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三人ともがそれぞれ多忙なせいで、こうしてきちんと話をするのは相当に久しぶりであった。
収録で顔を合わせても近況報告くらいでここまで込み入った話はしなかったので、ふと生まれたこの空き時間は三人にとっては結果的に良いものとなっている。
「さぁ、分かんねぇけど。 俺を刺した女は執行猶予付いて出て来てるらしいし、あのモデルが大人しくしてんのも不気味だ。 ツアー回る上でそこだけちょっと不安感じてっかな」
「ファンの子達に何かあったら大変だもんなぁ」
「あの女、執行猶予付いたのか。 ……果物ナイフじゃ殺意認定されなかったって事か?」
「じゃねぇの? 現に内臓まで到達してなかったし、理由が理由だから殺意認定されなかったんだろ。 女が誘ってんのに男がその気ないって言ったら喧嘩になんじゃん? セックスレス夫婦みてぇな」
去年の事件の詳細は事務所の弁護士にすべて任せてあったので、聖南は報告のみ受け取る形となっていた。
アキラの言う殺意認定をされたのならば執行猶予など付かず、とすると傷害罪として処理されたという事だ。
傷害罪としての罰金最高額授受と謝罪があったものとみられたが、聖南は謝罪文も金も受け取らず事務所に託してある。
世間に与えた衝撃や聖南の社会的地位によって実刑が下される可能性もあったが、とにかくあの時は聖南自身の贖罪の気持ちも強く、「穏便にしてやって」と弁護士に言い伝えていた。
それがどう転ぶかは分からないものの、何かあっても聖南は全責任を取ると決めている。
謹慎中に企画した長丁場に渡る今回のツアーは、社長も始めは難色を示していた。
だがやる意味は十二分にあるのだと企画書を束で渡し、本気度を見せた。
事件から連続して世間を騒がせ、怒り心頭だった事務所幹部らを黙らせるためには、全公演SOLD OUTという目に見える成果と、追加公演までを含めたすべてのライブを大成功に導かねばならない。
その片鱗がすでに見えていて、かつ葉璃達のデビューの背中を押せるのであれば一石二鳥どころか一石四鳥ぐらいになる。
「なぁ、例えおかしくない?」
「おかしい。 てかセナが防御したから内臓までいかなかっただけじゃねぇの? セナの傷跡見たけど、かわそうとして避けたからあんな一直線に切られてんだろ」
わずかに思考が逸れていたところを、アキラとケイタに引き戻された。
ツアーの展望はすでに聖南の頭にあるので、今は各々任せている者達を信じていればいい。
聖南が負った怪我のような不意の悪意を、誰にも味わわせる事のないように。
右耳のピアスを弄びながら、聖南がアキラを苦笑交じりで見やる。
「俺かわしたのか? あの日編曲終わりでフラフラだったからあんまよく覚えてねぇんだよ」
「あぁ、あれな。 翌日フリーをもぎ取るための無茶だろ。 ……ったく」
「仕方ねぇじゃん。 まだ俺がガンガンいかなきゃいけねぇ時期だったんだから。 もぎ取れるもんはもぎ取って愛を伝えに行かねぇと」
「ガンガンいかなきゃって、……あぁ! まだ二人とも追いかけっこしてた時な?」
「ケイタうまいな、それそれ。 セナがストーカーみたいでちょっとキモかったんだよ。 毎日日替わりで浮かれたり沈んだりして、ついて行けねぇって思ってた」
「おい、俺が居るとこでそこまで言うか」
またもや二人が好き勝手言い始めた。
聖南が気持ちを伝えたばかりだった上、葉璃はネガティブ全開でまったく心を許してくれていなかった時期だから、当時は相当焦りを感じていたのだ。
それを追いかけっことは。
……納得はいかないが、確かにうまい言い回しではある。
「ひどくね? 二人ともドラマとか舞台で他人を演じてんだから、気持ち分かってくれるだろーと思ってたんだよ、俺は。 なのにお前らときたら……」
「分かんねぇよ! ドラマって感情移入はしてもほんとに好きになったりなんか滅多にない事じゃない? なぁ、アキラ」
「俺はメロドラマやんねぇからもっと分かんねー」
「ケイタこそ女優に言い寄られたりしねぇの? 荻蔵なんかすぐ手付けんじゃん」
「荻蔵は例外中の例外だよ、あんなの。 共演者と外で会うとか考えられない。 忙しいって言って打ち上げも参加しない事あるよ、俺」
「俺も。 ああいう場って苦手なんだよなぁ。 セナ居てくれたら全部セナに相手させんのにっていつも思う」
舞台にドラマにと忙しそうな二人は、果たして現場でうまくやっているのだろうかと半ば心配になってきた。
聖南は二人が苦手だという場は決して嫌いではない。 出演していなくても行けるものなら喜んで出向きたいくらいだ。
「あ? 打ち上げだけなら行ってやるよ? 飲み食いして場を盛り上げりゃいんだろ?」
「そうそう。 セナ酒入んなくても盛り上げられるからすごいよな」
「ビンゴ大会とか地獄だぜ。 やたら景品豪華だし。 ここに予算回すくらいなら作品に金掛けろって思わねぇ? 視聴者ありきなんだから」
「それめちゃくちゃ分かる! でもああいう場でそつなく出来る人が上層部に気に入られるんだよな。 俺もアキラもそつなくやってねぇのに申し訳なくない?」
「仕事はきっちりやるから気にしねぇよ。 俺演技でも要求でもNG出さねぇし」
「マジで! セナ聞いた!? ミュージカルの演技指導、アキラにしてもらえよ!」
「アキラに? 嫌だよ、どうせ笑われて終わる」
「その場では笑わねぇよ。 帰ったら爆笑させてもらうけど」
打ち上げの話から何故か気の重いミュージカルの話題になり、聖南は盛大に嫌な顔をして見せた。
アキラがすでに笑いをこらえているのは知っているので、絶対にそんな事は頼まないとご立腹だ。
「やっぱ爆笑すんじゃん! ……っつーかマジでスタッフ遅くね? 俺呼びに行ってくるわ」
嫌な話題から逃れるように、聖南は席を立った。
楽しげな会話は廊下にまで漏れ聞こえていたかもしれないが、それは三人の仲の良さを浮き彫りにさせるには充分で、彼らにとっては何とも楽しい待ち時間であった。
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