必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 メイクを落とし、先程まで着ていた私服姿で葉璃が戻ってきた。

 関係者入り口にその姿を見付けた聖南は、両手を広げて立ち上がろうとしたが瞬時にケイタに邪魔される。


「……なっ、ケイタ! 手離せ!」
「ここどこだか分かってる? memoryのライブを観に来た人が五千人居るんだよ」
「…………チッ」


 見回せば、すでに関係者席のすぐ後ろ側の客席の者達からはCROWNの三人が居るとバレているらしく、memoryのフリートーク中に小さな騒ぎが起き始めていた。

 関係者席にはmemoryの事務所関係者が当然居るだろうし、これだけのキャパの会場なのでマスコミ関係の者もいるかもしれない。

 そんな場所で葉璃を抱き締めてしまえば、葉璃の望まない結果を生んでしまう。

 ケイタの助言に舌打ちしつつも納得し腰を下ろした聖南は、隣の席に戻って来た葉璃と今すぐキスをしたいと分かりやすく悶々とした。


「おかえり、葉璃」
「ハルお疲れ。 驚いたぞ」
「完璧だったよ、ハル君! お疲れ様!」


 まずは恭也が葉璃に労いの言葉をかけると、アキラとケイタも身を乗り出して笑顔で出迎えた。

 葉璃は、何とも照れくさそうに遠慮がちな笑顔を浮かべて「そんな……」と俯いている。


『あー……マジかわいー……惚れ直すってこういう事言うんだなー……♡』


 周囲は我先にと葉璃を労っているのに、肝心の聖南は恋人を見詰めたまま微動だにしない。

 一目惚れをしたあの日と今日をダブらせて、思いを馳せていたのだ。

 あの日……局の廊下ですれ違った際にドキッと胸が高鳴り、話し掛けた時の笑顔(葉璃は苦笑いのつもりであったが)にキュンッとし、目が合った瞬間に心臓にハートの付いた矢を打ち込まれ、すでにその時には恋に落ちていた。

 春香の影武者だったと打ち明けてくれた日に初めてキスをした事は、今でも鮮明に覚えている。

 我慢できずに唐突にしてしまったコーヒー味のキスは、聖南にとってはほろ苦くも大切な思い出だ。

 あの頃は超絶にタイプだった葉璃と付き合いたい一心であった。

 だが少しずつ葉璃の人となりを知っていくうちに、守ってあげたい、ずっと一緒に居たい、いや一緒に居てもらわなければ困る、そんな思いに囚われていった。

 今でも、大好きだと言い足りない恋心を持て余していたのだ。

 様々なすれ違いはあったものの、今日この日にこんなにもまた胸を高鳴らせてくれるなど、聖南の恋人は本当に「宇宙一可愛いヤツ」としか言いようがない。


「ま、詳しい話はmemoryのライブ終わってからだな!」
「セットリスト知らねぇけどあと二曲くらいだろ、しっかり観てやろうな」
「はい、ぜひそうしてあげてください。 春香達、CROWNが来てるって裏でめちゃめちゃ喜んでましたから」


 アキラとケイタと話をしている葉璃は、何も言わずに見詰め続ける聖南の視線に気付かないはずはないのに、一度も目を合わせようとしてくれない。

 二人が身を乗り出して「また後でね」と言うと、葉璃も笑顔を返してステージの上のmemoryを観始めた。

 聖南はそれでも葉璃を凝視し続ける。

 透き通るように白い、ふわふわなほっぺたを撫で回してスリスリしたい。

 会う度に大人びていく未成熟な輪郭に触れて、自分のものだと酔いしれたい。

 あなたのすべてをください、と悩殺ものの台詞を口ずさんでいたその唇に噛み付いて唾液を交換したい。

 腰の細さを際立たせていたあのピッタリとした素敵な衣装を着て、聖南のためだけに淫らに啼いてほしい。


『……葉璃ーー……♡』


 失礼ながら、memoryのライブ終了まで聖南の邪な思いは止まる事はなかった。

 何やら二曲とも可愛らしい詞が目立つラブソングだったので、それがまた心臓に悪かった。

 ステージ上からジッと見詰められて、それは儚く物言いたげで意味深で、脳内から全身をピリピリと痺れが走る甘い何かを放出させられた。

 か現在も指先が小さく震えてしまうほど、物凄く葉璃を愛しく感じていて……抑えるのに必死だ。

 終盤はほとんど観られなかったライブ終了後、興奮冷めやらないmemoryの元へCROWN三人と葉璃、恭也とで労いに向かった。

 聖南は今にも抑えきれない思いから葉璃にベッタリ引っ付いていて、前方に恭也、背後にアキラとケイタが自然とその密着を隠そうと取り囲んで移動している。


「お疲れー!」


 控え室へと入ると、ケイタの声に振り向いたmemoryとバックダンサー達の悲鳴が轟いた。


「キャーー!!」
「CROWNだ!!」
「お疲れ様ですぅ!!」
「アキラさんケイタさん、セナさんまで来てくれるなんてーー!!」
「ヤバーーイ! カッコイイーー!♡」


 ライブ後でまだ落ち着かない様子の彼女達が、興奮気味にわらわらと近付いてきた。

 彼女らはフリートークを挟んだとはいえ約二時間動きっぱなしだったのだが、まだまだ余力がありそうなほど大興奮している。


「お疲れ。 やっぱすげぇよ。 あれだけのパフォーマンスはテレビやネットだけじゃ勿体ねぇ。 ツアーとして各地回るべきだ。 なぁ、佐々木マネ。 来年目処でツアーやってやれよ、俺らも宣伝すっから」
「そうですね、事務所と相談してみましょう」


 取り囲まれたので葉璃としばし離れる事になってしまったが、ここにいる以上は腑抜けてばかりいられないので、聖南はきちんと彼女達へ言葉をかけた。

 葉璃の出番前は間違いなく聖南も真剣にmemoryのパフォーマンスと向き合っていたので、その感想を述べて佐々木を見る。

 聖南からの真摯な言葉と労い、そしてツアーという嬉しい単語に彼女達はさらに熱狂した。



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