必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 翌日、聖南はたっぷり取った睡眠のおかげか俺より先に起きて朝からハツラツと動き回っていた。

 ルームサービスで頼んでくれた朝食を一緒に食べて、俺にたくさん頬擦りしてから聖南はライブ会場へと向かってしまった。

 俺は今、ホテルの部屋でポツンとひとりぼっちだ。

 恭也を起こすにもまだ早い時間で、落ち着かない俺はだだっ広いホテルの一室を少しだけウロウロした後、窓から外の景色を眺めた。

 街の中心にあるこのホテルからの眺めは、下方に建ち並ぶ家々、同じ目線には似たようなマンションやホテルが数件、はるか遠くに見えるのは緑豊かな山、右斜め前には大きな商業施設とかなり賑やかだ。

 窓の外も長くは見てられなくてベッドにころんと横になった俺は、掛け布団を頭まですっぽり被って、寝る気はないけどあとちょっとだけゴロゴロしてやると決めた。

 俺のお休みはこれから先不定期に、いや、もしかしたらしばらく休みなんて無いかもしれないから、今日だけはいいよね、と誰にともなくお伺いを立てる。

 温もりの残るシーツと布団に包まれていると、聖南がまだここに居るような気がして無性に会いたくなった。

 相変わらず起き抜けだけはあんまり食べられない俺を見て、『もぐもぐ葉璃ちゃんは夜までお預けか』と言って笑っていた聖南を思い浮かべると、胸がキュンってした。

 カッコいいなぁ聖南さん……なんて一人で惚気けて、その場で二回コロコロっと動いたそこでハタと今朝のシーンが回想される。

 そういえば昨日の夜も今朝も、いつもは口移しで飲み物を飲ませてくれるのにペットボトルを手渡された。

 あれは「自分で飲んで」という意味だったんだと今さら知って、体が固まる。

 昨日から聖南とキスもしてないって事に気付いてしまって、……膨れた。


「なんで……しなかったんだろ……」


 今まで、二晩連続で清らかに寝た事なんか無かった。

 夜しなくても朝には……ってパターンはもはやお決まりで、会えば必ずエッチしてたのに……変だ。


「や、やば…………」


 聖南の香水の匂いがベッドに染み付いていた。 おまけに何日もお預け状態。

 エッチをするしないの妄想をしてたらムラムラしてきてしまった。

 大好きな恋人はすでに今日の会場へ行ってしまったのに、……どうしたらいいの。


「………………」


 ちょっとだけ頭の中を無にして、萎えるのを待ってみた。


「…………ふ、っ……」


 む、むり、無理だ……。

 考えないようにすればするほど聖南の姿を脳裏に映し出してしまって、半勃ちだったそこは下着の中で完全に張り詰めてしまってる。

 じわじわと自分で触ってみると、久しぶりの自慰の感覚に囚われて……つい扱いてしまった。


「ぁ、っ……ん……」


 聖南の声、体躯、昨日のライブで魅せられたアイドル様の姿、俺が大好きだと思うところ全部がオカズだった。

 先走りが溢れ出てきて、扱いてるそこがぬるぬるしてくる。

 あんまり自分でした事がないまま、オトナな聖南に快楽を教えられてしまったからか何だか全然物足りない。


「……っ……んっっ───」


 呆気なく、ささやかな快楽は数分の事だった。


「……ぅぅ……聖南さん、ごめん……」


 いつもは射精したら目の前にお星様がキラキラするのに、今はとってもクリアだ。

 頭がぼんやりする事もなくて、俺はベッドから飛び降りて走ってバスルームに逃げ込んでシャワーを浴びた。

 いくらエッチしてないからって聖南をオカズに抜くなんて……俺ほんとにどうしちゃったんだろ……!?

 自分で自分が恥ずかしい。

 よく分かんないけど、聖南は我慢するって言ってたのに俺は……堪えきれなかった。


「……聖南さん……会いたいよ……ギュッてしてほしいよ……」


 昨日も一昨日も、聖南のものはあんなに固くなってたのに……俺とエッチしたいって思わなかったって事なのかな……。

 シャワーヘッドからのお湯を頭から浴びながら、自身の体を抱き締めた。

 切ない、って、こんな気持ちの事を言うんだろうか……。

 鬱々とした気持ちのまま、聖南が用意してくれていた私服に着替える。

 何も持たずに新幹線に乗り込んだ俺達に、聖南は五着も着替えを準備してくれていた。

 恭也と俺に似合いそうなものをチョイスしてる辺り、さすがだ。


「……な、何も残ってないよね……っ?」


 着替えを済ませて、聖南から教えてもらった引き出しからドライヤーを取り出して髪を乾かし、ついさっき自慰をしてしまったベッドを確認する。

 何か恥ずかしい痕跡が残ってたら嫌だ。

 ベッドメイクに入るホテルのスタッフさんに何かを発見されるなんて耐えられなくて、念入りにチェックしてから恭也の元へ向かった。

 今日はライブの準備段階から見学していいって事だから、恭也とは十時に約束してる。


「あ、葉璃。 おはよ」


 すでに支度が済んでたらしい恭也は、俺のノックと同時に扉を開けてくれて、穏やかに挨拶をしてきた。


「おはよ」
「葉璃、林さんから伝言」
「え、何?」


 俺は別の事で頭がいっぱいだったからすっかり忘れてたマスクを、恭也が手渡してくれた。

 マスクのゴムを耳に掛けながら恭也に視線をやると、真剣な表情で見下ろしてくる。


「ETOILEへの仕事依頼が、凄まじい事になってるから、八月から仕事開始だったの、前倒しにしていいか、って」
「凄まじい……!?」
「スケジュール帳の、写メまできたよ。 俺達のグループLINEに、貼ってあるから、見てみて」


 エレベーターを待つ間、昨日からずっとほったらかしてたスマホをポケットから取り出してLINEを開いてみた。


「……!?! これ何て書いてあるんだろ!?」
「真っ黒でしょ」


 こ、こんなにすごい事になってるの……!?

 貼ってあったそれは七月と八月のスケジュール帳の写メだったんだけど、罫線が見えないくらいビッシリと文字が書き込まれていた。


「……うん! これって、俺達にきた仕事って事……だよね?」
「そう。 デビュー直後なのに、ありがたいよね」
「ほんとだね……俺は素人同然なのに……いいのかな……」
「何言ってるの。 葉璃はもう、ETOILEなんだから、素人じゃないよ。 ……ちょっと早いけど、気持ち作らなくちゃね。 頑張ろうね」
「うん……、うん、がんばろ!」


 実感なんてものはまだ変わらず全然ないけど、この仕事をこなしていったらいつか、俺もいっぱい成長できるかもしれない。

 聖南の背中に手が届く日がくるなら、頼もしい恭也がいる限り俺もがんばるって決めてる。

 逃げたいって思ってた俺はもう居ないから、スケジュールで真っ黒に染まった写メを見詰めても怖じ気付く事は無かった。




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