必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 翌日のレッスン終わり、春香と自宅近くのファミレスで待ち合わせて夜ご飯を済ませ、その場で佐々木さんの到着を待っている。


「佐々木さんが協力してくれるなら何もかもうまくいくね~!」


 呑気な顔で味のしない炭酸水を飲む春香は、ニコニコとご機嫌だ。

 昨日はあれから佐々木さんに春香の提案をダメ元で話してみると、佐々木さんこそが大乗り気だった。

 でももう本番まで日がないから、話を詰めるなら早い方がいいって事で、俺と春香は佐々木さんの到着を待っている。


「……悪い、お待たせ。 何か食べた?」


 スーツ姿のいつもの佐々木さんが、俺達を見付けて駆け寄ってきた。

 俺の前に座ってる春香の隣に腰掛けて眼鏡をクイッと上げている佐々木さんとは、そういえばあれから会ってなかった。


「食べましたよ~! 佐々木さんは?」
「俺はまだ仕事残ってるからいいよ。 とりあえず話だけな」


 目の前の佐々木さんが、もの言いたげに俺をジッと見てくる。

 春香の言う失踪事件からすでに二週間は経ってるけど、もはや俺には総長にしか見えない。

 怖い…なんてビビってる暇もなく、忙しそうな佐々木さんをいつまでもここに居させるわけにはいかないから早々に話を切り出す。


「……佐々木さん、可能なんですか? 俺がmemoryのライブに出るなんて……」
「友情出演って形なら可能。 ただ葉璃のスケジュール次第って言い方させて。 向こう一ヶ月のスケジュールって今分かる?」
「あ、はい。 ……スマホで申し訳ないんですけど」
「あぁ構わないよ。 ……んー……葉璃、これは結構無理しちゃうかもしれないけど、大丈夫?」


 俺のスマホを受け取ると、佐々木さんはそれを見詰めて少し唸った。

 CROWNのツアー同行の前に、俺はETOILEとしてのデビューに向けて本格的に動かないといけない。

 再来週にはデビュー曲のMV撮影がニ日かけて行われるし、その間もレッスンの傍らマネージャーの林さんと広報部の人と共に様々な方面へ挨拶に行く。

 デビューに向けての準備はCROWNのツアー同行の前に色々終わらせて、社長曰く七月中旬のデビュー会見を待つという流れだ。


「大丈夫、だと思います。 振付に関しては心配してないんですけど、今事務所違うからそれはどうなるんだろって……」
「葉璃達のマネージャーは誰だっけ?」
「林さんという方です。 新卒で入って来てる新しい方だから、佐々木さんは知らないかも」
「あぁ、林な。 分かった。 林と大塚の事務所には俺が話付けるから、六月二十二日は完全フリーにしてもらう。 memoryのツアーリハはもちろんこっちのダンススクールでやる事になるけど、合流出来そう?」


 な、なんで佐々木さん、他事務所なのに林さんの事を知ってるんだろう。

 お父さんが大塚事務所のスカウトマンだからって、新卒マネージャーである林さんの事まで知ってるなんて驚いた。

 いつも思うけど、佐々木さんって一体どんな情報網持ってるのかな。

 とにかく佐々木さんが事務所には話を付けてくれるらしいし、俺の疑問は解決されたから一息のつもりでココアを一口飲む。

 そこで気付いた。

 佐々木さん、何も注文してない。


「葉璃の合流って、時間的に間に合わないとかないですか?」
「いや、それはいけると思う」


 ちょうどいいところで春香が佐々木さんと話し始めたから、俺は座席番号を確認してからソーッと席を立った。

 ウェイトレスのお姉さんに座席番号を伝えて、佐々木さんのアイスコーヒー(ドリンクバーでは飲めないやつだ)を頼んでから何気なく席へと戻る。


「元々うちのスクールは原則二十二時までで、他と比べてレッスン場開けてる時間長いだろ。 葉璃が今通ってる大塚のレッスン生徒は遅くとも十九時には解散となるはずだ。 それからツアーリハに合流する事になるから、葉璃が無茶する事にならないかって、それだけ心配」
「あ……それなら大丈夫です。 今までのスクールとレッスンのおかげで、かなり体力付きましたから」
「ほんと~? レッスンから帰ってきたら葉璃そのまま寝てる事多いじゃーん」
「だ、大丈夫! 一ヶ月限定だし、頑張る!」


 果たしてプレゼントになるかは分からないけど、聖南への想いを伝えられるのなら、どんなに大変でも頑張りたい。

 悩んでてもぐるぐるしててもいいって言ってくれた聖南に、俺も、「好きでいていいならとことん好きでいます!」って想いを伝えたいんだ。

 まるで俺の気持ちを歌詞にしたような曲を、春香が今このタイミングで歌っているという奇跡。

 しかも、応援のつもりで出演してほしいっていうお願いを聖南の誕生日の日にされるなんて、また「必然」を感じていた。


「あ、私お手洗い行ってくるね」
「うん」


 席を立つ春香のために、佐々木さんが一度立ち上がると今度は俺の隣に腰掛けてきた。


「今度は影武者じゃないのに出てくれるんだ?」


 ビクビクしかけた俺が恐る恐る眼鏡の奥を見てみると、その瞳は総長とは程遠く、今日はとても優しげで何だか安心した。

 佐々木さんと会うのはあの騒動ぶりだから、何となく気まずいかなって思ってたけどさすが大人だ。

 何にも無かったフリをしてくれてる。


「はい。 ……春香にお願いされたからっていうのもありますけど、一番の決め手は歌詞だったから……」
「歌詞? ……あー、なるほど。 全部読めたぞ」
「えぇ……っ? 佐々木さん、ほんと何者なんですか!」


 どうして俺が引き受けたのかをすぐに悟った佐々木さんは、本当に鋭い。

 俺のあの時の騒動と結び付けたとしても、佐々木さんの頭の回転の早さにはついていけないと思った。


「ん? 何者って、ただのマネージャーだよ。 六月二十二日ってセナさんの誕生日だろ。 それだけで分かるよ」
「……そうですか……」
「あ、セナさん達招待するなら関係者席確保するから」
「え! いいんですかっ?」
「葉璃の頼みとあらば。 そういう事なら、いま作戦練っちゃおうか」
「さ、作戦っ?」


 俺の顔をまじまじと見ていた佐々木さんは、いたずらっ子のように瞳を細めて笑った。

 その三分後、俺がさっき注文したコーヒーが運ばれてきた事で、それに驚いた佐々木さんはひどく上機嫌だった。



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