木漏れ日の中で…

きりか

文字の大きさ
上 下
1 / 1

木漏れ日の中で…

しおりを挟む



 春の穏やかな陽の中、

 淡いピンク色の花びらが数枚、風に舞い散るさまを見上げていた…。

 花びらが散るさまは、『まるで桜のようだ…見事だな…。綺麗だ…』


 陽光桜、河津桜、枝垂れ桜、醍醐桜…どの桜も美しいが、やはり、桜といえば、ソメイヨシノ…………ん?

 桜って?


 そのときに気付いたのさ、
 この世界が、前世で姉貴が愛読していた
 色をテーマにしたライトノベルズだということを…。
 しかし、俺は、残念ながら読んでないから、内容は知らないが…。
 こんなことなら読んでおけばよかったかな?
 いやいや、自分の今世、知らないほうがよかったんだろう。
 きっと…。




 俺は、辺境伯の三男として生を受け、まさしく、辺境の地といわれる、この国の端の要塞からはるばるやって来た。

 なぜって?

 この春からここ、シェード学院に通う為だからだ。

 一番上の兄カーディナルは、次期辺境伯とし、この学院で学んだ。

 すぐ上の兄カーマインも、やはりこの学院で学んで、昨年の春に、伴侶となる方を連れて戻ってきた。

 そして、次は俺、カルミンの番なんだな。 

 まあ、名前で察してもらえるとおり、俺達三兄弟は、父譲りの見事といわれるくらいの赤毛だ。



 俺が住んでいたこの国の最北端は、まだまだ氷と雪に埋もれていたが、

 ここは、王都よりさらに南だからか、様々な花が咲き誇り、

 そのなかでもとりわけ美しい、桜のような花の下に佇み、

 見惚れていた。


 前の世界では、

 春はあけぼの…って、昔の聡明な女性が書いていたが、

 明日こそ早起きして、朝焼けの中で桜もどきの花を見てみたいものだな…。

 そんなことを独りごちていた。


 桜の花びら舞うなか、故郷の雪解けを思わせる、白銀が目の前を過ぎた。

 背中を流れる美しい白銀の髪の持ち主が振り返り、髪と同じ色合いの瞳と目が合った…。

 その時、彼の唇からは、「君もこの花が好きなのかな? 嬉しいな~。 この樹は…ふふっ、僕が育てたんだよ。」

 そう言って、ほころぶように微笑んだ。

 それが、ひとつ上の学年のパール·グレーさんとの出会いだった…。


 ああ、そうさ…認めるよ。

 一瞬で恋に落ちたさ…。

 しかし、パール・グレーさんは、所詮、高嶺の花。

 グレー家が、侯爵家だからというだけではない…。


 この国は、第一王子以外、後継争いを避ける為なのかはわからないが、第二王子から、正妃は男性を選ぶという暗黙の了解がある。


 パール・グレーさんは、第二王子オーキッド殿下の許嫁。


 オーキッド殿下は、穏和で誠実な人柄。

 誰からみてもお似合いの2人…。

 口惜しいが、文句ひとつもつけようがないさ。

 本当に…。


 この学院に入学したものは、全員、寮に入るのだが、

 最高学年の第一王子アメジスト殿下と、

 その許嫁で、ブルー公爵家のアリス・ブルー様。

 男女だから寮は別れているとはいえ、身分や性別に関係なく、どの寮も1階のラウンジは、出入りが出来て、ちょっとした社交の場となる。

 アメジスト殿下が居られるこの寮の1階には、アリス・ブルー様、オーキッド殿下とグレーさんを交えて

 4人で仲良くされているのを、いつも遠目で眺めるだけだ。



 辛くないかって?

 あの方が、幸せそうにしてる姿を見るだけで…。

 そう思っている。


 俺の視線に気付き、あの方が振り向いてくれて、たまに視線を交えるだけで…

 それだけで俺は、幸せだ。

 そう、自分に言い聞かせて、想いが溢れないように蓋をしていた。

 たとえ、胸が張り裂けそうになってもだ…。

 しかし、俺の心は、思い通りにならないみたいだ…。


 夜、夢の中では、あの方を掻き抱き、白銀の髪に口付けをし、

 そして、桜の花びらのような唇を奪い…。

 あの方は、オズオズと俺の背中に手を伸ばし、唇を開いて俺の口付けを受け入れる…。

 浅ましいが、とても幸せな夢を見ているとわかっている…。

 ただ、欲しい…。

 このままずっと夢の中にいられたら…。

 目覚めたときの虚しさ…。

 あの方の温もりが残っているような気がして、目覚めると手のひらをしばらく眺めるクセがついてしまった。



 そして、桜のような美しい花が散った頃、遅ればせながら、一人の女の子が学院にやって来た。

 いかにもな貴族らしく、喧しくさえずる奴らが言ってるには、イエロー男爵が平民に産ませた子を引き取り、慌ただしくこの学院に編入させてきたんだとか、

 彼女の名前は、レモン・イエロー。

 名は体を表すっていうか、レモンイエローの髪色のなかなか元気な子だった。


 この学院が、小説の中とは気付いていたが、それ以外のことは相変わらずサッパリ思いだせずにいたが…。

 もしかして?彼女がキーパーソンなのかと、気にかけてみたところ、いつの間にかレモンとの距離が縮まってきていた。

「しょせん私ってさ、平民上がりだしね。 それにしても、お貴族様って大変だわ~。 貴方はお貴族様ってカンジしないよねぇ。あっ、良い意味でだよ?

 それにしても、辺境から来て貴方も大変だよね~~。」と、カラカラと笑う彼女となぜか気が合い、友人となった。



 桜のような木が、青々と葉が生い茂った頃、長い夏の休みの前に新しい生徒会の選挙があり、会長は、アメジスト殿下からオーキッド殿下に代替わりし、副会長は、アリス・ブルー様からパール・グレー様に…。

 そして、なぜだか、アメジスト殿下の推薦で、レモン・イエローが、役員として入った…。

 レモンの強い願いで、俺まで役員となったが…。

「だってさ、私って浮いてるじゃん!心細いし……。

 一緒に頑張ろうよ~~。

 それに、グレー先輩に会えるし…。

 あっ、誰にも言ってないし…本当だよっ!誰も気付いてないよ?

 大丈夫、わかってるよ。どんなに頑張ったって、超えれない壁があるってことは…。」そうつぶやくレモンの横顔は、なんだかやたらと大人びていた。





 長い夏の休みを終え、辺境の地から学院に戻ると、

 休み前と、明らかに空気が違った。


「オイッ、ちょっといいか?」
 グリーン侯爵家のエバー・グリーンに呼ばれると、流石に断れない。

「お前、イエロー嬢と仲良いよな? あのさ…彼女からは何も聞いてないか?」

「俺は、ずっと、我が領内にいたんだが??」

 なにが言いたいんだ? サッパリわからない…。


 途方に暮れた顔をしていたのが、わかったんだろう。


 エバー・グリーンの説明によると、

 アメジスト殿下がブルー嬢との婚約を破棄して、真実の愛を見つけたと、レモン・イエロー嬢と一緒になると宣言をした。

 そして、激怒した父親である陛下によって王位を剥奪された。


 かわりにオーキッド殿下が立太子となるが、婚約を破棄されたアリス・ブルー嬢と、新たに婚約を結ぶことになりそうだとか…。


 とにかく、この夏中、大騒ぎとなった…

 そこまで話したところで、俺の顔色が真っ青になったのに気付いたらしく、エバー・グリーンは口を噤んだ。

「パール・グレーさんは?! 
 パール・グレーさんはどうなった?!」エバー・グリーンの胸元を掴み、必死の形相の俺にたいして、

「まて、とにかく落ち着け! グレー先輩はしばらくの間、自領に戻られるみたい…って、
 オイッ待てって!」

 エバー・グリーンが引き止めようとするのを振り払い、あの方の寮へとひた走る…。



 ✣✣✣✣✣✣




 私は、グレー侯爵家の5人兄弟の末っ子として、政略結婚の割に仲のよい両親、 
 そして典型的な末子として、兄と姉にはとても可愛がってもらっていた。

 物心つく頃、王宮に連れて行かれ、そこで出会ったのは、我が侯爵家の遠縁にあたるアリス様。
 そして、アリス様の許嫁の第一王子、アメジスト殿下は、私より一つ歳が上で。

 それから、私と年が同じということで許嫁として決まった、 
 第二王子、オーキッド殿下と引き合わされた。


 アメジスト殿下は、頭の回転が良く、明るい性格で、物怖じしないところといい、将来の王として非の打ち所がない御方。

 その隣に立つのに相応しく、聡明なアリス様。


 オーキッド殿下は穏和な方で、そんな御二方の側でいつでもニコニコと笑っていた。


 幼き頃は、同じ年の許嫁としてより、ただただ、一緒に遊ぶのが楽しくて、王宮に行くのが楽しみだったが…。

 オーキッド殿下の側に立つのに、私は相応しいのだろうか?

 成長するにつれ、ひたひたと不安に魘われていった。


 アメジスト殿下の補佐として、王族として成長しつつあるオーキッド殿下。

 王太子妃としての教育を、見事にこなされているアリス様。

 私は、何ひとつも成し遂げていない…。


 周囲の期待に押しつぶされそうになると、私専用の温室に引き籠もるようになった…。

 幼いときから、植物を育てるのが好きだったが、父に強請り作って頂いた温室は、私の唯一の安らげる居場所だった。


 相変わらず温室に引き籠もっていたある日、オーキッド殿下が訪ねて来られ

「ねぇパール。この樹ってさ…。 せっかく可愛らしい花を咲かせているのに、葉に隠れてしまうなんて…。 奥ゆかしすぎるね…」

 その言葉とオーキッド殿下の淋しげな表情が、なぜか、気になり、

 淡いピンクの花を咲かせ、花が散ったあとに葉をつけるように改良をした。

 それからしばらく経ち、

 この国の貴族の子なら絶対に入学する学院に上がる年に、この樹と共に学院へと向かった。


 ひとつ上の学年にアメジスト殿下とアリス嬢、私とオーキッド殿下の4人で、穏やかな学院生活を過ごしていた。


 そして、1年が過ぎ、新たな学生がやって来る…。


 私の樹は美しい花をつけていた……まるで、新入生を祝っているように…。


 花びらが数枚、風に舞っている中、学院では珍しいくらい上背があり、体格がよく、真っ赤な髪を持つ男が佇んでいた。

 私の花に見惚れてくれてるのかも…っと、まるで自分が認められたようで、嬉しくなり、

 ソッと近づいてみたところ、『まるで桜のようだ…見事だな…。綺麗だ』とポツリと呟いていた。

 サクラ? 植物の研究を続けていたが、初めて聞く…。

 うん、いい名だ。

 さり気なく、彼の前に出て

「君もこの花が好きなのかな? 嬉しいな、僕が育てたんだよ。」

 一迅の風に髪が捕らわれつつ振り返ると、彼と目が合った…。

 私を惹きつけて捉えるような瞳…。

 それが、辺境伯の子息カルミンとの出会いだった。


 カルミンに近づきたい… でも、それは、いけないことだとはわかっている。

 カルミンは、アメジスト殿下と同じ寮にいる。

 用もないのに、アリス様に付き添っているふうにして、通ってしまう自分がいた。


 彼の熱い視線を常に感じる…。

 振り返ると、仄暗い瞳で私を見つめる彼が…。

 彼の視線を受け、身が震えそうな程の喜びを感じる。

 そして、どうにもならない現状に絶望する。

 生まれて初めての恋。

 恋とは、フワフワとしたものだと思いこんでいたが、こんなに苦しいものとは思わなかった…。

 段々と食欲もなくなってきて、オーキッド殿下がやたらと心配してきた。

 いっそ、婚約破棄をしてくれたら…。


 寝苦しく何度も寝返りをうっていたある晩のこと、

 うつらうつらしていた私は抱き起こされて…。

「誰?」

 ガッチリとした肩、夜の闇でもわかる燃えるような髪…。

「カルミン?」私の問いに、

「シィ……」そうつぶやき、人差し指を私の唇に当てる。

 辺境で鍛えられたカルミンの、広くガッチリとした肩にしがみついて、

 カルミンが私の髪を口付けるのを唇を深くあわせ、舌を差し入れ、唾液を啜り…隙間なく抱きしめ合い…。

 目が覚めると、まだ、彼の体温が残ってるみたいで…。

 自分の浅ましさ、オーキッド殿下への罪悪感で、胸が潰れそうになる。

 それでも、夢の中だけでも、彼を感じたかった…。



 暑い夏、長い休みになり、たくさんの生徒達は、それぞれの自領に戻るものが大半だ…。

 当たり前だが、カルミンも辺境伯領へと戻っていった…。

 その後ろ姿を、サクラと名付けた樹に隠れるように見送った。

 許されるのなら、心のカケラだけでもいいから、連れて行って欲しかった…。


 暑い夏のさなか、ただでさえ食が細いのに、食べれなくなってしまい、家族中に心配され、王都から少し離れた保養地で過ごすことになった。

 夢の中でだけしか会えない彼への思いを募らせながら…。


 そんなある夜、王族専属の早馬がやって来た。

 火急、王都に戻り、王宮に上がるようとのこと。

 取るものもとりあえず、慌ただしく出立し、もしや、私のこの内たる思いが漏れたのでは…。

 家族に迷惑がかかると不安が心にのしかかる反面、たとえこの命で償うこととなっても、この想いを貫ける喜びもあった。


 王宮に参じたところ…

 なにやら騒がしく、いつも優雅な侍女が慌てたように、なぜか第一王子殿下への執務室へと案内してくれた。


 執務室には、宰相並びにオーキッド殿下にアリス嬢、そして、なぜか国王陛下までがっ!

 慌てて、礼をし、頭を下げたままでいると、

「パール…頭をあげなさい。そなたには、辛いことを言わねばならぬのだ。我が息子アメジストが、アリス嬢との婚約を破棄したのじゃ」

 あまりのことに、アタマがついてゆかない…。

 コーラル宰相の説明によると、
 アメジスト殿下は、昨夜の清涼会と名付けた晩餐会にて、アリス嬢と婚約破棄をし、イエロー男爵の娘、レモン嬢と改めて婚約を結ぶと宣言をしたとか…。


 王家主催の晩餐会での出来事を重くみた陛下によって、アメジスト殿下は謹慎を受け、このまま王族から除籍となりそうだとか…。


 代わりに、オーキッド殿下が立太子し、アリス嬢は、そのままオーキッド殿下の婚約者と変更になると…。

 そして、私とオーキッド殿下の婚約が解消と王命で決まった。

 苦しそうな表情を浮かべ、宰相を伴い退出された。


 それはそうだ。

 オーキッド殿下が王太子となれば、私は不要だ。

 いきなりなことに私の思考は停止をし、そして意識を手放した。


 王宮内の医務室で目覚めたら、人払いがされていたのか、枕元にオーキッド殿下だけがおられ、

「兄ほどの方がなぜ、このようなことを仕出かしたのか…。今となっては、憶測でしかないが…。きっと、兄上は、僕のために、こんな事を…。

 君も薄々気付いていただろう? 
 僕は、アリス嬢のことがずっとずっと好きだったんだ…。兄にも、君にも、本当に申し訳なかった…。」

 オーキッド殿下は、涙を浮かべていた。

「殿下…。私のほうこそ…。私こそ、他の方に心を奪われてしまっていました…。この命で償うつもりでした…。」

「うん…。それでも、幼き頃から、パールのほうにちゃんと向き合っていなかった僕が…。」


 オーキッド殿下と、私は、お互いに泣きながら別れを告げた。


 婚約破棄となり、家族に心配をされ、少し休学をしてみたら…との申し出を、無碍にはできず、休学届けを出すこととなった。

 届けを出すときに、身の回り品をまとめるから…と、無理を言って寮に戻ってみた…。

 うん。わかってる自分でも…。

 本当は、ひと目でいいから、彼の姿が見たかったんだ。


 長い休みがもう明けるというのに、まだまだ暑い中、各地に行っていた生徒達が、続々と戻って来はじめてる。


 学生達の波の中に、あの見事な赤毛が見えない…。


 婚約破棄された今となっては、学院を去らないといけなくなるかも…。
 未練がましく、あの、赤色を探しながら寮へと戻る。



 モダモダしながら荷物をまとめ、最後に、あのサクラと命名した樹の元へと向かう。


 今は、あの淡い色の花の面影もなく、鬱蒼とした葉に覆われている。

 そして、木漏れ日の中、あの、春の花びらの舞う風景に想いをよせ佇む……。


 バタバタと足音が近づくのに気付き、振り向くと、燃えるような赤色が…。


 その逞しい胸に包みこまれるように抱きしめられた。


 ✢✢✢✢✢✢✢




 あの方の寮に向かい、訪ねてみたが、一足遅かった…。

 部屋の中は、もぬけの殻となっていた。

 周りに訪ねてまわったが、ようと知れなかった。


 ふと、あの、サクラを思い出し、駆け込んでみたら…。


 サクラの木漏れ日の中に白銀が輝いていた。

 振り返り嬉しそうに微笑むあの方を見た途端、どう話しかけようかと考えていたことが全て消えた。


 抱きしめる俺の胸に顔を寄せてくる。


 やっと、やっと俺のもとに!

 口を開き、いきなり出た言葉は………。




 ✣✣✣✣✣✣✣




 金色の瞳で私の顔を覗き込み、なにもかもをすっ飛ばしてプロポーズしてきた彼。

 まったく、なんて男だろう…。


 婚約破棄されたばかりだったので、迷惑を掛けまくってしまったであろう父に請われ、侯爵邸へと戻り、日々を過ごすこととなった。


 邸に戻るとすぐに、正式な書面によって婚約が破棄された。父の説明によると、もう、良縁はないだろう…と。

 しかし

「嫁き遅れとなっても、大丈夫!家族中で支える!安心しなさい。」と、父に言われ、

 母と兄上達、

 そして心配のあまりに、嫁ぎ先から急遽里帰りした姉らに囲まれていて、愛され大事にされていると実感した。


 それから程なく、この国の国防の要となる辺境伯の

 三男との縁組の申し込みが舞い込んで来た。


 自棄になってないかと、心配されまくったのを説き伏せ、新たな婚約を交わし、

 そして、長い冬が終わる頃、学院に戻ることに決まった。




 ✢✢✢✢✢✢✢



 辺境の地を治める父に頼み込み、やっと婚約を申し込んだのだか、なかなか良い返事がもらえないまま、長い冬を辺境領へと戻り過ごした。

 氷と雪に囲まれ、愛しい人に会いたいのに会えない…。

 夢の中でしか会えないもどかしさに、寒さとともに身を切られる想いに、耐え続けた。


 サクラが咲く頃、辺境領の雪がとけ、やっと学院に戻る。

 とるものもとりあえず、

 約束の場所へと向かった。



 肩で、バッサリと切り揃えられた髪をみて、思わず絶句してしまった。

「ん?どうした?伸び過ぎていたからな。スッキリしたもんだろ?」なんて、はにかみながら言ってくれる。

 つい、ポロリと「綺麗だったのに…勿体ない」と零した俺に。

「これからは、お前の為に伸ばすとするよ。」

 そう言って、全開の笑顔を向けてくれる愛しい人…。


 春の陽光の中、彼の後ろでは、サクラが、咲き始めていた。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...