必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
333 / 541
49♡

49♡8




 この場で冷静だったのは、佐々木さんただ一人だけだった。

 アキラさんとケイタさんが、キレた聖南から俺を守るように目の前に立ちはだかっていて、睨み合う二人の姿は隙間からわずかしか見えない。

 捕らえられていた手首は、アキラさんが聖南を宥めて解放してくれた。


「セナさん、あなたがそんなだから葉璃は度々不安に駆られるんです。 葉璃の事が大事なら、しっかり繋ぎ止めてあげてください。 葉璃からの好意もしっかり感じてあげてください。 葉璃を泣かせないでください。 セナさんが葉璃を大事にしてくれないのなら……」


 言いながら眼鏡を外した佐々木さんが、この日一番の総長オーラを滲ませて聖南に一歩近寄り、胸ぐらを掴んだ。

 俺とアキラさんとケイタさんは、ただただ佐々木さんの変貌ぶりに驚く事しか出来ない。


「俺が貰うって言ってんだろうが。 いい加減、痴話喧嘩はやめろ」
「………………」


 ドスの効いた声で聖南に詰め寄ったのを見て、俺は恐怖のあまり咄嗟に前二人の服を握った。

 総長佐々木さんはすかさず眼鏡を掛けていつものマネージャースタイルに戻ったけど、俺はもう、二度と佐々木さんをそういう風には見れないかもしれない。

 しかも、あの凄みにまったく動じてない聖南にも相当に恐怖を覚えた。


「……佐々木さん何者?」


 黙ってその光景を見ていたケイタさんが、ヒソヒソとアキラさんに耳打ちして、慄いてる俺にも優しい視線をくれた。


「さぁ? ……あの様子だと、昔のセナと似たようなもんじゃないの」
「すごいな、鉄仮面の下にはあんな素顔があったのか。 ハル君は知ってた?」
「……あ、はい……ちょっと前に佐々木さんが打ち明けてくれました」


 「へぇ~」と納得した二人は、聖南と佐々木さんに再び視線を戻す。

 キレた聖南が危ないって事を二人も知ってるのか、さりげなく俺を庇ってくれる気遣いがありがたかった。

 こんな事になったのは全部俺のせいなのに、非力で考えナシの俺は何も出来ない。 ぐるぐる一人で考えて、それが名案だと思って突き進もうとしても、みんながそれは違うって否定してくる。

 何をどうしたら、俺は不安と戦えるようになるの。

 現実には目を背けられないのに、俺は聖南を守る術なんか分からないよ……。


「おーい、社長と連絡ついたぞー」


 二人の服をさらにギュッと強く握ったその時、向こうから呑気に荻蔵さんが車内から出て歩いて来た。

 ピリついた空気を一瞬で崩すほどのんびりとした登場に、ケイタさんが苦笑を漏らす。


「うわ……荻蔵、やっぱ空気読めないな」
「ハルの家でも誰よりも寛いでたもんな」


 苦笑していたのはアキラさんも同じで、二人で俺を振り返ってきた。


「ハル、何も心配しなくていいんだからな。 セナはキレてはいるけど、ハルに怒ってるわけじゃないから」
「ハル君を失うかもしれないって、社長にめちゃくちゃ文句言ったらしいよ」
「えぇぇ……!?」


 そ、そんな………。 社長に文句を言ってほしくてあの場から逃げたわけじゃないのに…。

 事態が思わぬ所にまで飛び火していそうな気配に、背筋が寒くなった。

 どうしたらいいんだろう……俺はほんとに、どうしたら……。

 そして聖南は、どうするつもりなの。

 社長に何を言っちゃったの……?

 指先の震えが止まらない俺をよそに、佐々木さんを挟んだ荻蔵さんと聖南が、何やらスマホを持ってコソコソと話し始めた。
 俺を見つけてしまったばっかりに、関係ない佐々木さんをも巻き込んでしまってて、俺はほんとにどうしようもない気持ちになった。

 俺のせいだ。 俺が自分の気持ちだけで突っ走ったから、こんなにもみんなに迷惑かけちゃったんだ。

 今はもう、聖南と離れる離れないという当初のぐるぐるよりも、この現場の異様な状況で頭がいっぱいだった。

 間違いなく忙しいはずのこの五人を振り回した俺は相当罪深く、浅はかだ。

 ……謝っても謝りきれない。



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。