必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 CROWNの全国ツアーがいよいよ開幕される今日、すでに入場開始された客席には所狭しとファンが詰め掛けてくれていて、袖から客席を覗いたケイタが「うわぁ…」と喜びの声を漏らす。


「あーー…緊張するなぁ」
「ツアーは一年半ぶりだもんな。 こっから三ヶ月はマジで気合い入れとかねぇと体壊したら大変だ」


 舞台袖で待機中のケイタは、らしくなく緊張に体を震わせていた。

 同じくアキラも、漏れ聞こえてくるファンの声援に緊張感が増し顔を強張らせている。

 二人の姿を背後からジッと見ていた聖南は、ライブ前半の衣装である真っ白なスーツと同色の、つばの広い本来なら女性ものであるウェディングハットに模したそれをソッと脱いだ。


「アキラ、ケイタ、ダンサー組もちょっと集まって。 スタッフも手止めて来てくれ、五分で済むから」
「何、もう円陣組む?」
「うぃーっす」
「そこのお前らも集まってー」


 ハットを脱いだ事で、聖南が集合を掛けた意図を察したアキラが少し離れた場所に居た面子にも声を掛けた。

 聖南の前に出演者全員が、そしてそれを取り囲むように数十名のスタッフがやって来て、聖南の様子を息を殺して見守る。

 ふぅ、と小さく息を吐いた聖南は、去年このツアーを企画する際に考えていた気持ちを吐露しようと、スタッフをぐるりと見回し口を開いた。


「円陣は俺の話の後な。 ……聞いてくれ。 去年、俺のスキャンダル諸々のせいで、ツアーの話はもちろん新曲発売も番組出演も何もかも、CROWNの活動を制限させちまってほんとに申し訳なく思ってる。 二ヶ月以上もだ。 すべて俺の責任だし、何もかも俺が悪かった。 ごめんな。 今日からのツアーはファンみんなのためっていうのもあるけど、それ以上にここに居るお前達や事務所、ツアースタッフ、CROWNに関わってくれてるみんなのために毎回全力でやりたいと思ってる。 ……よろしく頼むな」


 聖南はまたぐるりとスタッフ全員と視線を合わせていき、バックダンサーの面々、そして最後にアキラとケイタを見据えた。


「……んな改まって言う事か。 セナ、みんなお前の気持ちなんか、去年のスキャンダルが起こる前からとっくに分かってるよ」
「そうそう。 そーんな羨ましいくらいの見た目してるくせに、人の顔色見てみんなが嫌な思いしてないか探すお節介なくらいの優しさも、実は超ガキなとこも、みんなすでに知ってると思うよ」


 聖南のただならぬ雰囲気に、アキラとケイタはその心情を察するかの如く笑い掛けてくれた。

 お揃いの衣装をまとった三人は白ずくめで、なおかつ二人が聖南の心の内をまるですべて見透かしているかのような笑顔に、この場がより明るくなった気がする。

 ずっと燻っていた周囲への思いと謝罪は、このツアー開始日である今日言おうと決めていた。

 大勢のスタッフやダンサー達、そしてアキラとケイタはそんなもの要らないと言いたげに優しく聖南を見詰めてくれていて、ようやく去年から続いていた罪の意識が晴れた気分だった。

 スタッフ達に向き直り、「ありがとうな」と言葉を掛けると皆一様に笑顔を返してくれる。


「ツアーは約三ヶ月半続くからな。 みんな体調管理には気を付けろよ。 あ、でも体調悪かったら無理して出てくるな」
「どっちなんだよ。 戒めてんのか優しさ出してんのか」
「いやだって体調悪いのに出て来てもらうわけにいかねぇじゃん。 そんじゃ、とりあえずTzホール、今日と明日よろしくなー!」


 聖南がそう言って集合を解くと、スタッフは散り散りに持ち場へと走り去って行った。

 もう間もなく開演だ。

 袖にあった大きめの姿見鏡で、先程脱いだハットを被り直してヘアメイク担当の小柄な女性から最終チェックを受ける。

 立ったままだとまったく彼女の腕が届かないので、聖南は簡易椅子に腰掛けた。

 アキラとケイタにもそれぞれ担当が付いていて、その二人も今日の日を最高のものにするために協力してくれている。

 聖南は緊張するアキラとケイタとは違って、とても本番が待ち遠しい。

 デビュー直前である葉璃は恭也共々、来月までレッスン以外の外出が禁止との事なのでこの場には来れていないが、それでも聖南は気落ちしていなかった。

 葉璃が先週ここでくれたサプライズプレゼントがまだ脳裏に残っているから、瞳を瞑ると今この場にも傍に居てくれているような気になってくる。


『大丈夫。 ……葉璃が居るから俺は頑張れる』


 元々緊張とは無縁な聖南だが、今まではどこかぼんやりと客席に向かっていた。

 だが今年は違う。

 あの事件やスキャンダルによって生きる事すべての意識が変わったのは、聖南の中で葉璃が唯一無二の存在になったからで、それらを反省するキッカケをくれた事が何より大きい。

 すべての出来事には理由がある。

 葉璃と出会わないままでいたら、今頃聖南はあの出来事など忘れ去り、懲りずに無茶の限りを尽くしていたかもしれない。

 心のない仕事をしていれば、誰も付いてこなくなるだろう。 聖南の芸歴も経歴も後ろ盾も通用しない日がいつかやってくる。

 そんな当たり前の事にすら気付けなかった。

 どこかで聖南は、自身の経歴に胡座をかいていたのかもしれない。

 先週、葉璃がくれたサプライズプレゼントに大はしゃぎして以来、聖南はそのファンの熱量を何も理解してやれていなかったと身を持って知った。

 パフォーマンス中のファン目線になどなった事が無かったから、予期せぬところで葉璃は色んな角度からプレゼントをくれたと思っている。

 今日から開幕のツアーは、絶対に、何がなんでも成功させたい。

 CROWNとしてまだまだ輝き続けなければならない聖南の意識は、誰にも止められないほど燦然たるものであった。



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