必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 ステージ上を所狭しと動き回り、曲によっては二階席をぐるりと半周できる通路をじわじわ歌いながら進み、ファン一人一人と目を合わせていった。

『五秒目線ください』
『ウインクして』
『両手で手振って』
『投げキッスして』
『私だけを撃って』

 このような要望が書かれたうちわや横断幕を見付ければ、可能な限りそのほとんどに対応して聖南も大いに楽しんでいる。

 葉璃のサプライズライブで大熱狂してから、彼女らの気持ちが痛いほど分かる聖南にとって、お安い御用だという心持ちだ。

 ライブをこんなに楽しめているのは初めてかもしれない。


『……最高の気分だ……!!』


 流れる汗も厭わず、皆も聖南と同様に最高の気分で家路につけるよう、今日この日をいつまでも忘れないでいてくれるよう、精一杯パフォーマンスに尽力した。

 アキラも、ケイタも、聖南に感化されたようにいつにも増して素晴らしい。

 バックダンサーの面々も練習以上の踊りと煽りで会場を盛り上げてくれている。

 全十九曲と合間のフリートークで会場を熱気の渦に巻き込んだCROWNは、惜しみないファンからの歓声に包まれながらも一度控え室へと戻っていった。


「~~っっやべぇぇぇ!!!」
「マジでな!! すげぇ興奮したー!」
「二人ともこっからまだあと一時間あんのに大丈夫か? 血圧上がるぞ?」
「アキラ冷静だな! ケイタもこんな状態だっつーのに!」


 聖南とケイタは興奮冷めやらぬままきらびやかな衣装を脱いで軽装に着替えていて、アキラも同じく大興奮しているかと思ったら、いつもと何ら変わりなかった。

 これだからメロドラマの仕事がこないのだ。


「今日のチケットが即完だったのはラジオ込みだからだろ? まだ気抜けねぇじゃん」


 そうなのだ。

 今日は隔週土曜日の生ラジオの日なのだが、ライブ日と重なるため聖南はツアースタッフとラジオスタッフの両サイドと何度も話し合った。

 別番組の差し替えやピンチヒッターの案もあったが、土日公演が多い今回は各地からの公開放送にしたらどうかと聖南の提案が通ったのだ。

 公開放送が無い日程ではフリートーク時間を増やし、さらに曲目も三曲追加しているのでチケット価格と内容に差が生まれないよう気を配った。

 準備は大変であったが、チケット発売時にその旨を公表するや本当に公開放送日分は軒並み数分でSOLD OUTとなった。

 それだけ楽しみにしてくれているファンが居るという何よりの証拠となり、会場が埋まる安心感と同時に気持ちの上で単純に嬉しかったのを覚えている。


「それは分かってんよ! っつーかマジで興奮冷めねー! 葉璃に会いてぇ!!」
「おい、誰が聞いてるか分かんないんだから名前出すなよ」
「そうだぞ、ダンサー組は隣の控え室に居るんだから」


 アキラとケイタは着替えを済ませて鏡で自身のチェックに入っていた。

 すると信じられない事に、鏡越しに目に入った聖南はスマホを手にして耳にあてがっている。

 もしかして……とアキラが振り向けば、聖南の表情が一瞬にしてだらしなくなった。


「…………あ、もしもし? 葉璃?」
「マジかよ……」
「セナめ……我慢、って言葉知らねぇのか?」


 ほんの数分後にはまたステージに戻らなければならないというのに、ここはCROWNの三人しか立ち入らないのをいい事に葉璃と通話を始めた。

 漏れ聞こえてきたのは、当然ながら驚きに満ちた葉璃の声だ。


『せ、聖南さん!? 今ライブ中じゃっ!?』
「今アンコールのラジオ準備待ちー! なぁなぁ、会いてぇよ! 会おうよ! ライブ終わりそっち行っていい?」
『なっ!? まだ本番中なのに何言ってるんですか!? 切りますよ!』
「はぁっ? ちょっ、……マジで切りやがった!! 葉璃まで冷てぇ!!」


 早々と通話を終了されて憤った聖南が、カタンッと乱雑にスマホをテーブルに放って天井を仰いだ。


「当然だろ……」
「セナさぁ、あの子怒らせるってマジですげぇ事だっていい加減自覚しろよ……」


 完全にテンションの上がりきった聖南の暴走に付き合わず、通話をすぐに終わらせてくれた葉璃をアキラとケイタは「ナイス!」と褒めてやりたくなった。

 二人がくっついていると周囲を寄せ付けないほど甘ったるい世界の中へと入って行くが、精神年齢の幼い聖南が訳の分からない行動をした時は、葉璃がきちんと分別を付けさせてくれようとしているらしい。

 ライブの最中に恋人に電話をするなどあり得ない。

 今までの聖南なら考えられない行動であった。

 この興奮と感動を伝えたい相手が居る事に幸せを感じられているのは結構だが、それは今ではない。

 三人とも、ぼんやりしている暇などないのだ。

 これからすぐにラジオの公開放送が控えていて、その時はもう刻一刻と迫っている。


「今すぐギュ~~ッてしてぇんだもん! 抑えらんねぇよ!」
「セナは今熱気に圧されて興奮してるだけだろ。 ほら立て、ラジオ行くぞ」
「も、もう一回声聞いてから……!」
「ダメに決まってんだろ!! ケイタ、セナ引き摺って行け」


 懲りない聖南は、スマホに手を掛けようとして敢え無くケイタに捕まった。


「了解~~」
「このヤロー!! アキラ、次の新曲お前のパートだけファルセットだらけにしてやるからな!! 覚えとけ!」
「喉に負担こねぇからありがたいな」
「ああ言えばこう言うだな! ケイタもなんか言ってやれ!」
「セナ、もう黙っときなって。 イメージ崩れるよ、色んな意味で」
「なんだよイメージって! これが俺だって言ってんじゃん!」


 この間から二人掛かりで「見た目と中身が伴ってない」だの「イメージが崩れる」だの言われて腹が立つ。

 一体どういうつもりで言っているんだと、両脇を抱えられてかかとをズリズリされながら不満気に叫んだ。

 すると頭上から、4つも歳下のケイタにこんな事を言われてしまう。


「…………最近のセナはちょっと駄々っ子が過ぎるよ」
「………………」


 一瞬にして聖南の興奮は冷め、表情を引き締めてケイタの支えから逃れた。

 ───駄目だ。 今が幸せ過ぎて、葉璃にだけ見せるはずの甘えを二人にまで出してしまっていた。



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