必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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「何? 俺に何か話したい事あんの?」


 電話中にも関わらず、葉璃の顎を取ってこちらを向かせた。

 ついでに指で両頬をプニッと押すと、唇が尖ってしまって葉璃はうまく喋れなくなる。


「むー! 離して、聖南さんっ。 春香、分かったからもう切るよ!」
『ちゃんと話しなさいよ!? なんの為のサプライズライブだったと思ってんの!?』
「分かったってば! じゃあね、おやすみっ」


 テンションが上がりっぱなしだった春香の声が、聖南にもハッキリと聞こえてしまった。

 スマホをテーブルに置いた葉璃の頬から手を離すと、瞳を覗き込む。


「…………サプライズ、ライブ?」
「あ、あの……今日のライブ、俺は聖南さんのために出演する事を決めて、引き受けました」


 言いにくそうに聖南から視線を外す葉璃の頬は、まだ赤いままだ。

 葉璃が言った事と照らし合わせて、ゆっくりと今日のライブを反芻する。


「……うん? …………あぁ、だからあのラブソング二曲だったのか!」


 考えれば考えるほど、なぜあの二曲をチョイスしたのだろうと不思議で仕方が無かった。

 葉璃ほどの実力があれば、出演するならばもっと序盤に相応しい曲目があった。

 あんなにも可愛らしい衣装を纏い、言ってしまえば二曲ともかなり女性的な振り付けだったので、熱狂した手前聞けずに居たのだがそういう理由だったとは。


「はい……。 俺、聖南さんに渡すプレゼントすごく悩んでて……そうしたら春香にこのライブを提案されたんです。 俺の気持ちを代弁したような歌詞だから、聖南さんに想いを伝える事が出来るなら……やろうって思いました」
「……そうだったんだ」
「聖南さんの驚く顔を見たくてのサプライズだったから、連絡しないで聖南さんを不安にさせてしまったりして、……だからプレゼントになったのかよく分かんないです。 俺は間違いなく聖南さんのためだけにやりましたけど……」


 聖南は、照れて俯く葉璃のつむじを見詰めた。

 聖南より頭二つ分は小さな体が、何だかもっと小さく見える。

 連絡を寄越せないほど疲弊した理由が聖南のためのサプライズライブが原因だったとは、……文字通り驚いている。

 そして、葉璃の魅惑の瞳に射抜かれて乱舞しそうなほどの詞を聖南の脳内へと囁いてきたあの光景はまさしく、サプライズ成功と言えた。


「……最高のプレゼントじゃん」


 ニヤつく口元を押さえながら、葉璃を上向かせる。


「なぁ、俺のためにあんな大舞台で踊ってくれたんだろ? 緊張しぃの葉璃が、俺だけのために」
「…………はい」
「……最高。 マジで最高。 嬉し過ぎる…!」
「ほ、ほんと? 喜んでくれました? ……俺、聖南さんにあげられるものって何一つないし、思い付かなかったんです……。 大好きな人の誕生日なのに、俺は何も出来ないダメな奴だなって思ってたから……」
「葉璃。 またネガティブ入ってんぞ。 お前は俺の恋人だろ? 俺は葉璃が隣に居てくれるだけでいいんだ。 それがさ、このケーキと葉璃からの「おめでとう」だけで涙もんだったのに、あのライブが俺のためだって聞いて喜ばない奴が居るか」
「…………良かった……」


 またしても感動に打ち震える聖南へ、葉璃がふにゃっと表情を崩して微笑んだ。

 こんなにも幸せでいいのだろうか。

 葉璃から貰えるものなら何だって嬉しいけれど、CROWNのツアー同行さえまだの段階であれだけの観客を前にパフォーマンスをした、その愛の重さを実感するには充分だった。

 あの葉璃が、となれば尚更だ。


「あ! そうだ。 最後にワガママ言ってい? もう誕生日過ぎちまったけど、一つだけ」
「何ですか? もちろん、俺に出来る事は何でもします」
「来て」


 聖南はおもむろに葉璃の手を引いてベッドルームへやって来ると、ナイロンバッグを手渡した。

 不思議そうに受け取った葉璃が、「これ何?」と聞いてくる。

 まだ余韻の残るうちに、誕生日にかこつけたワガママを実行しなければと胸を高鳴らせる。


「開けてみ」
「…………なっ!? こ、これ貰って来たんですか!?!」
「んや、買った。 それ葉璃専用の衣装だろ、それは俺のもん」
「えぇ!? ちょ、これをどうする……って、まさか……」


 ベッドに腰掛けてニヤニヤが止まらない聖南の思惑を、感じ取ったらしい。

 葉璃は即座にナイロンバッグを聖南に突き返す。


「む、むむ無理です!! さっきのはちゃんと目的があったから出来た事です! こ、これは着れない!」
「なんで。 俺のために着てよ」
「…………!! その台詞の使い方は卑怯ですよ!」
「葉璃が着ないなら、無理にでも着せるけど? てか、何もこの場で踊ってくれとは言わないから。 着るだけでいい」


 葉璃の狼狽えっぷりが可愛くてたまらないので、聖南もつい甘い声を出してしまう。

 もちろん着るだけで終わるはずはないのだが、素直な葉璃はしばらくむくれた後、衣装の入ったナイロンバッグを手に静かにベッドルームを出て行った。


「…………誕生日さいこー」


 あの可愛らしい薄いピンク色の衣装姿で戻って来る葉璃を想像して、悠々と足を組んだ聖南はいつもの鼻血チェックをする。

 ───たまらなく興奮してきた。


『頭に付けてたやつもあんのかな……♡』


 小さなベレー帽帳のヘッドアクセサリーが葉璃の顔ととてもマッチしていたので、出来れば付けていてほしい。

 部屋の中だが、せっかくだからブーツの着用もお願いしたい。

 ウキウキし過ぎてジッとしていられなくなってきて、邪な思いで着替えを手伝おうと立ち上がりかけたところに、ゆっくりと扉が開いた。




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