441 / 541
60♡
60♡6
今朝の自慰が後ろめたくて、しかも何故か俺を抱かなかった聖南に会う勇気も無くて、久しぶりにスマホの電源を落とした。
今日は控え室行ってもいいよって成田さんに言われたけど、俺は頑なに拒否して、昼食と本番前も会いに行かなかった。
いや、行けなかった。
切ない気持ちと恥ずかしい気持ちで心が忙しくて、重要なライブの本番前に俺のぐるぐるで聖南を煩わせたくもなかったんだ。
通しリハーサルの見学中、聖南から鋭い視線がビシビシきてたけど、話し掛けられないようにちょこまかと移動して恭也を盾にもさせてもらった。
この広い会場は今日も絶賛満員御礼で、大歓声の中、聖南も昨日の倍は動き回っている。
アキラさんとケイタさんとの絶妙な掛け合いも健在で、ファンは黄色い悲鳴をひっきりなしに上げて会場を盛り上げていた。
その人数が今までとは桁違いな分、それはそれは凄まじい歓声だ。
俺と恭也は、今日は主役のCROWNよりもダンサーのお兄さん達の動きに注目して観ている。
端に立つ自分の姿をイメージしながら、俺達が踊る曲を口ずさみつつ手元だけ振付を真似してイメトレに専念した。
初舞台はこの会場のさらに三倍の収容人数らしいから緊張するなって方が無理だけど、そうも言ってられない。
真っ黒に染まったスケジュール帳の写メが脳裏によぎって、今は聖南とのエッチ云々よりイメトレが優先だって珍しく俺は前向きだった。
恒例のプレゼント大会が相当な盛り上がりを見せ、また少し終了時間がおしてしまってスタッフさんはバタついてはいたけど。
半裸の聖南達がアンコール二曲を歌い上げると、大きく一礼してステージを捌けて行った。
『三日連チャンで言うけど、出待ちしてたら怒るからな! 速やかに帰るんだぞ!』
捌けたはずの聖南が姿を見せないままマイク伝いにそう言うと、会場から一斉に「はーい!♡」と返事が巻き起こる。
落とされていた照明が明るくなり、CROWNの世界から一気に現実へと引き戻されたファン達は口々に感想を言い合いながらアリーナ会場を後にしていた。
俺もまだどこか夢うつつで、興奮気味な彼女達の気持ちに寄り添う。
大音響で歌って踊る三人とバックダンサーのお兄さん達は、誰が見ても眩しく輝いていて、ほんとに現実を忘れさせてくれた。
トータルすると、ほんの三時間。
でもその三時間、この空間はCROWNという幻のように大きな光に満ち溢れていた。
スタッフさんの迅速な誘導で、ほとんどの観客が居なくなった客席は、物悲しささえ漂う。
「……うん。 今日も、素晴らしかったね」
控え室へと戻りがてら、恭也も興奮が覚めないのか僅かに声が明るい。
さすがに打ち上げは参加しないといけないから、何食わぬ顔して聖南と会う別の「覚悟」をしなくちゃ。
本日のCROWNのライブ成功を労い合う、周囲の賑やかな大人達から外れた場所で、俺と恭也は向き合った。
「そうだね……。 昨日も思ったんだけど、ライブの後のステージってなんであんなに寂しそうに見えるんだろ」
「主役が居なくなったから、じゃない? 主役を輝かせるために、あるんだから」
「主役を輝かせるため……」
「俺達も、あそこに立つんだよ。 葉璃、実感、湧いてきた?」
「え? ……うーん……実感とは少し違うかな……。 イメトレはしてみたけど、俺があそこに居る想像は全然出来なかった」
「葉璃は、本番に強いから、羨ましい。 俺も想像なんて、出来なかったよ。 でも、やらなきゃ。 必要としてくれる人が、一人でもいる限り、ね」
「そう、だね……。 俺達はもう、ETOILEなんだもん」
恭也がいつになく俺を奮い立たせてくれる。
CROWNのライブの様子や観客のレスポンス、ステージでの動き方、この規模の会場での音の反響具合、それらを実際に体感出来ただけでも貴重な経験だった。
映像だけじゃ、この感覚はとても味わえない。
聖南が俺と恭也を呼んだのは、経験はおろか想像も出来ないほど大きな会場でのライブを、肌で感じてほしいと思ったから……なんじゃないかな。
俺には『愛し合う覚悟して来い』なんてカッコつけてたけど、……そんな気がした。
「恭也、俺ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、俺も行こうか?」
「大丈夫。 すぐそこだったから」
心配そうな恭也にマスク越しだけど笑んでみせて、俺はライブ中ずっと我慢してたトイレに行こうと控え室を出た。
素晴らしいライブの真っ最中に席を立つなんて考えられなくて、ちゃんと始まる前も行ったはずなのに、恥ずかしいけど終盤から漏れそうだった。
急ぎ足で数メートル先のトイレを目指す。
男性マークへ向かって一目散だったから、空室であるはずの扉からニュッと出て来た腕に俺は気が付かなかった。
その手からグッと腕を握られて、一瞬で部屋へと連れ込まれる。
「うわっっ!?」
な、なんだ───!?
視界が一気に変わって、握られた腕の感触を感じながら瞬きを繰り返す。
あー分かった! 聖南さんだ!
すぐに悟った。 こんな事が何度もあった経験から、最初こそ驚きはしても喜びが勝って、冷静でいられた。
「もう、聖南さんでしょ? ほんとにこういう趣味あるんじゃ……なっ!!!?」
俺を空き部屋へと連れ込む常習犯である聖南だと確信して振り返ってすぐ、驚愕に目を見開く。
そこにはなんと、───。
あなたにおすすめの小説
【R18】兄弟の時間【BL】
菊
BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。
待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!
斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。
「じゃぁ結婚しましょうか」
眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。
そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。
「結婚しましょう、兄さん」
R18描写には※が付いてます。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤