必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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──────


「はーい、OK! お疲れ様ー! ETOILE、MV「silent」クランクアップでーす!」
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様!」


 監督さんのOKと同時に、あちこちから拍手が湧いた。

 午前十時から始まった撮影は、約九時間後の十九時に終了となり、お昼と午後の小休憩以外は俺達はもちろんスタッフさんにも気の休まる時間が無かったはずだ。

 それなのに、スタジオにいる全員が俺達に拍手を送ってくれている。

 その言いようのないポカポカした場が出来上がった瞬間、疲れなんか吹っ飛んだ。

 無事に終わって安心したのと、全員の優しさに感動してしまって、我慢出来ずに目頭が熱くなってくる。


「恭也……ありがとう……。 ……嬉しい。 俺すごく嬉しい……みんなも疲れてるのに……」


 全員に注目されてるから涙を見せたくなくて、隣に居た恭也の背中に回り込んで引っ付いた。


「葉璃、お疲れ様。 ……俺もありがとうだよ。 ちゃんと俺を、引っ張ってくれたね、よく頑張ったね」


 俺が泣いてるのに気付いた恭也は、そのまま動かなかった。

 その労いの裏にある、恭也の俺への優しさにも涙が止まらない。


「恭也が居たからだよ! ……ありがとう、恭也。 お疲れさま。 恭也……」


 何があっても、この恭也となら乗り越えられる気がする。

 芸能界という新しく大きな壁に立ち向かうためには、俺の隣は恭也じゃなきゃダメだ。

 盟友、……そして何もかも分かり合った、大親友である恭也とじゃなきゃ。


「あれ、ハルくん泣いてる?」
「ほんとだ! ホッとしたんだね~! 初々しいなぁ」
「今時MV撮影のクランクアップで泣く子いないよ」
「頑張ったね。 物凄く緊張してたでしょう?」


 俺達がその場から動かないから、スタッフさん達の方から駆け寄ってきてくれた。

 俺は涙を隠し切れなくなって、恭也の背中から思い切って出て行くと口々に温かい言葉をくれる。

 すべてが初めて尽くしで、何度もやり直す箇所があったド新人の俺達を見て、きっとイライラもしてたはずのスタッフさん達の優しい視線と声掛けにも何度も励まされた。

 自分が嫌な思いをしないように、誰にも傷付けられないように、人と関わる事を避けてきた俺にとっては目から鱗だった。

 世の中はそんなに怖くないのかもしれない。

 悪い人ばかりじゃないし、ちゃんと向き合えば同じだけ気持ちを返してくれるんだって、そんな事も知らずに生きてきたんだ俺は。


「すみません、情けないですよね……。 あの、……皆さん、……何度も何度もやり直したり、間違えたり、したのに……優しくしてくれて、ほんとにありがとうございました……! 皆さんもお疲れさまでした! 俺達のために力を貸してくれて、ありがとうございました……!」


 泣きながらだから言葉が詰まってしまったけど、俺はとにかく感謝を伝えたくて、深く深く頭を下げた。


「俺も、葉璃と同じ気持ちです。 本当にありがとう、ございました。 お疲れ様でした」


 恭也も俺の隣で頭を下げた気配がして、そのままの態勢で俺達は労いの笑みを交わし合った。

 俺はうまく笑えてたか分からないけど。


「……君たちみたいな子は初めてだよ」
「もらい泣きしてしまいそうっ! ハルくん、恭也くん、お疲れ様!」
「感動しちゃうなぁ~」


 監督さん含むスタッフさん達がそうやってまた優しい声を掛けてくれるから、涙は一向に止まらない。

 ……ほんとに、ほんとに、安心した。 今日は聖南が来れないって言ってたから、俺は不安で仕方なかったから……。

 スタッフさん達はもちろん、恭也にもいっぱい支えられて俺は全力を出し切った。

 やれば出来るんだ……って、ほんのちょっとだけ、自信がついた気がする。

 ───聖南、俺、がんばったよ。 聖南が言ってた通り、外の世界はそんなに怖いところじゃないのかもしれないね。

 私服に着替えて、メイクを落としてもらいながら瞳を瞑っていた俺は聖南を思い浮かべてた。 そして、恭也となら大丈夫だっていうそのふわふわと漠然とした小さな自信が昨日と今日で確信に変わった。

 聖南を追い掛ける事ができるかもしれない。

 弱いままの根暗な自分を、ちょっとずつでも変えていけるかもしれない。

 胸を張って、聖南の隣に居られる日がくるかもしれない。

 満ち足りた歓喜の気持ちのまま、俺と恭也はフィッティングルームを出た。

 スタッフさん達は後片付けがまだ残ってるのに、見送ってくれようとスタジオから出てこようとしてて……。

 そこまでしなくて大丈夫ですって、また泣きそうになってしまった。

 そんな俺達の背後から、今誰よりも会いたかった人の声とスタッフさん達の慌てふためいた声がして、振り向いてみるとそこには───。


「あ、もうアップした感じ?」
「セナさん!」
「どうしたんですか、今日も二人の応援にっ?」


 眼鏡姿の聖南が、スタジオ前に悠然と立っていた。

 昨日も聖南が来てから急にスタッフさん達が慌て始めていた。 まさか今日も来るとは思ってなかったらしくて、みんなの表情が硬っている。

 ……監督さんまで。


「そうそう、応援に。 アップしたのか。 お疲れ様、恭也、葉璃」
「ありがとう、ございます」
「……ありがとうございます」


 俺と恭也に心からの笑顔をくれた聖南が、ふと真顔になってスタッフさん達へと向き直る。


「皆もお疲れ様でした。 これからも二人をよろしくお願いします」


 そう言って恭しく、深々と頭を下げた。

 先輩としてのその慎ましい行為に驚いた俺と恭也は頷き合って、聖南と一緒に頭を下げた。

 ───何があっても、大丈夫。

 そんな明るい予感に打ち震えながら、緊張の糸が解けた俺は知らず安堵の笑みを浮かべてしまっていた。



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