必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 ETOILE。 フランス語で、星の意。

 綺麗な単語だと思った。

 聖南の名前の漢字みたいに、紙に記されたローマ字の意味を知るとキラキラっと輝いて見える。

 俺と恭也は、同じような態勢でそのユニット名を食い入るように見詰めていた。

 まだ当然、実感なんて湧かない。 俺達が『ETOILE』なんだって言われても、まるで他人事みたいな感覚。

 プロ意識が何なのかも分かってない、こんな不甲斐ない俺でもいつか……「希望の星」が馴染む日がくるのかな。


「夏のデビューに向けて、今日はひとまずお前たち二人にこの発表をしたかった。 後々の事は今はまだ考えなくていい。 二人には目先のやるべき事を精一杯頑張ってくれ」


 社長はそう言って俺達を労い、お茶とお菓子を振る舞ってくれた。

 とても手を付けられる雰囲気じゃなかったけど、俺はレッスン終わりで喉が渇いてたこともあってお茶を少し頂いた。

 聖南と社長の僅かな談笑の後、二人が同時に立ち上がる。

 それが解散の合図となった。


「ハル、恭也、CROWNのツアー同行の準備は進んでいるか?」
「はい、頑張ってはいます、けど」
「……CROWNのダンスは思ってた以上に難しいです。 もっとがんばります」


 何気なく社長から問われた俺達も立ち上がって、正直に答えた。

 ここで見栄を張っても仕方ないもん。

 聖南が居る前で言うのも情けないかな、と思いつつ、後日組まれている合同練習の場で嘘がバレちゃうくらいなら、今奮闘中だっていうのをアピールしといた方がいい。


「そうか。 CROWNもツアーのリハーサルが入り始めて余裕がないだろうが、空き時間見つけて教えてやれよ、セナ」
「おぅ、それは構わねぇよ」


 正直な俺達に聖南は悠然と微笑んで、会議室を出ようとまた柄の悪いサングラスを装置した。 気に入ってるのか、最近ずっとこのブルーレンズの細身のサングラスだ。


「それでは、お疲れ様でした」
「お疲れさまでした」


 二人で社長にペコッとお辞儀をして、俺達は会議室を後にした。


「あ、セナ、お前は少し残ってくれ。 数分だ」
「あぁ、いいけど。 ……葉璃、恭也、送るから下で待ってろ」
「……はい」
「分かりました」


 社長に引き留められた聖南に呼び止められて、俺と恭也は事務所一階のロビーで聖南を待つ事にした。

 自宅に連絡を入れてる恭也の隣で、俺は何となく背後を振り返る。

 会議室から出る直前に聞こえてしまった社長の台詞に、ちょっとだけ心が揺れていた。


『お前の親父さんとの会食なんだが、明日の十八時に料亭さくらで……』


 ……それは、聖南の過去を知る俺にとっては聞き捨てならない台詞だった。

 聖南と、お父さんが、……会食……? ……大丈夫なのかな。 どういう経緯での会食なのかは分からないけど、聖南がよくOKしたな。

 お父さんはどこかの会社の偉い人だって言ってたから、社長と聖南の関係を考えるとそんなにおかしい話ではないのかもしれない。

 でも聖南にとって “お父さん” というのは、親なのに親じゃない、複雑で悲しい対象。

 思い出すのも嫌だって言ってたくらいだから、いざ会うとなると相当な覚悟を持って臨むに違いない。

 普通の精神状態ではいられないよ。 ……それがもう明日に迫ってるなんて全然知らなかった……。

 元気付けてあげたいけど、聖南は俺にこの話はしなかったから隠しておきたいのかもしれない。

 それなら、聖南が自分から話してくれるまで待つしかない。

 気安く首を突っ込んでいい話じゃないし、聖南が打ち明けてくれるまで俺は何も知らない顔をして黙っていよう。

 俺なんかに出来る事は、……いっこも無い気がする。



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