必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 過去が過去だからか、お父さんとの会食の前から聖南はたまに物凄く不安定になる事があった。 すぐに寂しがるし、ベタベタと甘えてくるし、俺を離さないって何度も抱き締めてくる。

 原因なんて分かりきっていて、聖南は幼少期に受けられなかった愛情を必死で俺にぶつけてるんだ。

 昨日のお父さんとの会食で俺がブチ切れた事で、聖南の中の侘しい思いを少しでも晴らせたのなら良かった。

 まだまだ心配だけど、聖南を覆い尽くしていた闇の殻を取り除くことが出来た俺は、聖南の今後のためにも離れた方が絶対にいい。

 「家族」を欲している聖南が、将来的には俺じゃない誰か……つまり、みんなから祝福してもらえるような相手の人を選んでくれたら、俺の逃げが後々良い事だったと分かってくれる。

 聖南ならきっと、彼を目一杯愛してくれる人が現れるはずだから……俺はもういいんだ。

 どうなっても。

 俺との事が公になった時の事を考えると、こうすることしか出来ないよ。 世間から、業界から、事務所内部から、聖南が後ろ指さされて芸能人生を絶たれてしまう可能性しかないのに、それを俺が平気な顔して跳ね除けられるわけない。

 そうやってぐるぐる考え込んでいると、突然佐々木さんのスマホが鳴って体がビクついた。 佐々木さんがスラックスのポケットからスマホを取り出すと、画面で相手を確認した後、なぜか俺を見てくる。


「……ん、春香からだ。 ……はいはい? ……あーっと、ちょっと待って。 ……葉璃、スマホの電源落としてる?」
「あ……落としてます」


 うっかりしてた。 時間も時間だし、春香に連絡しなきゃと思ってたのすっかり忘れてた。

 慌ててスマホの電源を立ち上げると、聖南はもちろん、アキラさんとケイタさん、春香、そして謎の番号からの不在着信の通知が山のように届く。


「うわわわわ……っ」


 通知音が鳴り止まないから、そのまままた電源を落とした。

 佐々木さんのスマホから、春香の物凄い剣幕の怒声が聞こえてくる。

 あまりの声量に佐々木さんもスマホを耳から遠ざけて、そのせいで対面している俺にもその悲鳴に近い金切り声が聞こえてきた。


『葉璃、佐々木さんと居るんですか!? もうっ葉璃ー! 今度は何したのよー!! 家にCROWN勢揃いだしよく分かんないけど俳優の荻蔵斗真さんも来てんのよー! 葉璃そこにいるなら早く帰ってきなさい!』
「…………聞こえた?」
「………………はい……」
「春香、落ち着いて。 一時間後に裏梨海岸に来いってセナさんに言っといて。 そこまで俺が葉璃を送るから」
『分かりました!! まったくもう! ネガティブ葉璃! 人騒がせなんだから!!』


 怒りのまま電話を切ったらしい春香の、般若のような顔が目に浮かぶ。

 俺が事務所から飛び出したせいで、どうやらみんなに迷惑をかけてるみたいだ……。 聖南とアキラさんとケイタさん、何故か荻蔵さんまで家に来てるだなんて信じられない。

 肩を落とした俺に、無表情の総長顔で「あーあ」と呟く佐々木さんは至って他人事だ。 ……当たり前なんだけど。


「なんかすごい事になってるぞー、葉璃。 今家に来てるのって、セナさんと葉璃の関係を知ってる人達なんだろ? みんな心配なんだよ、二人の事が。 これでもまだセナさんの想いを無理矢理断ち切らせようっての?」
「………………」


 ……そんなこと言われても……。

 俺はどうしたらいいんだよ。

 聖南のキャリアの邪魔だけはしたくない。

 俺に出来ることはこれしかないのに。

 普通とは呼べない、特別で特殊な関係だ。 愛し合ってるからって、どうにも出来ない事もあるんじゃないの……?


「……何がなんでも、聖南さんが後ろ指さされないように、仕事に影響出ないように、したいです……聖南さんが幸せなら俺も幸せですから、俺は我慢します」


 きっと出来るはず、聖南のためなら。

 決意は固いんですって思いを込めて佐々木さんを見詰めると、ジリジリと距離を詰めてきて俺の隣に座り直した。

 隣に来たからって特に触れて来たりはしないで、長い足をひょこひょこ動かして世間話をするように俺を諭し始める。


「まだそんな事言ってる。 ……それって葉璃はほんとに幸せなのか?」
「……え……?」
「卑屈な葉璃が戻ってきてるな。 こんな大事なことは一人で決めないで、セナさんと話し合えよ」
「や、やだ! 俺、俺……っ、聖南さん前にしたら、離れるって気持ち鈍りますもん!」
「鈍るんなら決意が甘過ぎ。 セナさんの事を第一に考えて離れるって言うなら、葉璃がもう少しセナさんの気持ちも考えないと。 これは逃げてるだけだと思う」
「………………」


 分かってんだろ?と、俺の頭に手を乗せた佐々木さんが、またもニヤッと総長の顔で微笑んでくる。

 その笑みにビクついて視線を泳がせていると、無表情に戻った佐々木さんにジッと見詰められた。

 まるでそれは、情けなくて弱い俺の心の中を覗いてるみたいだった。


「葉璃が別れ話を切り出したところで、セナさんは確実に別れないって言うだろ? それを葉璃が断ち切らせるって何か違くない? なんでお互い不幸になるやり方を選ぶんだよ」
「お互い不幸に……? なんでですか? だって、聖南さんの横に俺がいたらきっと邪魔になる……聖南さんが今まで築いてきた全部の事が無駄になっちゃうかもしれない……。 そんなの俺、耐えられないし、望まないです。 それなら聖南さんが幸せになる方を選びます」
「セナさんにとっての幸せって何?」
「…………え……?」



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