邪悪な魔術師の成れの果て

きりか

文字の大きさ
1 / 1

邪悪な魔術師の成れの果て

しおりを挟む


サシャ☆



終わった…。長い闘いがやっと…。



今から何十年か前に、この世に生を受けた一人の魔術師がいた。


彼は、膨大な魔力を持ち、この魔法の国を支配しようとし、邪悪な心を持ってしまった。

多くの魔法使いが彼を恐れ慄き、ひれ伏す者や、抗う者ら全てが、薙ぎ払われた。


長い長い年月が過ぎ、多くの犠牲をだし、やっと、邪悪な魔術師を倒した。

そう、やっとだ。

やっと、闘いが終わり、邪悪な魔術師は消滅したハズだったが??


うん、僕の足元で泣きまくっている赤ちゃんって?

もしかして、魔力を失った彼?


それとも、誰かの忘れ物?でなくて、忘れ人?

いやいや。

おかあさ~ん、赤ちゃん忘れてますよ~!

あなたの赤ちゃん、ここで迷子になってますよ~~!!!って、赤ちゃんは、歩けないってばっ!って、オイ!


ど、どうしよう…。

今は、真冬だし、このままにしていたら、死んじゃうかも?

迷子でなく、捨て子?

いやいや、こんな戦地の真っ只中で?

遠く離れたとこでは、邪悪な魔術師に勝利した人々の歓喜の声が聞こえてくる。


そっと、抱き上げてみる……。

泣き止み、涙を溜めた瞳で僕を見つめる。

ヤバイ、あの魔術師と同じ金色の瞳……。

マジですかっ?


このままだと、この子は殺されてしまう…。


周りに気づかれないようにローブでくるみ、気づけば、連れて帰ってしまった。


それからの僕は、赤子になった邪悪な魔術師をルークと名付け、魔法の国を離れ、旅に出た。


微細ながら、赤ちゃんからは、魔力を感じてはいたのだが、普通の人より早い成長のため、周りに気づかれないうちに、その地を離れる。

そして、ルークの魔力も感じなくなり、成長スピードも落ち着いた頃、たどり着いた人間の国の片隅で、親子としてスローライフを送ってきたが…。


「見てみて~!サシャ~~!こんなに大きい芋がとれたよ~~!」

振り向く僕の背を、少し超え、可愛らしい容姿は、誰もが振り返るほどの美青年に変わってきた。

平凡で特徴がなく、(ちょっと!そこのキミ!今、凡庸って言った?凡庸違うよっ!平凡なんだよっ!普通って意味さっ。)


周囲の人間達にはルークは、死別した妻の連れ子だと説明してきた。

だってさ、眩しいくらいのイケメンと僕では、どこをとっても実の親子は無理でしょ~~?

大丈夫、毎朝、鏡みてるから、自分をよく知ってるさっ!

それでさ、僕は親として今まで愛情を持って育ててきたはずなのだが…?ん?

どうしてこうなったんだっ?


誰か説明してくれっ!?



「えっと~、ルーク? 僕は、なぜに君に押し倒されてるのかな?」


「サシャ…。魔力を失い、赤子のような姿に変わってしまった俺を…、見つかれば、お前まで裏切り者として、処罰されるとわかってるのに…」


ええっ!もしかして、もしかして、邪悪な魔術師としての記憶ってございましたか?

(って、ここ敬語丁寧語ね!命、大事だからね~、特に僕の命ね)


ルークによって、上半身を剥かれ…、ルークって、器用だな~~なんて、ホゲっとしてるあいだに気づけば脱がされていた…。

え~~、僕ってドン臭いのかな?

もしかして?

そして、ルークの右手に、はだけた胸を揉まれまくっている…

今、ここね!

「ルーク…私の胸を揉んでも、何も出ないのだが?」

鼻先で、フッと笑う姿は、幼き頃から見知っているルークではなく、遠くに眺めた、あの、邪悪な魔術師のものとも少し違っていた。


•••••••

ルーク★




俺は、生まれ落ちたときから、膨大な魔力を持ち、産声をあげた瞬間に、その魔力の強さによって、母の呼吸を止めてしまった。

恐れた父により、殺されかけ、その父を返り討ちにした。

そして、成長とともに、多くの敵を倒していった。

罪悪感はないのかって?

魔力が強いのは、俺が悪いのか?

ただ、魔力が強いというだけで、殺しにくる奴らに問題があるのだろう?

気づけば、多くの魔術師に囲まれ、俺は倒された。

やっと、死でもって、この魔力から解放されると思い、気づけば…。

そう、俺は、魔力がほとんどないうえに、赤子の姿となっていた。

そして、そんな俺を抱きあげた奴がいて…そう、それがサシャとの出会いだった。

サシャは、凡庸な茶色の髪に、瞳の色をしていて、

俺を抱きあげたはいいが、やたらと周りをキョトキョト見回し、その場から脱兎の如く逃げた。

俺は、魔力が戻り次第に、サシャを葬るつもりでいたんだが…。


魔力が戻りつつあるたびに、体は成長をし…といっても、元の姿に戻っていっただけだが。

サシャは、そんな俺を連れては、あちらこちらと渡り歩いた。


サシャの魔力はほとんどなく、あちらこちらと転々としながら、俺を育てるために必死に働いていて、唯一美しかった手は、荒れ放題だった。

薬草を集めては、手荒れを治すクリームを作り、サシャが疲れて眠りについた頃に、そっとマッサージをしていた。


そんなある日、いつものように、サシャの手のマッサージをしていたのだが、下半身に違和感が…。

自分では、やはり…とは思っていた。


なににも執着も興味もなかったが、サシャの笑顔をずっと見続けたいと、サシャに触れたいと思う半面、サシャを押さえ込み、誰にも見せずに仕舞込みたいとも思っていて、この気持ちを持て余していたが…。

どうするべきか、そんなことはわかっている。

やるべきことは、ひとつ。


「えっと~、ルーク? 僕は、なぜに君に押し倒されてるのかな?」

キョトンとした顔で、俺に押し倒されたサシャ。

そんなサシャを見るのは俺だけだよな?

そうでなかったら、全てをなぎ払ってやるさ。


「サシャ…。魔力を失い、赤子のような姿に変わってしまった俺を…、見つかれば、お前まで裏切り者として、処罰されるとわかってるのに…」

そうさ、そんな俺だが、これからもずっと、愛してくれるよな?


驚きすぎたせいか、それとも、俺が邪悪な魔術師とやっと理解したせいかはわからないが、

たいして抵抗もせずにいたサシャを、アッサリと剥いて頂いたさ。



邪悪な魔術師は、未来永劫現れず、膨大な魔力でもって、人々の生活を潤した魔術師と、その魔術師を支えた伴侶の言い伝えが残った。



サシャ☆


いやいや、待ってまって!膨大な魔力で、僕を孕ますって!?

ムリムリ、無理だってば!

だ、誰か説明してくれっ!!



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

モルト
2020.12.31 モルト

サシャが悪い魔術師だと知っていながらも愛を注いで育てるその慈愛の深さと、押し倒されてもキョトンとしている鈍感さが素敵で可愛かったです☺️サシャの愛に絆されてしまった魔術師も将来立場が逆転してスパダリになりそうだなと思いました笑
また言い伝えとして2人の話がいい魔術師と伴侶となっていて、最後までニコニコして読ませていただきました!ありがとうございます☺️

2020.12.31 きりか

モルト様

私の拙い作品に、また、感想を頂きまして、感無量ですっ^_^
ありがたや〜。
本当に、本当に、うれしくて!!
サシャみたいな天然系なキャラって、書いていて楽しかったんです。
しかし、私、エチシーン苦手で、なかなか進まなくて途中で挫折って、よくあるので、なんとか仕上げた勢いでUPしたという…。
いつもいつも、朝チュンになってしまうのですが、こうして感想をいただけて、読んでくださってくれる方が…って、励みになります(・∀・)

モルト様のおかげで、モチベーションが上がりまして、今、ずっと書きかけで置いていたのを仕上げようと、進めています♡
ありがとうございましたm(_ _)m

解除

あなたにおすすめの小説

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。