必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 渡されたのは仙台行きの新幹線の切符だった。

 あの時「会見終わったら来い」って話してたの、本気だったんだ、聖南……。


「本来君達は来週末のライブから合流予定なんだけど、出演しなくてもいいから二人にライブ見せてやりたいって、セナさんが。 夏休みに入った事だし、明日の競技場公演と、明後日のアリーナは観られるからね、どんなものか観ておいで」
「セナさんが……」
「ありがとうございます」
「ETOILEとしての仕事は七月後半から本格的に受けるようになってる。 だから今は気持ちを作る事に専念しよう! ……あ、駅まで送ってあげるから、着替えて下に降りてきて。 マスクは必ずしてね」


 出て行く林さんの背中に「はい」と返事した二人の声が重なって、顔を見合わせて笑った。

 まだ俺達は衣装もメイクもそのままだ。

 ETOILEとしての俺達を、さっきから横目に入る鏡で恐る恐る見てみた。


「…………俺と恭也だ……」
「そうだね。 いつもの二人、だね」
「実感が湧いてきても、まだ信じられないもんだね……。 明日からの俺達、何か変わるのかな?」
「変わると思うよ。 とってもね」
「そう、だよね……」


 眩い会見場に居た時から思ってたけど、俺は未だデビューしたんだっていう心持ちにはなれないでいた。

 着飾った俺達は確かにアイドルみたいだ。

 華やかな衣装と、俺達の個性に合わせたメイクで素人感はゼロに等しい。


「葉璃、着替えよ。 ……仙台、俺も一緒で、いいのかな? ほんとは葉璃だけ、お呼ばれしたんじゃない?」
「あ、それは心配ないよ。 聖南さん、来いって言ってはいたけど、会見後の俺達にライブを観てイメトレしなさいって事なんだと思う」
「そうだと、いいけど……。  知らなかったから、何も準備してないな」
「それも心配無いよ。 俺も知らなかったし、会見の事で頭いっぱいで何も用意してきてない」


 へへ、と笑うと恭也が安心したように目尻を下げた。


「葉璃、今日初めて、笑ったね。 ……頑張ろうね、葉璃。 二人で」
「うん……! 俺、恭也となら死ぬまでがんばれそうな気がする!」
「ふふっ……俺より先には、死なないでよ」


 私服に着替えながらそんな会話をして、ついさっきまでぶっ倒れそうだった俺は猛烈な緊張感が無くなったからか、嘘みたいにケロッとしていた。

 会見場である事務所二階の大広間にはまだマスコミが数名残ってたから、取り囲まれないように急ぎ足で階下へと向かった。

 入り口で待っててくれた林さんに駅まで送ってもらって、俺と恭也は仙台行きのはやぶさに手ぶらで乗り込んだ。

 車内でお弁当を買って二人で食べたんだけど、何だか小旅行に行くみたいでワクワクしてしまう。


「ここ、俺達の貸し切りなの?」
「グリーン車で、しかも指定席で、この時間で、……となったら、貸し切り状態でも、おかしくないかも?」
「そういう事かぁ……」


 聖南が取ってくれてたのはグリーン車の指定席で、この車両には俺達以外誰も居ないからとっても快適だった。

 でも新幹線に初めて乗る俺は、窓から見える景色がこんなに早く流れてくって知らなかったから怖くなって、恭也に窓際を代わってもらった。


「ふふっ……怖いんだ」


 最近恭也は、事あるごとにこうしてクスクス笑いながら頭を撫でてくる。

 よく笑うようになったのも、表情のバリエーションが増えた事も、すごく良い事だって思ってるけど……まるで弟扱いされてる気分だ。

 同い年だけど、もはや俺と恭也は似た者同士ではなくなったから、ほんとに恭也がお兄ちゃんだったらいいのに……なんて考えて一人で笑った。

 何たって、うるさい春香より恭也の方が波長が合うからなぁ……。


「葉璃、次だよ」


 車両内に音楽と次の停車駅がアナウンスされて、変な想像をしていた俺は弁当の空箱が入った袋をギュッと握った。


「うん……」


 うっかり忘れてた。

 今は恭也との小旅行じゃなくて、俺は聖南に会いに行くんだった。

 大好きな聖南に会いに行って、CROWNのライブを間近で体感して、来週末からの本番に備えなきゃいけない。

 『ライブ後の俺と愛し合う覚悟して来い』って聖南は怖い事言ってたけど……。

 恭也といると学生気分が抜けないというか、のんびりした温かい時間が流れるからついつい現実を忘れてしまう。

 スマホで時間の確認をすると、間もなく二十時だった。

 到着してもまだライブの真っ最中だろうから、迎えに来るって言ってたのは無理だろうなと思って恭也と一緒にライブ会場に出向く事にした。

 今日はラジオの公開生放送がない日だけど、同等の時間に終わるように内容を変更してると言ってたから終了は二十二時前後だ。

 ライブ会場までどうやって行こうかと恭也と話し合って改札を抜けると、向こうから見慣れた顔が近付いてきた。


「恭也君、葉璃君、こっちこっち」
「成田さん……!」
「……お疲れ様です」


 何故か成田さんもマスク姿だったけど、出で立ちやちょっとボサボサの髪ですぐに誰だか分かった。

 ここに成田さんが来てくれたって事は、聖南が迎えを頼んだんだってすぐに理解して、俺達は早足で成田さんの車に乗り込む。

 まるで土地勘のない仙台駅構内で迷子にならずに済んで、心底ホッとした。


「会見見たよ~! 二人とも、まさに新人アイドルって感じで初々しかったね! 良かったよ!」
「そうですか、……安心しました」
「林さんも言ってたね、初々しかったって。 俺ほんと覚えてないからなぁ……何て言ったんだろ……」


 マネージャーである林さんと成田さん、そしてマスコミの評判も「初々しい」だなんて、単に俺が緊張してガチガチだったからな気もしなくもない。

 だって恭也はすごく堂々としてたもん。


「ぷっ……覚えてないんだ? セナが録画してたから、後で見たらいいよ。 緊張した顔はしてたけど、質問にはしっかり答えてたから大丈夫」
「録画……!? そ、そんなの録画しなくていいのに……」
「……するでしょ、録画。 俺も家で、録画設定してきたよ」
「え!? 恭也、準備いいね……!」
「オドオドした葉璃、何度も見返そうと思って」
「なんで……っ!? 悪趣味過ぎない!?」
「……こういうとこ、俺とセナさんは、考えが一緒なんだよ。 悪いけど」


 ふふふっと不敵に笑う恭也は、俺の知ってる恭也じゃない。

 意味の通じる成田さんも大笑いしてるしで、俺はめちゃくちゃ複雑だった。

 俺だけが微妙な気分な中、車を走らせてそんなに経たずに、ライブが行われている競技場へと到着した。



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