必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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…  …  …


 アキラさんの車は、そんなに車に詳しくない俺でも知ってるセダンタイプの真っ白なベンツだった。

 左ハンドルだから俺は右に座ってるけど、聖南もアキラさんもケイタさんも良い車に乗り過ぎだと思う。

 助手席に乗るだけで緊張するじゃん…。


「……何ですか、これ?」


 高級車に萎縮して縮こまってると、アキラさんがふとワイヤレスイヤホンの一つを手渡してくれた。


「社長には俺が行く事話したんだ。 通話繋いどいてくれるらしい」
「え! もしかして、会食中の……?」
「うん。 社長も相当心配してるみたいで、もしセナが取り乱したら迷わず助けてくれって言われた」


 そんなに心配されるほど、聖南は決死の覚悟で会食に挑むんだ……。

 少なからず過去を知る俺は、聖南が取り乱したら助けてくれという社長の台詞に驚きはしなかった。

 充分、あり得る話だからだ。

 もし俺が聖南の立場だったら、きっと冷静に話をするなんて無理で、些細なきっかけでも激情を呼び起こしてしまう。

 そうなったら、聖南が我慢できるとも到底思えないし……。


「聖南さん、大丈夫かな……」


 とても趣のある料亭さくらを越えて、アキラさんは聖南にバレないように少し離れた場所のパーキングに車を停めた。

 車中でもずっと聖南の話をしてくれたアキラさんは、強いようでいて物凄く脆い聖南を見てきたと語っていて、子どもの頃は今以上に情緒不安定だったと教えてくれた。

 俺はごくごく普通の家庭で育ったから、聖南の気持ちを少しも分かってやれない。

 どんなに苦しかったか、寂しかったか。

 無条件に愛してくれる存在を知らない孤独を、聖南はたった一人で乗り越えてきた。

 無二の愛情はお金では買えない。

 いくらたくさんお金があっても、満たされない心はいつになっても埋まらない。 それを諦める前も、諦めた後も、聖南は悲しかったと思う。

 やたらと俺に同棲を急かしてくるのも、もう独りは嫌だっていう幼い聖南からのSOSのように感じた。


「……うっ………」


 聖南達が到着する前に料亭内の個室へ入り、アキラさんと横並びで座布団の上に体育座りした俺は、膝に顔を埋めて涙した。

 あまりに可哀想な子ども時代の話に、聖南本人じゃなくそれを端から見ていたアキラさんの話に涙が止まらなかった。


「……あいつ昔、「俺は絶対、一生親にはなれねぇ」って漏らしてたから、何でだって聞いたことあったんだ」
「……うぅ、……はい……」
「そうしたらな、何の感情も見えない表情でこう言ったんだ。 「愛された事がねぇから、俺は人を愛せねぇ。まず愛し方が分かんねぇもん」って。 CROWNとして活動し始めたくらいだったから、まだ高校生の時かな。 あの当時から、セナは何もかも諦めてんだと思ったのよく覚えてる」


 ほっぺたがびしょびしょになるくらい泣いている俺の頭を撫でてくれながら、アキラさんがティッシュを差し出してくれた。 それを箱ごと抱いて鼻をかむ。

 そんな切ない事を平然と言う聖南が容易に想像出来るって、すごく寂しい事だ。

 親っていうのは、子どもにとっては絶対的な愛の象徴なんだから。

 求めたくてもその方法すら分からない、与えられるもののない毎日はどれほど無だった事か……。 やっぱり俺には、分かってあげる事ができない。

 そんな切ない気持ち、味わった本人にしかきっと分からないもん……。


「だからさ、ハル。 俺……セナがハルに夢中になってんの見てるとすっげー嬉しんだよ。 愛し方分かってんじゃんって思う。 セナが入院してる時、俺が病院で言った事覚えてる?」
「……聖南さんは二つの顔を持ってる、バカ正直で明るい聖南さん、何でも一人で抱えて頑張り過ぎて自爆する聖南さん……。 あと、何があってもよろしくなって、そう言ってくれました……ううっ……」
「よしよし、もう泣くなって。 すげぇな、一言一句覚えてんじゃん」
「はい……まだ俺がどんな奴かも分からないうちから、アキラさんが言ってくれた事ですから……」


 しょっちゅう鼻をかんでいる俺に、アキラさんが困ったように微笑んでくれながらイヤホンを片方装着した。

 まもなく十八時になるらしく、隣の個室に客人を招き入れる仲居さんの声と、人の出入りする音が聞こえた。



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