必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 聖南達は舞台袖で待機している。

 あと十分ほどで開演となるので、アキラとケイタを交えて三人で集中力を高めようと黙って手足をブラブラさせてウォーミングアップをしていたところに、バックダンサーの面々がやって来た。


「セナさん達どうしたんすか? いつもみたいに笑って始めましょうよ」
「さっき話してた去年のって、もしかしてスキャンダルとか事件?の事言ってるんだとしたら、今さらもいいとこっす!」


 一年半ぶりとなるツアーは聖南の並々ならぬ思いが込められているので、アキラとケイタもいつも以上に緊張感を持っていた。

 それだけに、舞台袖で開演を待つ三人の空気が重た過ぎたらしい。

 ダンサー達はこぞって場が明るくなるよう話し掛けてくるが、もうその話は終わったのだから蒸し返すなと言いたくなった。

 だが九人が口々に話し掛けてくるため、さすがの聖南も圧倒されてしまい、開演間際なのでしばし黙っておく事にする。


「俺ら、いつセナさんのスキャンダル暴露されるかってちょっと面白がってましたもん」
「あれだけ無茶苦茶遊んでたセナさんに今までお咎め無しだった事務所も事務所っす。 セナさんはセナさんのままでいいじゃないっすか」
「そうそう! スキャンダルあったからって、遊ぶのやめたら嫌っすよ? 遊んでてもセナさんガチでイケてるっすから!」
「マジで憧れっす! 俺セナさんになりてーもん!!」


 いやいや、と聖南は苦笑しながら腕を組んだ。

 言わせておけば本当に嫌な話を蒸し返されて、黙っていられなかった。


「おい、なんか話ずれてきてねぇ? 俺もう遊んでねぇし。 てかさっき俺は真面目な話をだな……」
「えー!! セナさんもう遊んでないんすか!?!」
「なんでですか!!」
「いや、俺が遊ぶ遊ばないの話は置いといて……」
「ショックっすよ~!!」
「イケイケなセナさんマジでリスペクトだったのに!!」
「あ!! 最近髪がチャラくないのは遊んでなかったからっすね!?」
「そういえばあのスキャンダルの後からずっと金髪してねーっす! マジで遊んでないんじゃ!?」


 確かに聖南は周りが引くほど遊んでいたかもしれない。

 そうやってテンション高く褒めちぎってくれるのはありがたいが、それは「遊びまくっていたイケイケな聖南が良かった」と聞こえなくもなくて、聖南は言葉を失った。

 面食らう聖南の後方で、アキラとケイタはクスクス笑っているし、聞こえているなら何とかしろよと振り返る。


「……アキラ、ケイタ、お前ら笑ってねぇで助けろよ。 ……っつーか笑えねぇ話題だし」
「交際宣言したのってスキャンダルと余波もみ消すための嘘かと思ってましたよー!!」
「セナさん、マジで彼女居るんすか!?」
「すげー知りたいんすけど!!」


 まさか交際宣言まで疑われていたとは知らなかった。

 多数の媒体であんなにも惚気まくってやったから、誰も疑う余地はないだろうと安堵していたから余計に驚いている。

 身近に居る彼らがそう疑っていたのだから、もしかすると世間にも聖南の交際宣言は本気と捉えられていないかもしれない。


『マジかよ……。 こんな土壇場でそんな大事な事発覚するとか……神様って意地悪過ぎねぇ……?』


 スタッフから、三分前ですと告知があっても尚、聖南は狼狽えてしまう。

 それが本当なら、聖南の案じていた一つの不安が嫌でもよぎってしまう。

 半年以上掛けて綿密に計画したこのツアーは、聖南自身が企画し運営にも多大に携わっているから、物騒な事は何一つ起こってほしくない。


『準備は抜かりねぇはずだ。 みんなを信じろ。 ……もう始まんだから考えんのはナシだ……!』


 客席からの凄まじい熱気が、ここまで伝わってくる。

 メンバーを悲鳴に近い声で叫ぶ者も大勢居て、聖南は即座に頭を切り替えた。

 ツアーを成功させたいなら、まずは己がしっかりしなければ。

 アキラとケイタに視線を寄越すと、二人ともゆっくり頷いてくれて安心した。

 何も怖いものはない。

 CROWNの看板は三人のもので、そして支えてくれているファンのものでもあるのだから、最高のパフォーマンスを魅せるためにとにかく今は集中だ。


「……アキラ、ケイタ、頼むわ」


 ふと聖南は脳内で回想する。

 一昨年までは流されるままに、事務所スタッフからツアーの話を聞かされて、聖南はその情報以降に動き始めていた。

 今までも仕事はきちんとこなしていたはずだった。

 だがそれは、与えられた仕事をただやるのみで心はいつも浮ついていた。

 自身の過去のあれこれが原因で、心が空っぽで……何度となく収録や撮影の合間の記憶を飛ばした。

 やらなければならない、やるしかない、生きるためにはこの道しか聖南は知らない、だからやらなければのたれ死ぬ。

 身内が一人もいなかった以上、その思いに囚われて仕事を全うしていた。

 ファンと直接対面できるライブも然りだ。


『今年は違う。 変わった俺を観てもらいたい』


 心を込めてやる。 やりきる。 最後まで。

 やってみせる。

 聖南は決意も新たにアキラとケイタの肩を組んだ。


「セナもな」
「っしゃ、円陣組もう! おーい、お前らもやるぞ! セナ一声よろしく!」


 ケイタの声にダンサー九名も集まり肩を組んで大きな円が出来上がった。

本番まであと三十秒。

皆が屈んで聖南の声に耳を傾ける。


「CROWNのツアー初日、来てくれたみんなを失神させる勢いでやっからな!  ッッ気合い入れて行くぞーー!!!!」


 舞台袖で男達の雄叫びが響き渡った。

 暗転したステージ上へ、聖南達はゆっくりと歩んでいく。

 大きな歓声を一心に浴びながら、CROWNの三ヶ月半に及ぶ全国ツアーは満を持して開幕した。



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