必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 俺と恭也は、ホテルの正面玄関で待っていてくれた成田さんの車に乗り込んだ。

 昨日の会場より少し離れた場所にあるアリーナへと到着すると、その広さにまず言葉を失った。

 ステージから見て最後方の客席はほんとにCROWNの姿見えるの?ってくらいだ。

 メインステージと繋がった中央にある楕円形のステージは昨日の倍は大きくて、鉄製のフェンスがぐるりと囲った客席との距離も今までよりずっと遠い。

 聖南がアリーナやドームなど大きな会場以外の地方公演で、三千~五千人規模の会場を押さえた意味が分かった気がした。

 事件やスキャンダルで事務所の偉い人達に叱責された聖南が奮い立ち、毎日毎日本気でこのツアーの企画に取り組んでいた理由。

 非難轟々で、ファンにも見離され、芸能界に残れなくなってもおかしくないほどの特大スキャンダル(女性絡みだから尚さらだ…)に、聖南は自身の過去を相当戒めていた。

 俺と出会う前の聖南はほんとに無茶苦茶してたみたいだから、いくら仕事上では便宜を図ってもらっても、視聴者やファンから必要とされない限り引退を余儀なくされる世界だ。

 どんなに聖南の立場が揺るぎないものでも、それはとても簡単に。

 だからこそ、聖南は全員を納得させる術をこのツアーに託した。

 メディア出演やラジオでの生の声で、順調にファンとの絆を深めていった聖南は、ツアーの成功をすでに実感し始めているに違いない。

 大きな会場はそれだけコストもかかるし、いくら聖南達が動き回って近寄ったとしても客席との距離は物理的に遠くなる。

 チケットを気持ちばかり安価に出来て、かつ普段は絶対に見る事の出来ない至近距離でCROWNを堪能できるともあれば、地方公演が即SOLD OUTだというのも頷けた。

 後から聞いた話だけど、どうしても開催規模によって異なるチケット料金は一律にしてほしいと主催者側と販売元の両方から難色を示された際、聖南は『ファンクラブ会員用の購入枠を設けないんだから、それくらいやって。  面倒なのは自分らだけだろ。  来てくれるファンの心境考えたら俺はそんな事は言えねぇなぁ』とさりげなく叱咤したらしい。

 キャパでチケットの料金を変動させて、いつもは回れない地方のファンのために会場を選ぶなんて……戒めや返礼、叱責してきた偉い人達への善良な報復としては大成功だ。

 我が恋人は、完璧なまでに計算し尽くしている。

 ケイタさんがラジオの公開生放送で言ってた事も、思い出す。

 聖南って何も考えてなさそうだから余計に尊敬の念が強まるんだ、あらゆる方面から。

 スタッフに丸投げしそう、なんて事も言われてたけど、責任感の強い聖南は絶対にそんな事しない。

 まぁ、見た目はしそうだけど「しそう」なだけで、丸投げなんかしない。

 自分でやり切ってみせる、って強く思ってそれを確実に実行に移してるから、ほんとにカッコよくてたまんないよ。

 男としても、先輩としても、恋人としても、すごくすごく誇らしい。

 …………エッチしてくれなかったけど。


「……はる、葉璃。 どうしたの、今日ずっと、そんな調子だよ? 具合、悪い?」
「へ? あ、あ、いや……なんでも……」


 午後の通しリハーサルが終わって、いよいよ開場となったアリーナには続々とファン達が集まってきていた。

 俺と恭也は関係者専用の控え室に居るんだけど、スーツ着た偉い人達もたくさん居て談笑し合っていて、隅っこに居ても落ち着かない。

 ぼんやりしていた俺の顔を覗き込んできた恭也が、ほんの少し怒った目で俺を見てくる。


「ウソ。 俺、どれだけ葉璃の事、見てると思ってるの。 何かあるなら、話して」
「や……でも……」
「葉璃。 言わないと、ここでコチョコチョするよ」
「ダメっ、俺達居るのバレちゃダメなんだからっ」
「じゃあ全部話して」
「……うーー……」


 最近の恭也はちょっと怖い。

 俺をひたすら甘やかすところは変わってないけど、見て見ぬフリをしてくれなくなった。

 俺がぐるぐるしてるとロクな事が起きないのを知ってるからだろうな……。

 大人がたくさん居るこんな場所でくすぐられて爆笑なんて出来ないし、俺は渋々話した。

 耳打ちしようとしたけど背伸びしても届かなくて、「恭也、ちょっと屈んで」と言った事実に悲しくなりながら。


「分かったよ。 実は……」


 俺と聖南の事を知ってて、親友である恭也にならと掻い摘んでだけど打ち明けてしまった。

 昨日も一昨日も聖南とエッチしてなくて、もう俺を抱きたくないって思ったのかなって不安を覚えてしまった事と、今朝の……アレも。


「んっ? ちょ、ちょっと、葉璃。 俺そこまで、聞いてないよ」


 我慢出来なくて朝自分でしちゃった、って言った途端、恭也は屈んで丸めてた背中をピンと張らせた。


「でも全部話してって言ったよ、恭也」
「言ったけど……! そ、その……俺の部屋に来る前に、したって事?」
「うん」
「うんって……。 葉璃、あのね、そこまで言わなくて、大丈夫。 ドキドキしちゃうからね、他人には、絶対に言わないようにね?」
「お、俺だって言うのドキドキしたよ! でも俺はそっちじゃなくて、聖南さんとの事の方が不安で……」
「それも大丈夫。 今日は覚悟、しておいた方がいいよ」
「えっ? なんで分かるのっ?」


 マスク越しに恭也の瞳が細められて、もしかして微笑んでるのかなと思ったけど確かめられない。

 聖南がもう俺に興味無くなっちゃったのかもって思ったら悲しくてたまんないのに、なんで微笑むんだろう。

 なんで、大丈夫って言い切れるんだろう。

 ジッと恭也の瞳を見詰めてたら、今度は恭也が屈んで俺に耳打ちしてきた。


「俺とセナさん、考えてる事が似てるって、言ったでしょ」
「あ……うん、言ってたね」
「変な事、心配してないで、ライブに集中しよ。 俺と葉璃の初舞台は、ここよりもっと大きいからね」
「うん……って、恭也、変な事って言わなかった?」
「言った。 葉璃のネガティブ、可愛い。 とってもくだらない惚気で、悩んでる」
「えぇっ? くだらない惚気ってそんな……! 恭也……最近ほんと意地悪……」 
「意地悪かなぁ? 分かんないなぁ。 葉璃の事、こんなに大好きなのに」


 ライブ会場の関係者席へと向かうご機嫌な恭也の背中を追い掛けながら、俺はマスクの中で盛大に膨れていた。

 くだらなくないもん。

 いくら聖南と恭也の考え方が似てるからって、せっかく打ち明けたのに一蹴された俺の不安は、より一層増した。

 ついでに、恭也が俺にだけ意地悪になってきてる事にも膨れている。



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