必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 葉璃にギュッと抱き付かれたので、りんご三個分のように軽い体を抱き起こして股の間に座らせる。

 聖南も強く抱き締め返して存分に葉璃に甘えた。

 胸元に可愛く頬擦りしてくる度に、聖南の中心部は分かりやすく膨張したが、やる気満々だった先程の欲望は、胸がいっぱいな今はそれだけに留まらない。


「すごいですよね、……必然って言葉」
「あ、それ……」


 葉璃がしみじみと呟いた、まさにその言葉によって聖南の心の扇動が始まった。


「聖南さんも言ってたし、俺達の事知ってる人はみんな口を揃えて言うんですよ。 俺と聖南さんが出会ったのは必然だって」
「俺も今日、てかさっき、アキラとケイタに言われた」
「え……、あー! 分かった、それで聖南さんあんな風になっちゃってたんだ」


 なんだ、そうだったんだ……と葉璃が納得の声を上げて聖南を見上げた。


『……お、……かわい』


 顔を傾けてチュッと触れるだけのキスを落とす。

 完全に無意識だった。


「……そうみたい。 それ聞いて、なんか急に怖くなってな。 ……葉璃が居なくなったら俺はどうなんのって」
「それ、聖南さんは前から言ってましたよ」
「そうなんだけど、さっきここ痛かったのはちょっと違ったんだよ。 すげぇ重たかった。 何なの、これ」


 突然のキスに頬をピンクに染めた葉璃に見惚れながら、聖南は胸元に手をやった。

 葉璃が居なくなったら……と考えて恐怖を感じていたのは、いつもの事。

 少しでも葉璃の想いが離れたと感じると、胸に穴が空いた!と騒ぐ事もいつもである。

 今日はそのいつもとは違ったのだ。

 もっと深いところから恐怖が襲ってきて、 "もしもそうなったら" の想像は重たくて、痛くて、胸が苦しかった。

 眉を顰めて痛がる仕草をする聖南を見て、葉璃が小首を傾げる。


「…………成長、したんですかね?」
「やっぱそうかな? じゃあもっといっぱい褒めて」


 そう言ってきゅっと体を抱くと、葉璃がクスクス笑いながら背中を撫でてくれた。

 葉璃からの抱擁が一段と強くて、愛を感じられて嬉しい。


「そっか……痛くて重たかったんだ。 ……聖南さん、俺を離さないでくださいね。 成長した聖南さん、誰にも取られたくないよ」
「……俺こんなだから葉璃にしか手に負えないと思う」
「あはは……! そうですね、そうかもしれないです。 俺には、どんな聖南さんもカッコよくて可愛く見えてますよ。 仕事してる大人な聖南さんも、今こうやって甘えてる聖南さんも、俺は大好きなんです」


 葉璃の何気ない台詞に、目を瞠った。

 こんなにも想ってもらえていたのだと知ると、自分にはこの純粋な好意は贅沢過ぎるかもしれないと無用な遠慮をしてしまう。

 温かい気持ちが、さらに聖南の体内に広がった。

 その穏やかな愛が、不安や恐怖を見事に打ち消してくれる。


「ありがと、葉璃……。 あ、でもな、余裕かましてる時は何も言わないでやって。 葉璃の前でカッコつけてる時ちょくちょくあるから」
「そこまでバラしちゃっていいんですかっ? ……俺の方こそ、ぐるぐるするの許して下さいね。 上がり症なのも、大目に見てください。 面倒だなって思わないでほしいです」


『そんな事、思うはずねぇじゃん。 ……強くなったなって油断してたらネガティブ出してくるのがいいんだよ。 分かってねぇな、葉璃……』


 葉璃はとても真剣に言っていたので、聖南の胸中は口には出さなかった。

 聖南も、葉璃も、まだまだ成長の途中なのだ。

 大人になるにはあと何年かかるか分からないけれど、二人で一緒に少しずつ成長していけたらいい。


「かわいーから大丈夫。 葉璃はかわいー。 何をどうしたってかわいー」


 まるで成長しきれていない聖南の心が、一つ大きな前進を見せた。

 単に愛でる対象から、聖南を導いてくれる唯一の光となった葉璃を静かに横たえる。


「ちょっと待ってて」


 思わずドキドキしてしまうほどのうるんだ瞳で見詰められて離れがたかったが、聖南はサイズ違いのバスローブを二着持って戻ってくると、葉璃に小さい方を着せた。


「冷房入れてるから寒い? 切ろうか? あーでも切ったら暑いよな」
「え、? いや、大丈夫です、けど……」
「飲み物は水で良かった?」
「あ……はい、……、んっ」


 口移しでミネラルウォーターを飲ませてやり、聖南もバスローブを羽織って葉璃に腕枕をしてやると、何か言いたげに見詰めてくる。

 その瞳から伝わってくる思いが手に取るように読めて、可愛くてたまらない。


「聖南さん、あの……」
「ん?」
「ううん、……なんでもない、です」


 言わんとする事を分かっていながら、聖南は葉璃を抱き寄せて密着する。


「何だよ」
「いや、ほんとになんでも……」
「 "今日はエッチしないんですか?"   だろ」
「えっ……!」
「しねぇよ、今日は」


 キッパリそう言い放つと、葉璃の体がピクッと反応した。


「したくないわけじゃねぇよ。 めちゃくちゃしたいけど、今日はしない。 ……こうしてたいんだ。 セックスするだけが愛を伝える手段じゃねぇ」
「……聖南さん……」
「それにな、今日は葉璃をあったかーく感じてたい。 こうしてたら深く眠れるから。 ……言ったじゃん、俺もう葉璃が隣に居てくれないとよく眠れねぇんだよ。 今日はたくさん成長してちょっと疲れたし」
「……ふふっ……聖南さん可愛い……」
「葉璃の方がかわいー」


 抱きたい欲求は確かにあるのに、感情の変化が目まぐるしかった今日は精神的にかなり疲弊していた。

 大好きな葉璃が小さな体をいっぱいに使って聖南を抱き締めてくれるから、それだけでセックスと同じくらいの充足感がある。

 ツアーが始まってからはすれ違いに次ぐすれ違いで、もう何日も葉璃が隣で寝てくれていない。

 聖南は連日の分刻みの多忙さで、少々の寝不足もあった。

 このまま緩やかに夢の世界へと堕ちていこうとしたのだが、葉璃がムニムニと聖南の腕からすり抜けて体を起こす。


「いや、今日は特に聖南さんの方が可愛いです。 ……俺が腕枕してあげます」
「え、嬉しいけどダメだ。 腕痺れたら可哀想」
「大丈夫ですって。 ……おいで、聖南さん」
「……ん」


 聖南は生まれて初めて、腕枕をされた。

 小さな頃から一人寝だったからか、慣れない。 変な感じだ。


「大丈夫? 腕痛くねぇ?」
「大丈夫です。 いつも聖南さんがしてくれるみたいに、背中、トントンしてあげる。 ……おやすみ、聖南さん」


 もう寝ましょうね、と耳元で言われて抱き寄せられると、本当に一定のリズムで優しく背中をトントンしてくれている。


『すげぇ……何これ、魔法みたい……』


 葉璃の体温と声、そして背中に感じる控えめなトントンで、聖南はものの数分で欠伸を連発し始めた。

 ───眠たい。


「おやすみ、……愛してるよ、葉璃……」
「俺も大好きです。 ……おやすみなさい」



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