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聖南にとっての幸せ………?
そんなの、そんなの……。
「セナさんの幸せは、葉璃と一緒に居る事なんじゃないの」
佐々木さんはそう言うとお茶を一気に飲み干し、ペットボトルを投げてゴミ箱に放った。
俺はその佐々木さんの行動を呆然と眺めながら、聖南にとっての幸せが何なのかを考えていた。
聖南の幸せ、……。
「……で、でも……俺が一緒に居たら聖南さんは……」
俺たちの関係が万が一各方面に広まってしまったら、聖南が悪く言われてしまうかもしれない。
なんで “あの” 聖南の相手が倉田葉璃なんだって笑われちゃうかもしれない。
今まで関わってきた人達から後ろ指指されて、仕事が無くなっちゃうかもしれない……。
生まれた時から芸能界に居る聖南から、俺の存在一つでこれまでのすべてを取り上げてしまうかもしれない……。
聖南が俺のせいでこの先の未来が不幸になるかもしれないって分かってて、一緒にいられるわけがない。
社長だってそう言いたかったんだ、聖南の事を思うなら別れなさいって。
聖南が事務所にどれだけ貢献してるかこの目でしっかり見ちゃった後だから、俺は余計にそんな思いに囚われている。
それなのに佐々木さんは終始、聖南の肩を持つ。
俺の事好きって言ってたし、さっきも「据え膳?」って聞いてきたくらいだから、てっきり俺と聖南が別れる方に話を持っていかれると思ってた。
でも違った。
聖南の幸せは「俺と一緒に居ること」だって、分かってくれていた。
「……佐々木さん……俺、どうしたらいいんでしょう……」
一生に一度の誓いの言葉をくれた聖南に、二度と離れないよって約束して、俺達はしっかり分かり合ってた。
それが俺の本音で真意でもあるのに、一体どうしたら……。
「葉璃はセナさんと別れたい?」
「………………」
……別れたいはず、ない。
聖南のために最良な判断だと思うから別れた方がいいって思ってるのも、俺のほんとの気持ち。
俺のせいで聖南が傷付くなんて嫌だから、その原因である俺が離れれば聖南が傷付かなくて済むって、そう思ってるのもほんとだ。
どっちの気持ちも本当だから、俺は生意気にも八方塞がりだった。
「別れたいなら、別れればいいよ」
「違っ、わ、別れたいわけじゃ……っ」
「別れたくないのに離れたいってどういう事だよ。 セナさんの幸せを第一に考えての独断なら、それは相当危ない判断だと思う」
「…………っっ」
そ、そんなの分かってるもん……っ。
聖南を置いてけぼりにしたまま、自分勝手に突っ走ってまたみんなを巻き込んでしまってる事くらい。
でもしょうがないじゃん……聖南を守ってあげたいんだから……。
聖南を守れるのは俺しかいないんだから……。
「……厶ー……」
「厶ーじゃなくて。 ね、葉璃。 俺いまめちゃくちゃ微妙な立場から物言ってるの分かってるか? 俺、葉璃の事好きだったんだぞ? セナさんと別れたって聞いたらこの場で葉璃のこと押し倒したいくらい、まだ未練残ってる」
苦笑して立ち上がった佐々木さんはジャケットを羽織って、車の鍵を指で器用にくるくる回した。
一時間後に裏梨海岸で……って電話で言ってたから俺を送ってくれるつもりなんだって分かったけど、……なかなか動けない。
行ったらきっと、聖南が居る。 佐々木さんには甘過ぎると言われた決意が、……鈍る。
「…………未練、消してください」
「葉璃達がいつまでもそんなだと、俺もなかなか前に進めないでしょうが。 根暗だ根暗だと思ってたけど、ここまでとはな」
「ひどい……傷口に塩塗り込みましたね、佐々木さん……」
「たっぷりな。 葉璃にはこうやって叱咤しないと伝わんないって忘れてたよ」
「追い塩しないでください……」
「フッ……うまいこと言うね。 ……なぁ葉璃。 別れたいって意思が固いなら俺が沈めてやろうか、セナさん」
忘れた頃にやってくる総長に再度ニヤッと微笑まれ、穏やかじゃない台詞にビクッとした俺の体が自然と奮い立った。
恐ろしい言葉とその微笑みの裏には、ほんとにやるよって思いがしっかり込められている。
「は!? そんなのやめてくださいよ! 佐々木さんが言うとシャレにならないです!」
「あはは……! あのさぁ、こんな事言うまでもないんだろうけど、葉璃はセナさんと別れたくないんだよ。 だったらこれ以上セナさん怒らせない方が身の為だ」
超レアな佐々木さんの笑い声が聞けたと思ったら、またそんな事を言って俺の決意を鈍らせてくる。
佐々木さんは、「未練がある」とか言いながら間違いなく俺の背中を押してくれていた。
総長のオーラを纏わせて、俺の根暗な性分をしっかり理解した上で聖南の気持ちを代弁する、大人の余裕まで感じた。
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