内にいるのは私たち二人だけのようですから自己紹介だけでもしておきましょう。

「こんにちは。私は光の精霊ルーテです。これが証拠、存在を消せるでしょう? ところで、あなたは?」

私の紹介を済ませると、始め微動だにしなかったアンリエッタが徐々に目を見開いていき、急に元の公爵令嬢の雰囲気を纏うと、急いで立ち上がり、謝罪を示すお辞儀をとりました。

「あ…そ…その失礼しました!! 無礼な態度をとってしまい、大変申し訳ありません。私は、アンリエッタ・エクスランデと申します!!」

お顔が真っ赤ですわ。
自己紹介しただけなんですが、精霊が図書館にいると普通思いませんよね。

「落ち着いて、アンリエッタ。ずっと同じ態勢でぼ~っとしていたから心配になったのよ」
「お、お気遣い頂きありがとうございます……」

まだ緊張しているようですから、先にこちらの事情を説明しておきましょう。

「私は二日目前に生まれたばかりなの。近くを散策していたら、私と同じ背丈の子供たちがこの学園とやらに入って行くのを見たから、私も一緒に入って館内を見ていたのよ。ここの図書館は、素晴らしいわね。私の知りたいことが、何でもあるのだから。あ、この制服は職員室にあったものを借りたわ。元々、廃棄予定のもので誰にも迷惑を掛けていないから安心してね」

「そう…なんですね」

やはり、彼女から覇気を感じ取れないわ。

「その様子ですと、何か悩みを抱えているようね。精霊の私に話してみない? 力になれるかもしれないわ」

私自身、あの事件に大きく絡んでいます。
原因に関しても、ニーナについてでしょう。

この子は何も悪くありませんから、彼女の悩みを出来る限り聞き出し、可能であれば取り除いてあげましょう。

アンリエッタは私を見つめると、意を決したのか口を開いてくれました。

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢だから知っているヒロインが幸せになれる条件【8/26完結】

音無砂月
ファンタジー
※ストーリーを全て書き上げた上で予約公開にしています。その為、タイトルには【完結】と入れさせていただいています。 1日1話更新します。 事故で死んで気が付いたら乙女ゲームの悪役令嬢リスティルに転生していた。 バッドエンドは何としてでも回避したいリスティルだけど、攻略対象者であるレオンはなぜかシスコンになっているし、ヒロインのメロディは自分の強運さを過信して傲慢になっているし。 なんだか、みんなゲームとキャラが違い過ぎ。こんなので本当にバッドエンドを回避できるのかしら。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...