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大魔導師、隠居する
不思議な森の家 6
しおりを挟むバスルームからあがると、リリが脱いだ服は新品のような姿で足元に畳んで置いてあった。魔導式洗濯である。
「すごい…、同じ服とは思えない…」
でもマワーが着るには大きすぎるサイズといい、この野暮ったいデザインといい、色も布地もリリの服だ。新品になっているだけで。
マワーにとってすれば、服についた汚れを落とすために川で洗って時間をかけて干すより、魔導で汚れを無くす方が早いのだろう。どんな魔導を使って汚れを無くしたのかはわからないけれど。
魔導は凄いと頭ではわかっていても、目の当たりにすると驚いてしまう。魔導師の常識は普通の人からすると非常識で非日常だ。
半袖の服を一枚頭から被って頭を出したときに、脱衣場から廊下へ向かう角でなにかが動いた気がした。
「あ…」
それは、細長くて、マワーの屋敷に来たときにも見た。
トカゲの尻尾のような。
この屋敷には、ペットかなにかいるのだろうか。
巨大なトカゲかヤモリかはたまた蛇か。
じっと目を凝らして待っていても、尻尾はもう見えなかった。
服を着て、最初に通された部屋に入る。
マワーがリリに気づく。
「ゆっくりできましたか」
「はい、お湯を使わせていただいてありがとうございました」
「さ、座って足を見せてください」
「はい」
ズボンを捲る。
マワーのおかげで痛みは耐えられるくらいのものだ。まだ腫れている足首に数種類の薬草がおかれて、その上からマワーの手が重なる。
じんわり温かくなり、芯からくる鈍痛が和らぐ。
「ありがとうございます」
「いいえ、ゲストルームを用意しています。今夜はそちらで休んでください」
「あっ、そんなわざわざ…はい、ありがたく使わせていただきます」
「案内します」
マワーが用意してくれた部屋は、リリが生まれてこのかた見たことが無いくらい豪華で綺麗で広い部屋だった。まるで貴族か王族が使うような…。あ然としてしまって、腰が抜けたリリである。
ヘナヘナと崩れ落ちて、床に座り込みそうになったところをマワーに支えられる。
「大丈夫ですか」
「は、はい…」
マワーの腕が腰に回っている。
手が届くくらい近くにマワーの綺麗な顔があった。
わあっと心の中で叫び、頬が赤くなる。
「あの、大丈夫です、部屋が広くて豪華で…びっくりしてしまって」
そうっとマワーから離れる。マワーは一人で立っているリリを見てから手を離した。
「そうだったのですか、もう少し派手でも良かったのですが、明るくて寝られなくなったらいけないと思って地味目にしたのですが…」
「いえ…こんな豪華な部屋…はじめて見ました…」
マワーはこの部屋を金ピカにでもするつもりだったのだろうか。
「ゆっくり過ごせませんか」
「ち、違います。でも、こんな豪華な部屋…普段は野宿なので…」
リリは客人だ。いくら恐ろしいくらい豪華な部屋に頭がクラクラしていても、マワーの心遣いを無下にはできない。
「ありがたく使わせていただきます」
ペコリと頭を下げると、マワーは満足そうに「ごゆっくり」と言って出ていった。
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