必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 聖南は優しい。

 たとえ下心があったとしても、わざわざ仕事の合間に来てくれたのは、俺にとって大きな精神的な活力になった。

 初めて男の姿でヘアメイクされて、スタッフの人に促されるままに演出チェックを受けて、カメラの前で何度もデビュー曲を踊って……。

 訳が分からないままたくさんの大人に見られながら、カメラにジッと撮られて俺が緊張しないはずはなかった。

 キラキラな姿で現れた恭也は相変わらず颯爽としてて、注文された事にテキパキと応じてたけど、俺はなかなかうまくいかない。

 監督さんから何度もダメ出しを食らって、そろそろ心が折れそうって時に聖南がふらりと現れた。

 俺のソロ撮影の合間だったけど、横目に聖南の姿が見えた瞬間、力が漲るのが分かった。

 がんばらなきゃ。

 そう奮い立たって、ソロ撮影はほとんどNGナシでやりきれた。

 単純に、すごい事だと思う。

 大好きな人が視界に入っただけで意欲が湧いてくるなんて。

 明日もこの気持ちを忘れないでがんばろう。

 そうやって俺を奮い立たせてくれる聖南は今、食事の後のコーヒーを嗜んでいる。

 外食から帰宅後すぐにシャワーは済ませたからすぐにでも寝られるんだけど、俺はソファで聖南の膝の間に座らせられていて、二人でのんびりと部屋から見える夜景を楽しんでいた。

 この何気ない時間が、聖南特製の甘いコーヒーをいつも以上に美味しく感じさせてくれる。


「……早く大人になれよ」


 コーヒーをテーブルに置きながら俺のお腹を支えた聖南が、ボソッと呟いた。


「聖南さん、それ前から何回も言ってるけど、そんなすぐには無理だよ」
「……分かってる」


 聖南は何度も、この言葉を言う。

 いつも深刻そうな顔で独り言みたいに呟くから尚さら意味深に感じて、その先の言葉を待つけどそれは教えてくれない。

 大人になれって、どういう事なんだろ。

 後ろからぎゅっと抱き締めてきた聖南が、唐突に甘えん坊モードに入ったらしい。

 俺の首筋をクンクン嗅いでくるから、たぶん……そういう事。


「ん、……聖南さん、くすぐったい」
「葉璃を堪能中だから我慢して」
「何それ?」


 きっと聖南は真面目に言ってるんだろうけど、堪能するほどのもんかなと思うと可笑しくて笑ってしまった。

 くすぐったくて身を捩っても、さらに強く抱き締めてくるからまったく身動きが取れない。

 抵抗を諦めた俺は、聖南の胸に体重を乗せた。


「聖南さん寂しかった?」
「…………うん。 死ぬほど」


 肩口に鼻を擦り付けてきながら、素直に頷く聖南の事が愛しくてたまらない。

 俺は聖南へのサプライズプレゼントの練習で、マジで毎日ヘトヘトだった。 慣れないレッスン当初よりも、今の方が体力的にかなり無理をしてるのも事実だ。

 スマホなんて時間を確認するためだけにしか触れなかった毎日のせいで、聖南がジメジメしちゃうほどほったらかしにしてしまい、サプライズどうこうの前にこれじゃあ元も子もないじゃんって反省した。

 聖南のためにがんばってたけど、その聖南を蔑ろにしてしまったのは完全に俺の落ち度。

 寂しい!会いてぇ!と電話口で叫ばれた時は、言葉が出なかったもんな……。


「ごめんなさい、聖南さん。 ……ほんとぉぉにごめんなさい。 でも聖南さんも、俺の事考えてられないくらい忙しかったでしょ? もう来月末からツアー始まりますもんね」
「それとこれとは別。 仕事は仕事、葉璃は葉璃」
「……駄々っ子みたい……」
「駄々っ子でも何でもいいよ。 傍に居てくれるんなら何とでも言え」


 俺と一緒に居る時の聖南は、テレビでのアイドル様の印象とは少し違うようになってきた。

 飽きる事なくスリスリして甘えてきて、俺が離れる事を許さないって抱き締めてくるこの聖南が、ほんとの聖南なんだろうなと思う。

 まるで、「愛をちょうだい」って言ってるみたいな愛情表現の仕方に、俺は毎度毎度ノックアウトされる。

 俺より二十センチ以上も大きな聖南が、背中を丸めてぎゅっとしてきてると思うと、愛し過ぎてドキドキして……かなわない。


「好きだよ、聖南さん」


 あんまりにも愛しい気持ちが溢れてしまって、ついポロッと出てしまった。

 言った途端、聖南の動きがピタ…と止まる。


「……コーヒーまだ飲む?」
「え? いや、もう全部飲みましたけどおかわりはいらな……」
「カップはテーブル置いたままでいい。 俺と葉璃のスマホの電源落としてきて」
「えっ……?」


 動きが止まったかと思えば、聖南の膝の間に居た俺もろとも勢いよく立ち上がらされた。

 そして妙な事を言い始めたから、どういう事だって聖南を見上げるとギラついた瞳で見下ろされる。


「ベッド行こ。 葉璃からおねだりされたから、今日は我慢無理」
「えぇっ? お、おねだりしてないけど!」
「したじゃん。 しよって」
「言ってない! 好きって言っただけ!」
「それ。 それがおねだり。 俺ローション温めてくっからいい子で待ってろ」
「えぇぇっ」


 今の今まで、可愛いなぁとさえ思っていた聖南が突然、エッチの時のギラギラした瞳で俺を見ていた。

 何で急に!?って戸惑いながら、さっさとバスルームへ向かった聖南の背中を見詰める。

 でも言う通りにしないと「早く」って急かされそうだから、俺達のスマホの電源を落として、カップは聖南のも一緒にキッチンに持って行ってパパッと洗った。

 コーヒーなんて入れっぱなしにしとくもんじゃないし、なんて、こんな時でも冷静な俺が居た。

 なんて、嘘だ。 ………ちょっとした時間稼ぎ。

『ローションを温めてくる』。 そんなダイレクトに言われたら先が見えちゃって、ベッドルーム行くのが怖くなるじゃん……。

 ていうか、俺……また知らないうちに聖南の雄のスイッチ押した、の?



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