必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 社長室のソファに腰を下ろし、秘書の女性がお茶を運んできたのでひとまず礼を言う。

 スケジュール帳を見ている社長を横目に、聖南は稀に見る苦笑を浮かべてHottiに視線を落としていた。


『これ葉璃に見せらんねぇな……』


 そこには、麗々が隙をついて唇を当ててきたあの一瞬がバッチリ載っていた。

 二人の格好も夜の営みを思い起こさせるもので、Hottiはファッション雑誌のはずがこの一ページだけはいやらしいそれそのものである。

 葉璃にはとても、こんなもの見せられない。

 平気なフリをして、確実に動揺しそうだ。

 しかもそれを聖南には言わず黙々と一人で思い悩み、そうなるとまた葉璃が聖南に壁を作ってしまいそうで怖い。


「私は再来週の土曜なら都合が付くが、セナはどうだ?」
「あ?  あぁ、……再来週な、ちょっと待って」


 雑誌を見て苦笑していた聖南は、スマホを取り出して今月の大まかなスケジュールを確認する。

 その日は午前に一つと午後二つの仕事が入っていて、午後の二つ目は隔週の生ラジオの日だった。


「あー……俺土曜はラジオ入ってっから二十時から二十二時半まで動けねぇよ?」
「ならば時間を早めて十八時開始の二十時までにしてもらうか。  仕事だからと早めに切り上げる口実にもなるぞ」
「それいいじゃん。  社長がこの日逃すとしばらく予定空かないって言えばいいしな」


 聖南が嫌々この話をOKしたのを知る社長は、早めに切り上げる策まで作ってくれた。


「じゃあその日で決めるが。  ……セナ、本当にいいのか?  決意してくれているものをまた鈍らせてしまうようだが、最終確認だ」


 お茶を啜る聖南は、社長の真剣な眼差しに「ほんとは嫌だ!」と叫んでしまいそうな気持ちをグッとこらえた。

 一度決めたのだから、やるしかない。

 どんなに嫌で逃げたくても、すでに聖南も聖南の父親も、対面しなくてはならない地位にまで来てしまった。


「いいよ。  腹括ってる」
「…………そうか」


 こう何度も会食の誘いがあるという事は、聖南の父親は聖南に会いたいのではないだろうかと社長はチラとそんな事を思ったが、聖南には言わなかった。

 幼い頃から聖南は苦労してきた。

 お金の面ではなく、精神的な面でだ。

 母親は一体誰なのか、未だに生死さえも教えてもらえず、頼りたかったであろう父親も滅多に家には帰らなかった。

 生活に困らないだけの金と、ハウスキーパーとベビーシッターさえ居れば子は育つと思っていたのか、聖南の父親は放任し続け、とうとう一度も聖南を愛さないまま手放した。

 事務所内に居る時間が多かったからか、途中危なげな時期はあったが何とか聖南はここまでしっかりと成長をしている。

 歌はもちろん、ダンスもとにかく覚えが早く、CROWN結成から二年ほど経つと曲まで作れるようになっていた。

 幼い頃からCMや広告モデル、ドラマや舞台の子役を務めてくれたおかげで、長く事務所の稼ぎ頭として働き続けてくれている聖南を、社長はもはや一タレントではなく息子のように大事に思っている。

 それ故、聖南の「腹を括った」という言葉にどれだけの覚悟と戸惑いがあるか、社長は充分過ぎるほどに分かってやっているつもりだった。

 話は終わったという事なのか、聖南は持っている雑誌を真剣に見詰めている。


「セナ、それは少し前に揉めていた雑誌ではないか?」
「何、社長の耳に入れないで解決したのに、何で知ってんの」
「仮にも私は社長だぞ。  知っているに決まっているだろう。  事情もすべて聞いている」
「なーんだ。  じゃあ社長の一声借りれば良かった」
「そんな事を言って、私に任せる気など無かっただろうに。  ……セナ、お前は恐らくあと三十年はこの世界のトップだ。  その調子で頑張れよ」
「これ以上頑張ったら死ぬわ!  てか話終わったんなら俺帰る。  明後日ツアーの事で広報部に来るから、またここ寄るよ。  社長の好きな煎餅買ってきてやるから、高けぇお茶用意して待っとけ」
「楽しみにしておこう」
「じゃな~お疲れ~」


 手土産持参を予告され、まるで父親のような気分だ。 愛想笑いではなく、心からの笑みを浮かべた社長は、その大きく眩しい背中を見送った。



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