必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 己のセックス事情など話しても大して楽しくないだろうと思っていたのは、葉璃と恋に落ちる前の話だ。

 二人にであれば、聞かれれば嬉々として洗いざらい話してやる。

 聖南自身も、葉璃がこの場に居ないため若干の躊躇いはあっても、この感動と興奮を分かち合ってもらえるのならまさに喜んで、だ。

 後でこの事を知った葉璃からまた「アレ禁止令」が発令されてしまうかもしれない事を、浮かれに浮かれた聖南はその事に気付けないでいた。

 ニヤニヤしながら、同じくニマニマしているケイタを見る。


「ライブん時の衣装着せて、俺は高校の制服着た」
「おぉぉぉ……ッッ!! マジでか!!」
「制服プレイな……」
「そうそう。 俺の制服ってネクタイないからきまんねぇなと思ってたけど、カッターのボタン外すだけで良かったからあれはそういう意味でノーネクタイなんだよ」
「いや違うだろ。 誰がヤりやすくするためにノーネクタイ推奨すんだよ」
「いいなーー!! すげぇ燃えただろ!」
「燃えた燃えた。 学校でやってる気になって、背徳感ヤバかった」
「だろうな! あの衣装めちゃめちゃ可愛かったしな! ちなみに昨日は何時間?」
「ケイタ……お前どこまで聞くんだよ……」
「昨日はそんなにしてねぇよ。 三時間くらいじゃね? 疲れてただろうからな」
「セナの三時間はあっという間だろ! よく我慢したなー!」
「だろ!? まぁ朝も頂いたし俺は満足だけど」
「朝もか! じゃあ何? その後すぐここ来た感じ?」
「そういえばハル、歩幅小さかったよな。 朝から盛ってやるなよセナ……」
「いやかわいく誘われたから美味しく頂いたまでだ。 俺が浮気する夢見たっつって膨れてたけど」
「誘われた!? そんな事しそうにないから余計に燃えんじゃん!! マジで羨ましいんですけど!! 俺もそんな相手欲しいー!」
「なるほどな、その夢見て嫉妬してたわけだ。 セナ派手に遊んでたしなぁ。 嫉妬されても仕方ねぇよ」
「過去は過去だろ。 でもさ、嫉妬されんのってマジで最高の気分になんだよ。 愛されてんなーって実感できて超気分いい」


 スタッフがどのタイミングで入ってくるかも分からないのに、三人はここが局の小会議室だという事も忘れて、ついでにCROWNというアイドルの看板さえも忘れ去ってひとしきり聖南の惚気話で盛り上がった。

 聖南は掻い摘んでしか話していないが、二人は……いや、主にケイタは目の前で机をダンダンと叩いて興奮している。

 アキラは終始無表情ではあったものの、所々突っ込んできていたのでしっかり聞いていたのだろう。

 会話に夢中過ぎて二人とも水分補給をしておらず、ペットボトルのお茶はまだなみなみと入っていて、真剣に聞き耳を立てていた事が伺える。

 時折コーヒーを飲んで笑顔を見せていた聖南が、一番落ち着いているように見えた。


「セナがそんな顔するなんて……! 去年の今頃じゃ考えらんなかったなー」


 完全に惚気ていたため恋しくてたまらないが、葉璃は楽屋でいい子に待っているだろうかと想像すると、机に視線を落としてふっと優しく微笑んでいた。


「っつーかセナ、マジで変わったよ。 上辺だけの言葉が無くなった気する。 前は収録の記憶飛んでたりしてたじゃん、そういうのももう無いんだろ?」
「付き合いだしてからはまったくねぇな。 ちゃんと仕事しねぇと「嫌い」って言われるしさぁ……」


 ようやく下ネタから逸れて、アキラがお茶を一口飲みながら足を組んだ。

 聖南も、組んでいた足を組み換えながら自身が良い方へ変われた事を嬉しく思う反面、腑抜けていられない理由にたどり着くとすかさずケイタに爆笑された。


「あははは……! あの時マジで腹がよじれるかと思ったよ! 笑いこらえんの大変だったんだからな!」
「ケイタ、そんな笑ってやるな。 てかあの時のお前めちゃくちゃ笑ってたし。 こらえきれてなかったじゃん」
「だってイケイケだったあのセナが凹んでたんだよ!? 笑えるだろ!」


 年明けすぐの頃だったか、葉璃に「仕事をちゃんとしない聖南さんは嫌いです」と痛烈なダメ出しをされた事で、聖南の仕事の姿勢はその後見事にそれによって突き動かされている。

 色々あり、その約束を守れなかったので「嫌い」と言われると思い込んだ。

 そのせいで葉璃と連絡を断って廃人と化していたが、二人は慰めようと開いてくれた食事の席で盛大に笑い転げてくれた。

 他人事だからと何故そんなに笑えるんだと苛立つ事さえ出来なかったあの時を思えば、葉璃の言葉にどれほどの重みがあるかを痛感する。

 苦笑する聖南に、「そういえば」となかなかやって来ないスタッフにアキラも焦れ始めて腕時計を見ながら言った。


「あの時だよな、セナがHottiで揉めたの」
「おー、そうだな。 雑誌下ろされてんのに不気味なくらい大人しくしてっから、ちょっと用心しないといけねぇかも」
「あ、もしかしてツアーの警備員増やしたのってそれ関係あるんだ?」
「何か仕掛けてくるってのか? 入場もいつもより早えし」


 思い出したくもないが、図太い神経の持ち主であるあの女がこのまま大人しくしているわけがないのではと思っている。

 交際宣言をして先手を打った事で、例のボイスレコーダーの中身はまったく使い物にならないゴミとなった。

 仕事をふいにされ、自信満々だった誘惑をも蹴散らされ、女としてのプライドを粉々にされたため、それで黙っているような女ではないように見えた。

 CROWNのツアーは凄まじい人数のファンが押し寄せるので、何かあってからでは遅いと警備員をいつもの三倍に増やしている。

 それと同時に、聖南に危害を加えた女と麗々の顔写真を警備員全員に頭に叩き込んでもらって対応させるつもりだ。

 開場時間も開演から二時間前とするなど、入り口にて入場するすべての観客の人相チェックを徹底してもらう。

 聖南は裏方にも深く関わっているので、その点だけは抜かりなく頼むとツアースタッフ全員に通達していた。



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