必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
391 / 541
55❥

55❥6




 memoryのライブ終了後、事務所のお偉方やスタッフ達と打ち上げがあるから聖南達もどうかと誘われたが、丁重にお断りした。

 恭也は迎えが来ていたので早々と別れ、ドラマ撮影の真っ最中だったアキラとケイタは、戻り時間を大幅にオーバーしていたためこちらも急いで現場へと向かって行った。

 二人は葉璃に再度労いの言葉を掛けて、このライブの経緯を明日聖南から聞く事を楽しみに、だ。


「───聖南さん、ちょっと待っててもらえますか」


 車中もどこか上の空だった葉璃を無言のまま自宅に連れ帰った聖南は、玄関口で靴を脱いだところでそう言われた。


「ん? どしたの」
「えっと……、ちょっとだけ! お、俺、聖南さん特製の紅茶飲みたい!」
「あぁ、淹れてやるよ。 ……てか中入れば?」
「だ、だから、ちょっとだけ待ってて! 三分! あ、いや、五分だけ! 付いてこないでね!」
「はぁ?? っておい! 葉璃!」


 なかなか靴を脱ごうとしない葉璃を訝しんでいると、五分だけ待ってと言い捨てて勢いよく扉を出て行った。


「…………何なんだ??」


 今日の葉璃は一体どうしたというのだろう。

 あの魅惑のライブといい、今の「五分待って」といい、まったく訳が分からない。

 葉璃が飲みたいと言っていたので、とりあえず紅茶を淹れて待っていよう。

 付いてこないでとも言われたので追い掛ける事も出来ないし、五分だけならと大人しく部屋着に着替えて紅茶の仕度をした。

 ちょうどティーカップにアプリコットティーを注ぎ終えたところで玄関先のインターホンが鳴り、「ん?」と声を上げながら扉を開けると───。


「聖南さん、お誕生日おめでとうございます」
「………………」


 そこには、2と4の数字のロウソクに火を灯してあるチョコレートケーキを大事そうに両手で持った葉璃が居た。

 両手が塞がっているため聖南が扉を支えてやると、二歩進んできた葉璃がもう一度視線を合わせて「おめでとうございます」と微笑んできた。

 すでに火を付けてあるので、葉璃は聖南とほんの少しだけ距離を取る。

 葉璃とケーキを交互に見て、扉を支えていた腕をそっと下ろした。


『……なんだ……そういう事だったのか……』


「………………」


 聖南は言葉を失った。

 葉璃がようやく視線を合わせてくれたというのに、今度は聖南がその瞳を見られなくなった。


『……嬉しい…………嬉しい…………!!』


 今日が誕生日だった事はもちろん忘れていなかったけれど、まさか葉璃がケーキを用意してくれているとは思ってもみなかった。

 聖南は脱力したようにゆっくりとしゃがみ込み、両手のひらで自身の顔を覆う。


「聖南さんっ!? 大丈夫!?」
「…………大丈夫。 ……感動してるだけ……」
「そ、そうですか、あの、これ危ないんで聖南さんこっちこっち」


 パタパタとリビングへ駆けて行った葉璃を、神妙な面持ちで追い掛ける。

 ケーキをダイニングテーブルに置いた葉璃が、早速部屋の灯りを消してしまい、ロウソクの温かい光だけが二人を優しく包み込んだ。

 くだものがたくさんのった美しいケーキの前に立つ葉璃の隣に来ると、見上げてきて可愛く笑顔を向けてきたので、思わずその肩を抱いて引き寄せる。

 ───こんな感情は知らない。

 心ではとても喜んでいるのに、どうして目の奥が熱くなるのか。


「はい、これ消してください」
「…………ん」


 ケーキのロウソクを指差され、目頭を押さえた聖南は迷い無く吹き消そうとした。


「あ!! 待って、聖南さん。 心の中で願い事してから火を消すんですよ!」
「願い事?」
「そう! 早く早く。 ロウが垂れるよっ」


『バースデーケーキのロウソクは願い事をしてから消すのか』


 それを初めて知った聖南は、フッと優しく微笑んで瞳を瞑った。


『……葉璃と一生一緒に居られますように』


「………………」


 聖南の願い事はこの一つだけだ。

 きっと、来年も再来年も、その先もずっと、この願い事しか思い付かない。

 少し屈んで、ロウソクの火を目掛けてふっと息を吹きかけた。

 火を吹き消したせいで辺りが暗闇になってしまったが、肩を抱いていたおかげで葉璃はこの手の中に間違いなく居る。

 視界は良いとは言えなかったが、葉璃が見上げてきた気配がしたのでおもむろに唇を奪った。

 殊更に甘い、触れるだけのキスを数秒した。


「………………」
「聖南さん、誕生日おめでと」


 じんわり唇を離すと、葉璃が聖南の胸にしがみついて三度目の「おめでとう」を言ってくれて、また目頭が熱くなる。

 知らない感情を味わい続けていた聖南は、愛おしくてたまらないその体を力の限り抱き締めた。

 生まれて初めてだった。

 バースデーケーキのロウソクの火を自宅で吹き消し、しかもそこには愛する人が共に居る。

 去年の今頃は考えられなかったとてつもなく大きな幸せを、くっと噛み締めた。


「……ありがとう。 今までの人生で最高の誕生日だ」
「…………良かった……。 聖南さん、生まれてきてくれてありがとうございます。 俺を見付けてくれて、……ありがとうございます」


 聖南の胸の中で、恥ずかしいのか顔を埋めたままくぐもった声でそう言う葉璃を、さらに強く抱き締めた。


『……ありがとう、葉璃』


 口を開けば声が震えてしまいそうで、抱き締める事で感謝を伝えられたらと思う。

 可愛くて愛おしくて、大好きでたまらない。

 言い足りないけれど言わずにはいられないこの気持ちは、今はちょっと言えそうになくて。

 葉璃がふいに顔を上げないように、聖南はそのまま抱き締め続けた。

 今だけは、もう少しだけこうしていてほしい。

 ───涙は見せたくない。



感想 3

あなたにおすすめの小説

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

二人のアルファは変異Ωを逃さない!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります! 表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡ 途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。 修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。 βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。 そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡