大翼のアルスリア

手の平クルクル

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ねむねむあくび

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私の名はアルスリヤ。
アルスリヤ・ビギング。
何処にでもいる有翼種ハルピュイアの1人。
名前の由来は地上にあった「都市アスリヤ」をもじったのだと両親は言っていた。
とまぁ、そんな事はどうでも良いとして今現在の真っ最中。
しかも長老の長い長い話をかれこれ1時間も聞かされて暇で仕方ないのだ。

曰く遥か古の時代、地上の争いに憤慨した神が地上を死の大地へと変えただの、曰く我々有翼種ハルピュイアは神の慈悲により作られた浮遊島へ住んでいるだの、神は何時までも我等の事を見守って下さるだの
と大して興味の無い長話を永遠と語る物だからあちらこちらからイビキが聞こえていて羨ましいのなんの…
私も前列じゃ無きゃ今頃は夢の中に居ただろうに……
ともあれ、もうすぐで私も晴れて大人の仲間入りだ、少しの我慢は当然で─

「アルス、アタシもう限界なんだけど。」

隣に居る友人、イズルメが欠伸をしながら話しかけて来た。

「あともうちょっとなんだから我慢しなさいよ」

「だって爺ちゃんの話長いんだもん」

そう言ってイズルメは口を尖らせた。
そりゃ気持ちは分かる。
イズルメのジジイこと国長の話は何時も古から伝わる~から話が始まって永遠と昔話を聞かされてようやく大事な事を聞かされると思ったら「ワシは好きにしたらいいと思う」とか無責任な一言で終わるなんて事はざらにあるのだ。
だからまぁ、ここに居る誰も彼もが寝息を立ててるのは素直に言って理解出来る
それにイズルメが「親友だから一緒に座ってくれるよね?」なんて上目遣いで言ってこなければ後ろの席でトイレとかに抜け出すふりをして悠々自適に空を…あぁイズルメの欠伸が……ダメふぁ─

「─ふぁんなこといっふぁっふえ」

「アルス声大きいよ。」

「アンタのせいよ」

「痛った?!ちょっと何羽毟ってんのよ!」

「イズルメ声大きいよ。」

「はぁぁ?あのねぇ羽毟るのは流石に反則でしょ?髪の毛に続いて大事な女の命よ?!あんたのも毟って……ヤバ。」

「いきなりどうしたのよア─」

アンタと言いながらイズルメの視線を追うと壇上の端にいる何人かがコチラを見て何か……ヤバい。イズルメの母様が手を振ってる…しかも目が笑ってない。あの人本当に怖いから後で確実にお仕置コース突入だよこれ…。
思わずイズルメの横腹に肘を食い込ませて何事も無かったかのように姿勢を正し直す
どうか私だけでも免れます様にと母に向かって祈る

「いっ?!」

イズルメが小さく声を上げるとガタッと椅子から跳ね上がり大きな音を立てた……が国長には聞こえておらず念仏に似た長い話は途切れることなく続いていた。

「イズルメ声が大きいよ。」

「アルスのせいだからね。」

イズルメは恨めしそうに言い放ちながら身なりを整え背筋を伸ばし「とても素晴らしいお話ですわ」と言わんばかりの微笑みを長老へと向けていた。
ほんっと面の皮の厚さだけは人一倍のイズルメであった。
それから話が終わるまで何だかんだで1時間は掛かった
曰く健康の秘訣は早寝早起き朝ごはん。曰く毎日の運動は体に良い等の本当に本当に下らない話を聞かされ続け終わる頃にはイズルメはガーガーと寝息を立ててヨダレを垂らしながら寝ていた。
無論と言うか当然と言うかイズルメは終わった瞬間にイズルメの母さんからこっぴどく叱られている隙に逃げ出そうとしたけど……とあっという間に捕まって私も説教させられていたのは納得が行かない。


こうして成人の義は終わり、空よりも高きに住まう若き者達は新たな世界へと翼を広げる記念すべき日となるのである筈であるが、また別に2人の冒険の始まりでもある。
アルスリヤとイズルメ彼女達の穏やかで不穏な旅は始まる……のだ多分。
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