必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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54★

54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備完了〜①

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 俺と葉璃は、マネージャーの林さんと事務所の広報の人三名と、色んな会社に赴いた。

 レコーディングと製造に携わる会社各々、いくつものスタジオ、各出版社、各テレビ局等々。

 本来はここまで細かくアーティスト直々に挨拶回りはしないらしいけど、大塚芸能事務所は各方面に顔が利くから、今後のためにも行った方がいいという社長のお達しだ。

 こういう時、緊張してどもってしまう葉璃を庇ってあげるのが、俺の役目だった。

 学校帰りの夕方から一時間くらい、計三週間を要した挨拶回りで、葉璃は日に日に疲弊していって、心なしか痩せてしまったようにも見えて心配だったけど、MV撮影の頃にはまた顔色がよくなってきてて安心した。

 デビュー会見日が決まってから本当に慌ただしく、今週からCROWNのツアーリハにも十九時まで合同で行う事になっている。

 セナさん達は仕事の関係でバラバラにやって来たり、来れてもいつも二十時以降みたいだから、今集まっているCROWNのバックダンサー九人と俺達でリハを進める事になるようだ。

 いつもとは違うレッスンスタジオとバックダンサーとの初対面の前に、ジャージに着替えた葉璃はいつものように可愛い顔が強張っている。

 俺も緊張してるけど、葉璃ほどはないから勇気を出して率先して中へと入った。


「失礼します」


 一声掛けると、集まっていた九人から一斉に視線を浴びた。


「お疲れーっす」
「君らかぁ、ETOILEって」
「社内報回ってきた時から会ってみたかったんだよなー!」
「まだ高校生なんだって?」
「レッスン場違うから会う機会無かったもんな!」
「おぉ、見てくれはさすがだな」
「君が恭也で、その後ろに隠れてるのがハル?」
「おーい、ここ怖いお兄さん居ないから出てきていいんだぞー?」
「お前ら同い年?」


 …………圧がすごい。 九人も居るとさすがに対応出来ない。

 年末のパーティーや決算月のパーティーで色んな人と話をして免疫を付けた俺でも、ここまで口々に話し掛けられるとつい黙ってしまう。

 頭がショートしそうになるな。

 背後に隠れている葉璃はそんな俺より動揺していて、ずっと俯いてしまってる。

 ……いけない。 こういう時は俺が引っ張ってあげるって約束したんだから、頑張らないと。


「合流が遅くなってしまって、すみません。 ETOILEの恭也と、この子が葉璃です。 よろしく、お願いします」
「…………葉璃です、……よろしくお願いします」


 それぞれが違う事を言ってたから、それは無視してとりあえず自己紹介をしておく。

 九人の年上のダンサーからジーッと見られている葉璃は、少しだけ体をずらして全身を晒し、ペコッと頭を下げた。


「はーい、よろしくねー」
「恭也はレッスン生の時レッスン被った事あるよな」


 ……え、そうだったんだ。

 ツーブロックの茶髪の男性からそう言われたけれど、俺も葉璃のこと言えないくらい人見知りだから、申し訳ないけど顔なんか覚えてなかった。


「はい。 そうでしたね」


 覚えてない、なんて言えないから、きちんとその人を見据えて返事を返す。

 賑やかな男達を前に、葉璃はずっと緊張の面持ちでまた俺の背後に隠れようとしていた。

 その腕を素早く取った紺のジャージを着た一見チャラそうな人が、葉璃の人見知りを察知したのか優しく笑顔を向けてくれている。


「なぁ、ハルめちゃくちゃ可愛いんだけど」
「なんかハルは、大丈夫?って印象持っちゃうな。 ほんとに踊れんの?」
「君達やるのはCROWNのデビュー曲と去年夏のシングルだったっけ?」
「一回流してみる? 振り。 デビュー曲の方」


 どうしても、小柄で可愛くてオドオドした葉璃の方にみんなの興味がいっちゃうから、自然と注目が集まってしまう。

 来て早々だけど、ツアー開始まで二週間を切ってて、早く合わせないとって気持ちもあるから葉璃を振り返って顔を覗き込む。


「……葉璃、できそう?」
「うん、……。 やります」


 その言葉に、ひどく安堵した。

 こうやって知らない人に取り囲まれる葉璃は、俯いてガチガチに固まってしまうけど……。

 曲がかかると、まるで別人のように動ける事を知ってる俺は、みんなの驚いた顔を早く見たいと思ってしまった。


「じゃあ恭也は左端、ハルは右端な」
「ポジション移動はCROWNさんと話し合うから、とりあえずはその場で」
「はい」
「はい」


 スタンバイ位置が俺と端っこ同士で離れてしまい、不安そうな葉璃と鏡越しで目が合った。

 『恭也~~』と、視線ですら泣きべそが聞こえてきそう。

 とっても可愛いけど、ちょっと可哀想だ。


「じゃ曲流すよ~」


 大きな鏡の前で、十一人の男達が一列に横並びになっている様は圧巻だ。

 俺も神経を集中させる。

 散々練習したイントロから入り、AメロBメロと曲が進んでいくと、九人の視線が鏡越しにも明らかに葉璃へと注がれていくのが分かった。

 曲と合わせた振付けを的確にこなしていく小柄な葉璃の動きは、ダンススクールで、しかも趣味程度でたった三年で培ったものとは思えないほど華麗だ。

 俺でも、たまに葉璃のダンスには見惚れる事がある。

 上背がある俺は、力を込めて踊ると大袈裟に見えてしまうけれど、葉璃は小柄さ故に身振りを大きくしないといけない。

 でもそれを本能的に分かっているかのように、周囲を逸脱したキレの良さとセンスでこの場の誰にも見劣りしない……いや、それ以上に圧倒されるほどの動きだった。

 可愛くてかっこいい、キラキラした素敵な葉璃が、そこには居た。



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