必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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─聖南─



 葉璃の影武者で何度か一緒になった事のあるmemoryだったが、ここまで飛躍的に成長するとは思ってもみなかった。

 七人のメンバーと、バックダンサー十一人による素晴らしいパフォーマンスは、収録のようなあのこじんまりとしたスタジオでは物足りなかったわけだ。

 こういう大きな会場でこそ、memoryは実力を発揮する。

 葉璃が通っていたダンススクールは、所属事務所とは経営陣は異なるらしいが運営元は一緒なのだろう。 発掘すべき人材をよく分かっている。

 聖南は観覧客としてというよりも、どうしても同業者……ひいてはプロデュースする側としても見てしまう。

 アキラとケイタも真剣にそのステージを見詰めている事から、目を奪われているに違いなかった。

 束の間の休憩も兼ねたフリートーク中、なかなかトイレから戻らない葉璃を聖南は心配していた。


「なぁ、遅くね? 俺やっぱ見て来る……」
「……セナさん、トイレくらいゆっくり、させてあげて下さい」
「え? いや、それは分かってんだけどな。 ちょっと遅せぇよ。 もう何分経ってると……」
「セナさん、大丈夫ですから。 あと一分待って、戻らなかったら、俺見てきます。 セナさんが動くと、騒ぎになります」
「あ、あ? ……あぁ、うん。 分かった」


 葉璃を探しに行こうとする聖南をやたらと引き取めてくる恭也に違和感を感じながらも、真っ当な事を言われては強引にもなれない。

 そうこうしているとフリートークも終わり、メンバー達が次の曲のポジションに付き始めた。


「おい、もう次始まんぞ。 なんでこんな戻って来ねぇの?」


 一分待って戻らなかったら探しに行ってくれると言っていた恭也は、少しも焦る事なく聖南の一つ向こうの椅子に腰掛けたままだ。

 何かあったのではと焦れた聖南が立ち上がろうとしたその時、アキラの信じられない台詞が遠くで聞こえた。


「あ……おい、……セナ。 あれ……ハルじゃね?」
「……はぁ??」


 すでにライブも中盤だというのに、今さら葉璃と春香を間違えているのかと、聖南は半笑いでステージ上を指すアキラの指の先を追った。


「──────ッッ!?!?」


 その姿を確認した聖南は椅子が壊れる勢いで立ち上がり、瞳を見開いてステージ上の人物を凝視する。


『葉璃!? え!? ……なんでそっちに居るんだ!?』


「あ! ほんとだ! ハル君じゃん!!」


 驚いて言葉が出ない聖南をよそに、葉璃に気付いたケイタも驚きの声を上げた。

 たちまち曲が始まってしまい、大混乱中の聖南は静かに着席するも前のめりになって着飾った葉璃の姿を見詰める。


『待て待て待て待て……! どういう事だ!? 春香はあっちに居るし……影武者ってわけじゃねぇよなっ?』


 バックダンサーと同じ衣装に身を包んだ葉璃が、聖南の右斜め前でmemoryのメンバーと共に振付けを完璧に踊っていた。

 上はセーラー服をモチーフにしたような長袖で、下はかなり短めのホットパンツにお尻からくるぶしまでを覆うように薄手のヒラヒラが付いている。

 足元は少し踵のあるロングブーツなのだが、葉璃は難なく振りをこなしていて目が離せない。 頭には小さなベレー帽帳のヘッドアクセサリーを付けていて、葉璃は髪型こそいつも通りなようだが少しだけメイクをしているように見えた。

 全身が薄いピンク色で、メンバーには悪いがあの衣装は葉璃が一番似合っている。

 誰よりも可愛い。 

 宇宙一可愛いと思った聖南の欲目は間違っていない。


「い、いや、待て、どういう事だ、これは」


 聖南はボソッと動揺を呟き、意味不明な事態を前に現実逃避していた己を叱咤する。


「え、セナ知らなかったんだ?」


 驚いてはいるが、ケイタに問われてもなお視線は葉璃を追う。

 いくら考えても、葉璃がステージ上で舞っている姿の説明が思い付かない。

 こんな事、誰が予想しただろうか。


「知らねぇよ! 俺に隠し事すんなって言っといたのに!」
「とびっきりの隠し事ですよね」
「っっ!?! 眼鏡マネ……!!」


 唖然としていてまったく気が付かなかったが、突然の声に振り返ると、葉璃が座っていた椅子にいつの間にか佐々木が居て、オペラグラスでステージを眺めていた。

 佐々木がそこに居た事よりも、彼の持つ素敵な物の方が今の聖南には重要だった。


「ちょっ! いいもん持ってんじゃん!」
「セナさんのもあります。 はい、どうぞ」


 寄越せ、と言うより早く、佐々木は聖南にも同じ色のオペラグラスを貸してくれた。


「サンキュー! ……っしゃぁぁ! なんか全然状況分かんねぇけどガン見してやんぞ!!」


 聖南は借りたオペラグラスで葉璃を探し当てると、必死にその動きを追う。

 今までの影武者では見た事のない、元気で快活なダンスに心が踊った。


『俺に隠し事してたのは嫌だけど……これなら許す!!』


 どんな事情があったのかは知らないが、ステージ上で華やぐ葉璃の姿が拝めるのならすべてチャラだ。

 可愛い。 そして動きはいつもながら素晴らし過ぎる。

 曲と、照明と、衣装とで葉璃の華は何十倍にもなっていて、バックダンサーであるはずの葉璃に向かって聖南は右手を振り続けた。


「かわいー!! やべぇ、やべぇよ! ケイタ、俺鼻血出てねぇ!?」


 曲の最中、オペラグラスを手放さない聖南は隣に居たケイタに鼻血の確認を急かした。

 同じく贔屓目で葉璃の姿をガン見していたケイタは、マスク姿の聖南にくだらない事を頼まれて非常に面倒くさい。


「出てないよ。 出てたらそのマスク真っ赤になるでしょ」
「セナ黙って観ろよ、うるせぇ」


 ケイタの向こうからアキラの声がしたが、聖南はもはや何をどう言われても笑顔で返せる自信があった。

 興奮し過ぎて苦しくなるまで騒ぎ、マスクを顎元までずらしてからも目一杯騒いだ。

 会場に居るmemoryのどのファンにも負けないほどの聖南の大きな声援は、きっと葉璃にも届いているに違いない。

 オペラグラスでポジション移動を追っていると、聖南達の座る関係者席へ葉璃が最接近した。


「こんなもん興奮すんなって方がおかしいだろ!! あ!! きたきたきたきた! 葉璃ーー!! こっち向いてー!!」


 周囲の目も気にせず、まるでアイドルを追う熱狂的な追っ掛けのように恥ずかしげもなく、聖南は愛する恋人の名を大絶叫した。



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