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Side.A・八木輝之の告白
#5
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自分は決してイケメンではないが、女にはモテる方だと自負している。
ただ、一緒にいて楽しいけど、結婚相手としては軽すぎる――というのが八木の評価だった。
「分かってますよ、そのくらい」
『いじけないでよ、テル君。一緒にいて楽しいって悪いことじゃないじゃん』
電話の向こうで友人の女が笑った。
『こっちは4人。20代。現役看護師だよ。どう?今週末』
「人数集まったらな」
八木はそう言って通話を切った。
間髪入れずに、メッセージアプリに画像が送られてくる。
20代看護師の女性。なかなか可愛い子だった。女優の誰かに似ている。
八木は立ち上がると腕時計を見た。設計室のフロアを出て廊下を覗く。休憩室へ向かう倉見の後ろ姿が見えた。
「時間ピッタリだな」
八木は苦笑すると、スマホをポケットに突っ込んで休憩室へ向かった。
休憩室で缶コーヒーを飲んでいる倉見を見つけて、八木は近づいた。
「倉見、今週の金曜日ヒマ?」
余計な挨拶は抜き。こういう時、八木はいつもストレートには聞かない。
「なんで?」
そう聞いてくるのもお決まりのパターン。
「人数が足りないんだ~」
この一言でピンとくる。案の定、倉見は苦笑いを浮かべた。
(ほらな。お決まりのパターンだ)
結婚してしまったら、もう二度とこういう誘いはかけられない。
けど破談になった今は、またこうしていつもみたいに声を掛けられる。それが妙に嬉しくて、八木は何故か胸が躍った。
ただ、さすがにいつものようなノリで返事は返ってこない。
倉見は苦い顔をすると、「俺、まだそういう気分には……」と渋る。
気持ちは分かるが、こういう時はケツを押してやらないと、コイツはどこまでも落ち込んでいく。
今までの倉見を見ていて思ったことの一つだった。
(寝れば忘れる自分と違って、放っておくと果てしなく悩むからな)
少々強引だとは思ったが、「何言ってんだよ」と八木は発破をかけた。
「そんなこと言ってたら、あっという間に40過ぎるぞ」
そして送られてきた合コン相手の写真を見せる。
「看護師。20代。どうよ、このセッティング」
「どこでこういうの見つけてくるんだよ」
「知り合いの子だよ。そのお友達と4対4。なぁ、来いよ」
倉見が困惑したように笑う。気持ちの整理がつかない……も理由の一つだろうが、婚約破棄して早々、合コンに参加するのは倫理的にどうなんだ?という気持ちもあるのだろう。
いかにも真面目な倉見が考えそうなことだが――
しかし、喪が明けるのを待つ未亡人じゃあるまいし、そんなことをしてたら、それこそ本当に40を過ぎてしまう。
ただ、倉見の気持ちも分かるので、八木は少し気負いを無くすように言った。
「こんないい条件なかなかないぞ。気晴らしのつもりでもいいから来いよ」
すると、多少気が軽くなったのか、倉見は少し考えると「分かったよ……」と頷いた。
「そうこなくっちゃ!」
その返事を聞いて、八木は嬉しくなると「んじゃ、金曜な」と倉見の肩を叩いた。
気晴らしになってくれればそれでいい。
あまつさえ、それで倉見に新しい彼女が出来たとしても、今度こそ幸せになってくれれば嬉しい、と。
でも、八木は気づかなかった。
この時、倉見の心を占めていたのは、別れた女ではなく男だったということに。
ただ、一緒にいて楽しいけど、結婚相手としては軽すぎる――というのが八木の評価だった。
「分かってますよ、そのくらい」
『いじけないでよ、テル君。一緒にいて楽しいって悪いことじゃないじゃん』
電話の向こうで友人の女が笑った。
『こっちは4人。20代。現役看護師だよ。どう?今週末』
「人数集まったらな」
八木はそう言って通話を切った。
間髪入れずに、メッセージアプリに画像が送られてくる。
20代看護師の女性。なかなか可愛い子だった。女優の誰かに似ている。
八木は立ち上がると腕時計を見た。設計室のフロアを出て廊下を覗く。休憩室へ向かう倉見の後ろ姿が見えた。
「時間ピッタリだな」
八木は苦笑すると、スマホをポケットに突っ込んで休憩室へ向かった。
休憩室で缶コーヒーを飲んでいる倉見を見つけて、八木は近づいた。
「倉見、今週の金曜日ヒマ?」
余計な挨拶は抜き。こういう時、八木はいつもストレートには聞かない。
「なんで?」
そう聞いてくるのもお決まりのパターン。
「人数が足りないんだ~」
この一言でピンとくる。案の定、倉見は苦笑いを浮かべた。
(ほらな。お決まりのパターンだ)
結婚してしまったら、もう二度とこういう誘いはかけられない。
けど破談になった今は、またこうしていつもみたいに声を掛けられる。それが妙に嬉しくて、八木は何故か胸が躍った。
ただ、さすがにいつものようなノリで返事は返ってこない。
倉見は苦い顔をすると、「俺、まだそういう気分には……」と渋る。
気持ちは分かるが、こういう時はケツを押してやらないと、コイツはどこまでも落ち込んでいく。
今までの倉見を見ていて思ったことの一つだった。
(寝れば忘れる自分と違って、放っておくと果てしなく悩むからな)
少々強引だとは思ったが、「何言ってんだよ」と八木は発破をかけた。
「そんなこと言ってたら、あっという間に40過ぎるぞ」
そして送られてきた合コン相手の写真を見せる。
「看護師。20代。どうよ、このセッティング」
「どこでこういうの見つけてくるんだよ」
「知り合いの子だよ。そのお友達と4対4。なぁ、来いよ」
倉見が困惑したように笑う。気持ちの整理がつかない……も理由の一つだろうが、婚約破棄して早々、合コンに参加するのは倫理的にどうなんだ?という気持ちもあるのだろう。
いかにも真面目な倉見が考えそうなことだが――
しかし、喪が明けるのを待つ未亡人じゃあるまいし、そんなことをしてたら、それこそ本当に40を過ぎてしまう。
ただ、倉見の気持ちも分かるので、八木は少し気負いを無くすように言った。
「こんないい条件なかなかないぞ。気晴らしのつもりでもいいから来いよ」
すると、多少気が軽くなったのか、倉見は少し考えると「分かったよ……」と頷いた。
「そうこなくっちゃ!」
その返事を聞いて、八木は嬉しくなると「んじゃ、金曜な」と倉見の肩を叩いた。
気晴らしになってくれればそれでいい。
あまつさえ、それで倉見に新しい彼女が出来たとしても、今度こそ幸せになってくれれば嬉しい、と。
でも、八木は気づかなかった。
この時、倉見の心を占めていたのは、別れた女ではなく男だったということに。
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