必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 今日明日の会場であるこの場所の収容人数は約四千七百席で、内部も工夫をこらしてやっとコンサートが開ける状態になった。

 あまりライブ等は行われない、わりと規模の小さめなこの競技場を選んだのには訳がある。

 明後日のアリーナが一万人規模なので、Tzホールよりさらに客席へと近付けるこの会場でなくては地方2DAYSの意味がない。

 せっかく各地を回るならば、CROWNのパフォーマンスを間近で見てほしい。

 大きな会場で大歓声を浴びるのもいいが、デビュー当時を思い出させてくれるこのくらいのキャパの方が聖南は好きだった。

 今日も眩しいほどの笑顔と歓声に囲まれていて、集まってくれたファン一人一人と視線を合わせていく。

 ファンとの距離がかなり近いため、客席へと寄ると『セナかっこいー♡』『セナ大きいー♡』『髪の色さいこー!  真似しまーす♡』などなど生で嬉しい言葉をたくさん聞けた。

 その度に歌唱をやめて、

『かっこいーと思うなら推し変えするな、浮気するなよ』
『大きいってやらしい言い方すんな』
『ありがとー! 真似したら事務所に写メ送れー!』

などといちいち返答していたので、アキラとケイタが聖南のパートを声量抑え気味で歌わなければならなかった。

 ファンサービスを越えたそれに、客席からは黄色い声援が治まらない。

 今日明日はラジオの公開生放送の日ではないので、現在セットリストに追加した三曲を終えてアンコール前のフリートークへと入っている。

 ラストの三曲だったにも関わらず、聖南はほとんど歌ってはいなかったが。


『ありがとう仙台~!!!』


 三人はそれぞれの立ち位置で感謝の気持ちを込めて叫ぶと、一度大きく頭を垂れてマイクを握り直す。


『……いやぁ、いいね、この距離感』
『そうだな、久しぶりの感覚だった。 ここ元々はスポーツの練習とか大会が主な場所らしいな』
『そうなんだよ。 でもみんなの顔近くで見たいから頑張って取り締まった』


 聖南がそう言って会場に向かって微笑むと、ファン達は「キャーーッ♡」と派手に湧いてくれた。


『セナってさ、一見なーーーーんにもしなさそうなのに、会場の選別までやってるから驚きだよね』
『なんにもしなさそうっての、そんな力込めて言う事なくない? 俺どう見えてんの?』
『大半がケイタと同意見だと思うけど』
『だろ? 「じゃあとはよろしく!」ってツアースタッフに丸投げしそうだよ。 あ、見た目ね! 見た目!』
『いやその見た目が一番重要じゃねぇかな。 もうちょいエリートっぽさ出したらいい?』
『セナがエリート? ……ないな』
『なんでだよ!』


 ケイタが早速、聖南のイジりを開始した。

 それが分かっていながら、裏表を作りきらない聖南は真剣に返答していて笑いを誘う。

 先程の歓声が嘘のように、三人のトークを聞き逃すまいと会場は静まり返っていた。

 聖南がエリートなんて似合わねぇ……と笑うアキラに、ケイタもつられて笑った。


『何だろうね? 滲み出るチャラさがそうさせてんのかなぁ?』
『ケイタ、それセナにとって禁句なんじゃ…』
『え? 何が? 滲み出るってとこ?』
『違げぇよ! チャラいっつったろ!』


 その言葉を避けたいがためにチャラついた髪型はやめているのに、滲み出るとは何事だと聖南は憤慨した。

 もしそれが本当なら、髪型や髪色を気にしたところで変わらないではないか。


『てか……滲み出るが禁句って。 マジの禁句っぽいな』
『お? 珍しい。 アキラが下ネタ言ってんの。 みんなー今超貴重な瞬間見れたぞー!』


 クスクス笑いながら見てきたアキラが聖南をイジるつもりで呟いたのだが、聖南はそんな事よりもレアな台詞に食いついてしまう。


『やめろよ! 下ネタなんか言ってねぇ!』
『あーセナ見て見て、アキラ照れてる~』
『照れてんのかぁ、アキラは下ネタ滅多に言わねぇもんな。 みんなそうイジってやるなよ~』
『イジってんのお前らだろ!』
『だって貴重過ぎたからついね。 イジりたくもなるよね! ……ほら、みんなも頷いてる!』


 素でもとにかく落ち着いた印象のアキラは、メディアに出る際はもっと強くそのクールさが前面に出ている。

 それにより、ケイタと違ってアキラはドラマのオファーがお硬い内容ばかりだ。

 葉璃との情事の話も積極的には聞きたがらない事からも、それほどそういう話は好きではないのだろうと思っていたので、ケイタも聖南も物珍しさでついつい客席をも巻き込んでアキラをイジっていた。

 アキラが本気で怒りだす前に、聖南が無意識に軌道修正する。


『とりあえず今日は俺イジられないみたいで良かった』
『明日のお楽しみっつー事で。 今日の反撃材料探しとこ』
『おいおい、アキラが言うと怖えよ。 ケイタは裏でいっつもイジってっから飽きたしな』
『飽きたってヒドくない!? ってか俺イジられてる意識無かったんだけど!』
『幸せだよ、その能天気さ』
『ほんとほんと。 アキラと違ってまだ高校生みたいなノリ多いもんな。 二十歳には見えねぇよ』
『それ絶対バカにしてんだろ……』
『若いってイイナ』
『イイナ』
『聖南、アキラ、後で覚えとけよ!』
『残念だけど裏行ったらそんな小せぇ事もう覚えてらんねぇよ。 ライブ後はみんなのせいで興奮してっし。 な?』


 二重の瞳を細めて会場を見回すと、歓声というより悲鳴に近いものが上がる。

 聖南のファンは、この強気な俺様発言が大好物らしくしばらく♡マーク付きの悲鳴が飛び交っていた。

 それは、なかなかトークが再開出来ないほどであった。


『……セナほんっとたらし文句うまいよね!』
『俺そんな台詞思い付きもしねぇよ。 思っててもなかなか口には出来ねぇ』
『みんなが喜んでくれるなら俺は何度だって言ってやるよ』
『出ました、俺様』
『俺のファンはこの丸裸のセナを愛してくれてんだからいいの。 ケイタとアキラに何と言われようが気にしませーん』


 なっ?ともう一度客席に向かって八重歯を覗かせると、「大好きでーす!♡」「愛してまーす!♡」と至る所から返事が返ってきて、聖南はご満悦だ。

 アキラとケイタは、普段とまるで変わらない聖南の姿に感心しきっていた。

 これだけ素のままでやっているアイドルは聖南以外に居ないだろうと思いながら、二人は満面の笑みをくれる客席をぐるりと眺めた。



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