怜様は不調法でして

須藤慎弥

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第九話

☆☆☆☆

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 お腹が空いたと聞けば、映画の次はぬいぐるみだとソワソワしていた真琴をやんわりと説得するしかなかった。

 ファミレスで軽く食事を済ませ、奢らせてもらえなかった事に不満を抱きながらゲームセンターに入店する。 食事中もコアラの事が頭から離れないとばかりに落ち着きが無かった真琴は、一目散に目的の場所まで駆けた。

 UFOキャッチャーの台がズラリと列んだ間を幼子のようにはしゃぎながら駆ける背中を、俺は早足で追う。

 今日はいつも大学で背負っているてんとう虫柄のリュックではなく、濃紺に黄色の星マークが至る所にプリントされた、これまた派手なリュックだ。

 出で立ちはパーカーとジーンズでシンプルなだけに、奇抜なデザインのリュックは主張が強い。 てんとう虫柄のものより若干小さめなのが救いである。


「怜様、あったよ! これ! このコアラ!」


 追い掛けて行った先、真琴が指差したそこには件の胴長コアラが確かに横たわっていた。

 うん、と頷き、しばらく観察する。

 画像でも見せてもらい、さらに嬉々として熱弁をふるわれた真琴からの事前情報より、目前の対象物は俺が予想していた二倍はあった。


「……大きいね」
「怜様なら大丈夫! はい、軍資金!」
「えっ」


 左の手首を取られドキッとしたのも束の間、手のひらにジャラジャラと百円玉を握らされた。

 ザッと計算しただけで三千円分くらい。

 足りなかったら両替してくる!と意気込む真琴の、並々ならぬ胴長コアラへの執着に戦く。


「いや、これくらい俺が……」
「おれ達は友達なんだからそこは譲れない! これ使って!」
「……分かった」


 あぁ……それで映画も食事も奢らせてくれなかったのか。

 今までナチュラルに奢ってきた俺としては、その友達活動は少しめんどくさいよ。 大した額ではないし奢られてればいいのに……という不満は、真琴の見解を否定する事になるので出来ない。

 仕方なく、真琴から受け取った小銭を握り締めて胴長コアラ獲得に集中する事にした。

 アームは三本爪、重心は頭、取り出し口にシールドは無く、ゲットに不利なボールが敷き詰められた台でもない。 一プレイ二百円の台は初回五百円入れて三回プレイし、取り出し口への距離を詰める方が賢明だ。

 距離と角度はおおよそで測った。 うまくいけば早くて四回、しくじれば五回でゲット可能。

 プレイ前にこれほど真剣に対象物を眺める客など、俺以外他に居ないだろうな。

 けれど真琴が〝絶対に欲しい〟と言うから。

 こういうところの景品は世間では売られていない非売品、つまりゲームセンターのみでしか出回らない物が多いため、真琴はそのレア的要素にも惹かれていると以前話していた。

 その際も一時間は熱弁をふるわれ、その後ゲットに駆り出された。


「怜様、いけそう?」
「五回以内には。 まかせて」
「…………ッッ!」


 こんな事でドヤ顔をするのは極めて恥ずかしいが、キラキラした瞳で見上げてくる真琴とまともに目が合った俺は、俄然燃えた。

 俺にはその良さがあまり分からないけれど、やはりかなりの重量である胴長コアラに一目惚れしたと頬を緩ませていたからには、喜ぶ姿が見たい。

 計算と宣言通り、四回のプレイで取り出し口へと吸い込まれていったそれを真琴に手渡す瞬間、何とも言い難い高揚感で胸がいっぱいだった。


「──はい、どうぞ」
「わぁぁ! スゴイ! 怜様スゴイよ! やったぁ!」
「嬉しい?」
「うん!! めちゃくちゃ嬉しい! 怜様、ほんとにありがとう!」


 一メートルはありそうなフワフワしたコアラを抱え、真琴は破顔し俺から残りの小銭を受け取った。

 嬉しそう。 真琴のこんな笑顔、久しぶりに見た。

 俺まで嬉しくなる。 もっと上手な人なら四回とかからずゲット出来たのだろうか……と薄っすらよぎった堅苦しい不安も、この笑顔の前ではかき消される。


「……どういたしまして」


 胴長コアラを大事そうに抱っこして、愛おしい者を愛でるようにスリスリしている真琴に俺は見惚れていた。

 「怜様ありがとう」と言った真琴の言葉に距離を感じながら、その時またしても、彼の事を可愛いと思ってしまっていた。

 




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