必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
307 / 541
47♡

47♡2




 控え室に通された俺は、前回同様お茶を握りしめて深く沈み込むソファに落ち着いた。

 スマホのラジオアプリを起動させて、イヤホンを装着する。

 もうすぐ、CROWNのラジオが始まるんだ。

 すぐそこでやってるんだし、俺が一言「見学したい」と言えば実際の現場で生の三人のやり取りを見れちゃうんだろうけど……、さすがにそんな事は言えないから妄想だけしておく。

 というより、聖南はもちろん、アキラさんとケイタさんもまるで俺を囲んで話しているみたいに自然体だから、このラジオが俺はとても好きだ。

 リスナーさんも、みんなそうだと思う。

 テレビとはまた一味違う、より素に近い三人の声を聞けると思うと楽しみで楽しみで、聖南には言わないけど隔週放送なのが勿体無いよ。


「ふふっ……待ちきれないや」


 お茶を一口飲んでスマホを確認すると、五分後に迫る本番に三人があーだこーだ言い合う姿が目に浮かんで微笑ましくなった。


「でも聖南さん、……普段通りにお仕事できるかな……」


 俺だったらとても抱えきれなかっただろう、小さい頃の聖南の寂しさ。

 ついさっきの出来事なのに、脳ミソが勝手にもう忘れてしまおうとしちゃうくらいツラい時間だった。

 でも改めて、嬉しい事もあった。

 CROWN三人の絆は想像以上に強くて。 聖南は決して独りじゃない、家族のように思ってくれている人が間違いなく居るんだ。

 聖南の過去を知るアキラさんもケイタさんな、俺たちの付き合いを心から応援してくれてるって事も分かって嬉しかった。

 すごく貴重な話もたくさん聞かせてくれてたっていうのに、……その後だよ。

 社長が繋いでくれた会話内容は、とてもじゃないけど平静で居られなかった。

 なかなかお父さんと会話する気配のない聖南が、何事もなく、傷付く事もなくこの会食を終えられそうだと安心していた、その矢先。

 料理は頼まなくていいですってアキラさんには断っておいたのに、テーブルに並んだ二人分の食事に手を付けようと二人で箸を持ったところに、お父さんがいきなり聖南に話し掛けた。

 そしていくつかやり取りを交わした後の聖南の切ない怒りの言葉で、俺は涙が止まらなくなった。

 だって……。

 本当は愛してほしかったんだ。 ずっと「寂しい」という気持ちを抱えて、それを必死で隠してきたんだ。

 そう思うと、聖南が可哀想で可哀想で……。

 今になって、「本当はいつでもお前を思っていた」なんて、虫が良すぎる。

 お母さんが居ない特殊な環境だったんなら、お父さんがもっともっと聖南を構ってあげて、愛してあげなきゃいけなかったのに。

 いくら仕事が忙しくても、家に帰って寝る事くらいは出来たはずだ。

 小さな聖南をひとりぼっちで生活させておいて、大人になったから和解しましょう、は到底無理な話だと俺でさえも思う。

 悔いていると言うくらいなら、嘘を吐いてでも聖南を愛せなかった「理由」を告げて聖南に頭を下げるのが筋じゃないのかって。

 俺に抱き着いて離れなかった聖南は、まるで子どもみたいに「好き、好き」と言い続けていて、それは俺に無条件の愛を要求してるみたいだった。

 平気なフリをするのがどれだけツラかったか。
 どんな顔をして毎日孤独と戦ってたのか。
 家族を知らない聖南がどれほど愛に飢えていたのか。

 心から反省し、許しを乞わなければいけないはずなのに、聖南を思っていたなんて見え透いた嘘は吐いちゃダメだ。

 あの時間は、単に聖南の心をグシャッと握り潰しただけ。 お父さんの無神経さに、俺は怒りが治まらなかった。

 あんなに怒り、悲しんだ事は無い。

 勢いのまま個室へ乗り込むと、突然現れた俺に社長と聖南のお父さんは驚いて見てきたけど、そんなもの関係なくまくし立ててしまった。

 怒りの中で見たお父さんは悔しいけどとってもダンディーで、……つまり、聖南を渋くさせた感じだった。 歳を重ねたら聖南はこんな感じなのかなって、ほんの少しだけ未来の姿を思い描いた。

 ……なんて事は、聖南には絶対内緒だけど。

 俺はあの時、あまりの怒りで興奮し過ぎて頭から湯気でも出てるんじゃないかと思った。

 大好きな人を悲しませるなんて、それがたとえどんなに偉い人でも、血の繋がった親子だとしても、知った事じゃない。

 聖南を傷付け続けて、悲しませて、心の中で泣かせてしまうような人は、誰であろうと俺は許さない。




感想 3

あなたにおすすめの小説

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。