必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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54★

54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備完了〜③




 セナさんとケイタさんが俺達の隣に張り付き、アキラさんがみんなの前に歩む。

 俺はその様子を固唾を呑んで見守った。


「分かってると思うけど、ここはCROWNのツアーリハをやる現場で、仲良しごっこをするための場じゃない。 セナが半年以上掛けて企画計画に携わったライブを完璧なものに作り上げて、来てくれたファンの子達を後悔させないためにお前らにも協力してもらうんだ。 いつも関わってくれてるお前らがオタオタして騒いでどうすんだよ。 恭也とハルの人間性見て、先輩としてしっかり支えてやってくれ」
「葉璃と恭也だけが特別ってわけじゃない。 人ってのは色んな奴がいる。 この二人……特に葉璃はお前らの周りに居なかったタイプだろうから戸惑うのも分かるけどな、ダンスが好きっていう最大の共通点あんだから、理解してやんのも難しい事じゃないはずだ」


 黙ってられないのか、セナさんもアキラさんに続いた。

 葉璃を庇うためだけじゃなく、この先関わる人は色んなタイプの人間が居るから、この程度で騒ぐなって言外に聞こえる。

 このツアーはセナさんが長い時間を掛けて練りに練ったものだから、ファンの人達を悲しませるようなパフォーマンスは絶対に許されない。

 俺と葉璃がこんなだからって、努力してこなかったわけじゃないから。

 本当に本当に、毎日ヘロヘロになるまでレッスンをこなして、家に持ち帰ってまで練習してきたこの半年間。

 とっつきにくくてやりにくいだろうなっていうのは、俺達は重々承知してる。

 でも、初対面で難色を示すのは早すぎだって俺も思う。

 ……もしかして、三人揃ってここへ来たの……葉璃のため、なのかもしれない。

 九人もの知らない大人の輪の中で、葉璃がどういう状況になるのか分かってた上で、来てくれた。

 それが完璧に予想通りだったから、こうして三人とも落ち着いて話をしてるんじゃないかな。

 俺はそろりと葉璃を窺う。

 俯いていた顔を上げて、目線は遠くだけどしっかり前を向いていた。

 葉璃も分かってるはず。 きっと、ここまで庇われて黙ってる子じゃない。

 思った通り、話すタイミングをはかっていた葉璃は自身のお腹付近のジャージをギュッと握って、


「あ! あの、あの……!! ……すみません、俺こんなだから……皆さんや恭也に迷惑しか掛けないと思いますけど、練習中や本番は迷惑掛けないって約束します……! ウザッて思ったら無視していいです、俺気にしないんで!」


とやっとの事で絞り出した声でそう言うと、深々と頭を下げた。

 ……最後の一言は余計だよ、葉璃……と苦笑しかけた俺は、チラッとセナさん達を窺うとやっぱり吹き出す寸前だった。


「い、いや、ウザいとかは思わないから……」
「もしかして人見知りな上にネガティブ入ってる?」
「わ~マジか。 俺らマジでそんなヤな奴らじゃないから、安心してよー?」


 セナさん達が窘めて、さらに葉璃がようやく自分の思いを話した事で、彼らも何となく俺達を理解しようとしてくれる雰囲気になった。

 まず一曲を通して、俺達……主に葉璃のポテンシャルを認めてくれてたみたいだから、それはとても容易い事だったみたいだ。

 言うべき事は言ったとばかりに、葉璃はじわじわと後方へ下がって俺の背後に戻ってきた。 まだドキドキしてるのか、胸元をギュッと握って深呼吸をしているのが鏡に映ってる。

 張本人である葉璃の言葉で場が和み、セナさん達は靴紐を結び始めた。


「よし、じゃあサクッと流すか。 さっきどっちやったの?」
「デビュー曲っす」
「そんじゃ次は去年のな。 葉璃、恭也、サイドに散って」
「はい」
「……はい」


 また離れるの?と言いたげに俺を見てきたけど、しょうがないから、葉璃の頭をぽんぽんと撫でて俺は持ち場についた。

 セナさん達は一列に並んだ俺達の後ろに居て、真ん中にセナさん、俺側にアキラさん、葉璃側にケイタさんがそれぞれスタンバイしている。

 この曲はデビュー曲とは比べものにならないくらい難しかった。

 覚えてしまえば、音と共に手足は自然と動くようになったけど、体に入るまでが本当に大変だった。

 俺達のデビュー曲「silent」は複雑な動きはあまりなくて、歌詞に沿った流れるように切ない振り付けだからわりとすんなり体に入った。 でもCROWNの曲は、すべてケイタさんの振り付けらしいけど動きが細かくてとても複雑だ。

 抜群のセンスを持つ葉璃も、「手と足がバラバラにならない!」って、なかなか上手く踊れない自身に苛立っていた。

 そんな日々を懐かしむ事が出来るのも、練習の甲斐あって難なく踊れるようになったから。

 オドオドな葉璃もさっきと同様、曲がかかるやみんなの視線を釘付けにしてしまっている。

 鏡越しにも分かる、葉璃の美しい動き。

 小さく口ずさみながらリズムを取る、天性の才能。

 入れてしまえば勝手に体が動くって葉璃は簡単そうに言うけど、俺自身にダンスのセンスがあるようには思えないから、その言葉の意味がちょっと分からない。

 俺みたいに、覚えてしまえば動ける、とは訳が違う。

 鏡越しにセナさんを見てみると、葉璃にしか視線はいってなかった。

 見惚れてる、と言っていい。

 葉璃のダンスは男臭さを一切感じさせない、だからといって女性的でもない。

 最近大人びたかもって気付いてしまった容姿のせいか、危う気な妖艶さと今までの可愛さが合わさっていて、見る者を一瞬で虜にさせる……まるで綺麗な花の周囲を飛び回る華麗な蝶々みたいだ。



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