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54★ 葉璃のサプライズ計画〜本番〜②
時間ギリギリまで行われたmemoryのリハーサルは、それはそれは圧巻だった。
ダンススクール出身の選りすぐりの精鋭達によるパフォーマンスは、リハーサルの段階でも常に全力で、観てるこっちも手に汗握った。
素晴らしかった。
一曲目から、来てくれる大勢のファンの人達が総立ちになる事必至だ。
リハーサルではまだ各々の私服やジャージ姿で、これが本番はみんな可愛らしい衣装を身にまとうとなると、舞台がより華やかになるだろうから、楽しみでしょうがない。
葉璃はいつものジャージ姿で振り付けをこなしてたけど、贔屓目で見てしまったから誰よりも一番素敵だったし、着飾った姿じゃなくても充分可愛かった。
一曲目は、以前聴かせてくれた、葉璃の想いが代弁された歌詞のあの曲。 ポップな曲調で楽しげなのに、詞は切なくも愛に溢れている。
佐々木さんの猛プッシュだと言っていた二曲目はなんと、バラードだった。 memoryが秋に発売する曲らしくて、これもまた求愛ラブソングだ。
バラードだから動きはそんなに無いかとイントロで思っちゃったんだけど、いい意味でそれは覆された。 可愛くて妖艶で、比べるまでもなく女性的な振り付けなのに、葉璃は見事にみんなに馴染んでいて……たいしたもんだと感動した。
『愛してると言って』
サビ部分に、こういう歌詞がある。
葉璃は口ずさみながら踊るから、これをセナさんに向けてやるとどうなるんだろう。
セナさん、呆気にとられて葉璃に見惚れちゃうんじゃないかな。
こんな素敵なサプライズに協力できるなんて嬉し過ぎる。
一人でニヤニヤしていたら開場時間となり、続々と客席が埋まり始めた。 メインステージから客席を分け入ってセンターステージがあるから、その周りを取り囲むように客席がある。
ちなみに関係者席はメインステージから向かって右前方で、一般客席とは柵と通路で仕切られている。
百八十度が客席の二階席、三階席が、開演時間が迫ってくるとあっという間にファンで埋め尽くされた。
開演までの時間、大きなBGMと特大画面に流れるmemoryのPVにより、ファンの人達もかなりの興奮状態でその時を待っている。
関係者席に座ってその様を間近で見ていた俺と葉璃は、他人事みたいに「すごいね」と言い合っていると、葉璃のスマホが振動したらしい。
「あ、聖南さん着いたって。 迎えに行ってくるね」
「うん。 行ってらっしゃい」
何度もリハーサルを重ねるうちに、この広いステージ上で踊る事への緊張はさほど無くなってきたみたいだ。
人で埋め尽くされた現状を見ても、「一人一人の顔があんまり見えないから大丈夫かも」と余裕な発言までしていた。
本当に大丈夫?って内心は心配だったけど、せっかく葉璃が手のひら文字に頼らなくて済みそうなのに水を指しちゃいけないし、そこは何も言わずに頭を撫でておいた。
「よ、恭也。 俺どこ座ればいい?」
マスクをしたセナさんが、少しだけ猫背になって右手を上げてやって来た。
その長身と、マスクでは隠しきれない目元のカッコよさで早くも関係者席から近い人達にヒソヒソ話をされてるけど、今セナさんはmemoryを応援に来た一観覧客だからそんなものは無視だ。
「あーっと、聖南さんは真ん中で」
「アキラとケイタも向かってるってよ」
「そうなんですね。 無理してないといいけど……」
「大丈夫だろ。 ドラマの撮りっつっても待ちが多い場合もあるからな」
「聖南さんドラマ出た事ないじゃないですか……」
「あ、こんにゃろ! また俺をイジる気だろ!」
「イジらないよ。 アキラさんとケイタさんが来るまでは」
「アイツら来たらイジる気なのかっ? 小悪魔葉璃ちゃんめ……」
「ふふっ……」
仲良しな二人の掛け合いは、聞いてて幸せな気持ちになる。
あの根暗だった葉璃が、今こんなに可愛く笑えてるんだもん。
一昨日のセナさんとの喧嘩?は、セナさんが電話で謝り倒して葉璃が折れたみたいで、無事仲直りしている。
対して俺の方はあの後、見た事もないほどぷんぷんしていた葉璃を宥めるの、すっごく大変だったんだから……。
「あ! いよいよだ……!!」
ホール内が暗闇に包まれた。
葉璃がキラキラした瞳で舞台に注目していると、唐突に照明で辺りは明るくなり、暗転中にスタンバイしていたmemoryのメンバー達が現れた。
「春香……みんな……がんばれ……!」
大きな会場での初単独ライブとあって、memoryのメンバーみんなも葉璃と同じように緊張しきりだった。
開場直前までみんなと一緒にいたせいで、葉璃はすでにうるっときてしまっている。
セナさんも真剣にみんなやステージ上を見詰めていて、リハーサルで何度も見ていた俺も夢中になってパフォーマンスを見守った。
程なくしてアキラさんとケイタさんも関係者入り口からやって来て、セナさんの向こう隣へと腰掛けて観覧している。
───もうすぐだ。
セットリスト九番目の曲が終わろうとしていたところで、葉璃が立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「一人じゃ心配だから俺も行く」
佐々木さんの予想通り、セナさんも行くと言い始めた。
この時のフォローのために、俺がいる。
「大丈夫ですって。 すでに近くのお客さんからは聖南さん達が来てるってバレ始めてるのに、ウロウロしないでください」
「トイレの位置分かんの?」
「葉璃、関係者入り口から右に曲がって、真っ直ぐ行ったら、出演者用のトイレあったよ」
「じゃあそこに行ってくる」
「だから俺も行くって」
「……セナさん、さすがに一緒にトイレは、一昨日の事もあるし、やめた方が……」
「あ、あー……思い出させんなよ……」
俺の最後の台詞で、立ち上がろうとしていたセナさんを無事足止めする事に成功した。
行ってくる、と、葉璃は俺に小さく頷いて関係者入り口から出て行く。
いよいよ、葉璃のサプライズライブの始まりだ。
───頑張って、……頑張って、……葉璃。
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