必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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54★

54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備完了〜⑤




 二人は腕を組んで呆れ顔を浮かべている。

 庇ってあげたいと思う俺も、葉璃のリアルな声を聞いてしまった手前まだドキドキが鎮まらなくて、苦笑が止まらない。


「終わるまで、見張りしてるんで……アキラさんとケイタさんは、どうぞ練習に、行ってください」
「そうは言ってもなぁ……。 あ、出てきたじゃん」
「思ったより早いな」


 二人の視線の先を辿ると、ほっぺたが真っ赤になった葉璃とご機嫌なセナさんが現れた。

 セナさんと葉璃の関係を知ってるからこそ分かる、意味深な雰囲気が二人の間には漂っている。


「みんな揃って何してんだよ、こんなとこで」


 俺達を見て飄々と言ってのけるセナさんは、相当強者だ。

 どこまでしちゃったのか知らないけど、葉璃が少々疲れた顔してるから、何かあった事は間違いない。

 ……まさに情事の後って顔してるよ、葉璃……。


「お前らこそナニしてたんだよ」
「ちょっとな」
「そのちょっとは家でやれって! 何でセナはそんな堪え性ないんだよ!」
「仕方ねぇじゃん、葉璃見てたらムラムラすんだから」
「っっ聖南さん!!」


 ケロッと言い返すセナさんに、葉璃は、俺が一度も見た事のない怒った顔を向けた。

 みんな立ってるのに俺だけ座ってる変な状況だけど、色んな意味で脱力してて立てないんだ。

 アキラさんとケイタさんは本気で叱咤してるのに、セナさんはポケットに手を突っ込んでのらりくらりとかわしてるから全く耳に入ってなさそう。

 対して葉璃はほっぺたの赤みが一向に引かない。 熱を持ってるのか、しきりに両手で触れて冷まそうとしている。


「ったく……恭也がここで見張ってくれてたらしいよ?」
「二人とも場所をわきまえろよ……」
「おっ、マジで? 恭也悪いな」
「……そ、そんな……! 恭也……ごめんね……? も、もしかして何か聞こえたり……」
「聞いてない、って言ったら、嘘になる。 ……すぐ扉閉めたから、たくさんは、聞いてない」


 ここで見張ってた、なんて、何か起きてるのを見付けたから出た台詞なわけで、嘘は吐けなかった。

 俺が正直に言うと、ほっぺたの赤味がみるみる広がって、耳まで赤くなった葉璃が怒った顔でセナさんを見上げて唸る。


「き、き、き聞こえたっ……!? ~~ッ聖南さん!」
「最後までしてねぇんだからそんな怒んなよ。 かわいーだけだぞ」
「~~ッッ! しばらくアレ禁止!!!!」


 人目を気にしてなのか、小声でセナさんにそう言い放った葉璃はタタタ~っと階段を駆け下りて行った。

 アレの意味がその場に居た全員に分かったところで、セナさんが慌てふためいて葉璃を追い掛けて行く。


「はっ!? バカ言うなって! 無理に決まって……ちょっ、おい!! 葉璃!!」


 いつも余裕綽々なセナさんの、あんなに動揺した姿は初めて見たかもしれない。

 葉璃の怒りはごもっともだ。

 やめて、と言っていたのにセナさんが無理強いするから……。


「なんだ、今の茶番……」
「まったく……。 ハル君があれだけ怒るのも無理ないよ……」


 アキラさんとケイタさんは揃って溜め息を吐いていて、俺もそれにつられて大きく息を吐いた。

 見てるこちらが照れてしまうほど真っ赤になっていた葉璃を見ると、セナさんの自業自得感は否めない。

 しかも俺は、実際に聞いちゃいけない声を聞いちゃったからなぁ……。


「恭也、ハル向かえに行って、今日はさっさと連れて帰ってやって」
「……はい、分かりました」
「うちのボスがごめんね。 恭也、ハル君のフォローよろしく」
「出来るだけ、やってみます」


 三人で階段を降りて更衣室へ向かおうとしたら、プンプン怒ったままの葉璃が私服姿で出て来た。

 その後を追うセナさんの声なんか無視して、「恭也、帰ろっ」と先を歩いて行ってしまう。

 振り向きもしなければ、歩むスピードはどんどん加速している。

 …………珍しい。 当然なんだけど、あれは相当怒ってる。


「葉璃~~~! 頼むから仲直りしてから帰れよ~! ごめんって~!」
「セナ! こんなとこでそんな情けない声出すな!」
「ダンサーの子らが聞いてたらどうすんだよ!」
「知るか! あっ、あいつマジで帰りやがった! 仲直りしないまま帰りやがったぞ!」


 さっきまで、ポケットに手を突っ込んで気だるげだったセナさんが今やその影もない。

 凹んでるのを隠そうともしないせいで、アキラさんとケイタさんも慌てて止めに入った。 葉璃を追い掛けるべく走り出そうとする腕を両サイドから取って、行かせまいと頑張っている。


「そんだけ頭にきてんだろ。 ハルの怒りが冷めるまでソッとしといてやれ」
「今日のは完全にセナが悪い! ハル君が怒るのも無理ないから仲直りなんて考えない方がいいよ!」
「何でだよ! いつでもどこでも俺は準備万端なんだからちょっとくらい……」
「だからそのちょっとは家でやれって何回言わせんの!」
「セナ、お前は準備万端でもハルはそうじゃねぇだろ。 たとえハルから誘ってきたとしても、「あとからな」って言ってやんのが大人だ!」
「はぁ!? すぐもあとからもやる事一緒だろ!? 俺は欲望に忠実なだけだっ」


 二人から交互に叱咤されてるセナさんは、もはや人間味あふれる恋に溺れた一人の男だった。

 セナさんにこんな一面があるなんて知らなかった。

 いつもの調子で、俺に付いてこいって葉璃をリードしてくれてるのかと思ったら、本人に自覚があるのか知らないけど、どうやら手綱を握っているのは葉璃の方みたいだ。

 葉璃に夢中なんだなって分かるから、俺はセナさんの言い分も少しだけ理解できてしまう。

 早く葉璃を追い掛けないとって分かってたのに、思わず笑ってしまうくらい三人のやり取りが面白いからついその場に立ち竦んでいた。


「恭也、もう行っていいよ! この獣セナは俺らが叱っとくから!」
「ハル見失わねぇうちに早く行ってやれ」
「……はい。 お疲れさま、でした。 ……ぷっ」


 三人に背を向けてやっと、吹き出す事が出来た。

 CROWNって、ツアーは追加公演まで即SOLD OUTで、テレビや雑誌で見ない日はないってくらい人気絶頂のアイドルなはず、……なんだけどな。

 今そこに居たのはまるで、喧嘩してる三兄弟みたいだった。



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