必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 葉璃はどんな時も、何をしていても、いつだって可愛い。

 ぼんやり窓の外を眺めている横顔も好きだし、怒って頬を膨らませてキッと睨んでくるのもたまらないし、セックスの最中の困ったように眉を顰めて啼く姿なんて思い出すだけで鼻血もんなくらい好きだ。

 魅惑の上目遣いは聖南にとって最終兵器に変わりなく、さらにそこへ微笑を付け加えられるとついに心臓を撃ち抜かれる。

 小柄さも、ふわふわな髪も、言ってしまえば全身が可愛くて、葉璃本人にもお願いした事があるがミニチュアになって行動を共にしてほしいといつもいつも思っている。

 けれど聖南は、葉璃の何よりも一番好きだなと思うところを発見したかもしれない。

 それは、甘いものを食べる時の葉璃だ。


『なーんかエロいんだよなぁ……』


 待ち時間を含めると思った以上に時間の掛かったスタッフとの話し合い後、三人が葉璃の待つ楽屋へと戻ると大きなパンケーキを前にちょこんと座っていた。

 聖南達が戻って来てから食べようと思っていたらしく、三人の姿を見るや「お疲れ様でした!  いただきますっ」と元気よく言ってもぐもぐし始めている。

 アキラとケイタもその声に面食らいながら着替えていて、可笑しい。


「そのパンケーキどうしたんだ?」


 聖南は着替えの前に、もぐもぐ葉璃の隣に腰掛けて肩を組んだ。

 そして首筋にキスをして、うなじを嗅ぐ。

 葉璃の存在が恋しかったので、食べにくそうなのもお構いなしで嗅ぎまくってやった。


「これ佐々木さんが買ってきてくれました」
「はぁ?? なんで眼鏡が?」
「トイレ行ったらバッタリ会ったんです。 今日memoryとは別のタレントさんに付いてるみたいで」


 思いがけない天敵の名が出てきて、聖南は嗅ぐのをやめて「はぁ?」と再度不満を顕にした。

 ケイタが身支度をしながら葉璃を見ると、唇の端に生クリームを付けてそれでも夢中で食べている。


「……へぇ? 佐々木さんも複数担当してるんだ」
「ハル、セナから離れろ。 目が猛獣なってるぞ」
「えっ? あ、ほんとだ! 逃げよっ」
「おい!」


 どういう事なんだと詰め寄ろうとした矢先、アキラに出鼻を挫かれた上に葉璃はパンケーキを持ってケイタ側の椅子に着席してしまった。

 ふふっと向こうで可愛く笑っているが、問い詰める事はやめてやらない。


「眼鏡からっつーのが気に入らねぇんだけど。 なんでそんな事になったんだよ」
「なんでそんな事にって言われても……。 お弁当食べた?デザートは?って、そういう流れでした」
「…………全然分かんねぇ」


 イチゴを食む事に集中している葉璃の説明は、端折り過ぎていてさっぱり分からない。

 トイレへの道中で佐々木と遭遇した、という前半部分よりも重要そうな後半が聞きたかったのだが。


「もういいじゃん、セナ。 ハル君、美味しい?」
「はい! ここのお菓子ぜんぶ食べてしまいそうだったんで、良かったです」
「全部食べて良かったのに。 残しとくとまたセナが俺の鞄に入れやがるかもしれねぇし」
「鞄に? 聖南さんがアキラさんの鞄にお菓子入れたんですか?」
「そうなんだよ。 しかも大量にな。 ガキみたいなイタズラしやがって、ゲラゲラ笑ってた」
「フッ……」


 そういえばそんな事もあった。

 ついその時のアキラの「なんだよコレ!?」を思い出し、吹き出してしまう。


「あ、これ思い出してんぞ、セナ。 お前見てくれと中身が合ってねぇんだから、ちょっとは伴うようにしろよ」


 やれやれと肩を竦めて腰掛けたアキラに、とても真っ直ぐな瞳で聖南は言い返した。


「無理。 これが俺」


 人間誰しも欠陥があるのだから、伴うようにと言われても何を変えたら良いのか分からない。

 子どものように自身を正当化した潔い聖南へ、葉璃のキラキラした瞳が刺さってくる。


「……っカッコいい……!!」


 食べる手を止めてまで葉璃が聖南を見てきて、悪い気はしなかった。

 デザートを他の誰かに……それがたとえ天敵である佐々木に与えられたものだとしても、唇の端に付いた生クリームを舐め取ってやるのは自分なのだからと大目に見てやる事にする。

 それは単に、「カッコいい」と言われて機嫌が治っただけだ。


「ちょっ、ハル君、セナのレベルに落ちたらダメってさっき言ったじゃん!」
「この二人大丈夫か」
「カッコいいと思うんなら戻ってこい。 おいで」


 棒状のチョコレートを摘んでいる葉璃を手招きすると、パンケーキを持っていそいそと聖南の隣へと戻ってきた。


「へへへ……ただいま」
「おかえり」


 照れたようにはにかんだ笑顔を向けてきたので、聖南はその可愛さにデレてしまい二人はアキラとケイタそっちのけで微笑み合う。


「お前らいっつもこうなのか?」


 聖南と葉璃は度々自分達の世界へと入っていくため、アキラとケイタは何度置いてけぼりを食らったか分からない。

 おそらく二人きりの時もこんな調子なのだろうから、聞くのは野暮だったかと思い直しても遅かった。


「当たり前だろ。 家ではもっとベタベタしてる」
「なっ……ベタベタなんかしてないでしょ」
「葉璃はな。 ベタベタしてんのは俺」
「そうですね、引っ付いて離れないですもんね」
「誰も見てねぇからいいだろ?」
「ふふっ……いいですよ」


 問うたアキラと、先程の制服プレイの話が頭から離れないケイタは、バカップルのやり取りに圧倒されてしまう。

 ついでに、当初はあれだけオドオドしていた葉璃が、ここまで素直に思っている事を口に出来るようになっているのを見るとその成長の早さにも驚かされた。

 ストーカーのように追いかけまわし、ガンガンに攻めた聖南の行動力の賜だった。



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