338 / 541
50❥
50❥3
夕方、青木が目を休めたいと言い出したので休憩を挟んだ。
これ幸いと聖南はスマホをチェックすると、仕事用のものに主管の渡辺から着信が入っていた。
ツアーの件で可能な限り連絡を取り合っていたので、聖南はすぐに折り返す。 昨夜は色々あり、渡辺が居ない間に途中退席した詫びも入れなければと思っていた聖南だ。
『あ、セナさんですかっ? お疲れ様です、渡辺です』
「お疲れーっす。 昨日はありがとうございました。 先に抜けてすみません」
『いえいえ! こちらこそ、お忙しい中ありがとうございました。 それでですね、あの……それが、副社長から言付けがありまして。 今から言う番号に早急に掛けて頂きたいのですが……』
「…………その番号って副社長の?」
『はい、そうです』
「…………分かった」
それどころではないのに、昨日の今日で早くもコンタクトを取ろうとしてくるとは思わなかった。
渡辺が口頭で告げた番号をプライベートのスマホの方に打ち込み、渡辺との通話を終了してすぐそのまま発信してみた。
「早急に」だ。 考える間もなく、恐らく葉璃との関係を問い質したいのだろうから、この件については逃げるわけにはいかない。
どれだけ父親と聖南との間に温度差があっても、あのような別れ方で去ったため気が進まなくとも、だ。
『はい、日向』
落ち着いた声音で、昨夜の記憶に新しい父親が電話口に出た。
声を聞いただけで複雑な思いが心に生まれる。 思わず切ってしまいそうになるのを堪え、数秒の間のあと聖南は声を絞り出した。
「…………俺だけど」
『聖南かっ? ……そうか、連絡してくれたのか。 ……ありがとう』
「何」
渡辺に言付けておきながら、父親は聖南からの連絡は絶望的だろうと諦めにも似た胸中で居たらしい。
安堵したように電話口で何度も「ありがとう」を繰り返され、聖南の心が僅かに揺れる。
謝罪の言葉よりも、感謝の気持ちを伝えられる方が、どうしていいか分からなかった。
『……聖南、昨日な、お前の恋人らしき人物から相当なお叱りを受けたよ』
「…………あぁ、知ってる」
聖南は頷いた。
俯きがちだった聖南の視線が、真っ直ぐに目の前のクリーム色の壁に移った。
やはり葉璃のあの激昂が、社長と父親にとっての決め手だったのだ。
父親との確執などどうでもいい。 水に流す事は出来ないが、これが自らの生い立ちであり過ぎた事なのだと受け入れられるきっかけになった、聖南を思うが故の葉璃の激怒。
『彼がその……噂の恋人なのか?』
「そう。 軽蔑するならすれば。 俺は本気だから別れる気は一切ないし、あいつの成人待って籍も入れるつもりだから」
『……籍を……? そうか、それほどまでに愛し合っているのか……』
父親の声を聞く限り、聖南が危惧した差別視的なものは感じなかった。
しかし、聖南はどう思われても構わないが、葉璃は違う。 まさに今回の聖南からの逃亡劇は、他人にバレてしまった時の恐怖が葉璃を突き動かしている。
『私が軽蔑するわけがないだろう。 もちろん驚いたがな。 ただ、あれだけ聖南を思ってくれている子なら安心だ。 私がロクでもない親だったばかりに、聖南に悪影響を及ぼしているのではと懸念していた』
「なんだよ、悪影響って」
『……聖南が人を愛せない人間になってやしないだろうか、とな。 本当は、……もっと前からこうして連絡を取り合いたかった。 だが私も怖かったのだ。 昨夜ので痛感したが、聖南は私を憎んでいるだろ』
「憎んではない」
『…………どんな思いとて好意的でないのは分かっている。 当然の報いだ。 ……また近々メシでも行かないか。 嫌かもしれない、受け入れられないかもしれない、……だが聖南の父は私だ。 歩み寄りたい。 今からでも遅くはないと、……信じている』
「………………」
───なぜだろう。
昨日よりも落ち着いて父親の話を聞く事が出来ている。
電話の向こうで父親が項垂れているような気配もして、聖南は眼鏡を外して目頭を押さえた。
───歩み寄りたい……か。
これまでの事を思えば、そんな簡単な問題ではないと突っぱねてすぐさま電話を切りたくなっても仕方がない。
だが聖南はジッと、父親の言葉に耳を傾けた。
聖南の気持ちを代弁するように、他でもない愛おしい葉璃が怒りも顕に父親へ思いの丈をぶつけてくれたおかげで、もはや言いたい事は何一つない。
とどめを刺されたと悲観して愕然としていたが、その剣先は丸くて柔らかい、抜いてしまえば出血など起きない程度の物だったのかもしれない。
傷口が思ったほど深くないのは、紛れもなく葉璃の存在とあの共鳴があったからだ。
あなたにおすすめの小説
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまいネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
表紙は、Pexelsさまより、suzukii xingfuさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!
文章にはAIを使用しておりません。校正も自力です!(笑)