必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 葉璃と過ごす時間は、なぜあんなにも一瞬で終わってしまうのだろう。

 弁当二つを完食した後もまだ入りそうな様子だったから、今度頼む時は三つか、下手すると四つは要るかもしれない。

 少しだけお腹が膨れた葉璃とソファでまどろんでいると、あっという間に夕方を迎えて葉璃を自宅まで送り届けた。

 いつもいつも後ろ髪引かれる思いで別れるのだが、昨日は葉璃の方が離れがたそうで、また連れ帰ろうかと思ったほどだった。

 そして帰りの車中で、葉璃は聖南が出演した昼の番組は見てくれていたかを聞くのをすっかり忘れていた事を思い出して一人で笑ってしまった。

 葉璃と居ると、自分の事さえもどうでもよくなる。

 自宅に戻った聖南は溢れる想いをまた抽象的な歌詞に書き起こし、メロディーを練っていった。

 聖南は作曲する際、歌詞が先行するタイプである。


『あれ誰かに歌わせんのかなー』


 聖南は午前の仕事を終えて、約束通り社長の好きな煎餅片手に社長室の革張りソファに陣取っていた。

 秘書がお茶を淹れてくれて口を付けていると、社長がのんびりと現れたのでサングラスを外す。


「お疲れっす」
「セナ、お前……またやらかしてくれたな」


 入室と同時に社長は完全なる苦笑いで聖南を見た。


「やらかしてねぇし」
「事務所の電話が鳴り止まないとスタッフから苦情がきているぞ」
「それは超ごめん」


 乾いた笑いを零し、「それ社長のおやつと社長の自宅用」と、デスク上の二つの上等な箱を指差しながら聖南もその煎餅をかじった。

 総合的に見て事務所内部が一番被害を被っているらしい事は、社長室に来る前に大慌てなスタッフ達を見て分かっていたので、素直に謝る。


「ありがとうな、自宅用まで。 妻が喜ぶ。 で、相手は誰なんだ?」


 社長は聖南にお礼を言うとまずお茶を一口啜り、若干嬉しそうに煎餅の箱を眺めて早速とばかりに核心を突いた。

 我先にとこの社長が聖南に連絡してきても良さそうなものだったが、聖南が「明後日行く」と言ったからか何も音沙汰はなかった。

 開口一番がそれだったので、どうやら気にはなっているらしい。


「あのさ、それなんだけど、誰かっつーのは社長にもまだ言えねぇんだ」
「何故だ。 一般の女性だからか?」
「いや、うーん……そこも何とも言えねぇ。 でも後々必ず、社長には打ち明けるから、それまで待ってほしい」
「……そうか」


 首を傾げる社長に、言い淀む聖南は煎餅一枚を平らげてお茶を啜った。

 葉璃のデビューが落ち着かなければ、とてもじゃないが言えない。

 打ち明けた時に、絶対的権力を持つ社長が万が一にでも反対した場合、葉璃のデビューさえ危なくなる恐れがあった。


「では何故だ、今発表する必要は無かっただろう」


 腑に落ちない社長の問いに、聖南はふぅと溜め息を吐いた。




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