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しおりを挟む俺がお父さんの事を「パパ」なんて呼ぶもんだから、聖南が「一体どういう事なんだ」と慌てふためいている。
「私がそう呼んでほしいと頼んだのだ。 聖南は他人行儀だから……」
「当たり前だろーが! 父親とは思えねぇって言ったじゃん! 何で葉璃に「パパ」なんて呼ばせんだよ! しかもこんなとこに連れ込みやがって!」
「いやぁ、驚くほど可愛らしい子だな。 聖南、やったな」
……ほんとだ……。 二人、普通に会話してる。
この現場を目の当たりにするまで、聖南とパパの関係は修復なんて絶対に不可能だろうって、そう思ってた。
ニヤリと笑うパパを見た聖南が、途端に俺の頭を撫でながら「だろ?」とデレた。
「マジ超かわいーんだよ。 見た目もだけど、俺は葉璃の中身にメロメロ……って、何言わせんだよ! ……葉璃、康平の事パパなんて呼ばなくていいんだからなっ? 妙な関係と勘違いされるぞ!」
「勘違いなんてされないよ……」
何を言ってるの、聖南……。
よく分からない事を言われて呆れながらも、連絡も取れず、今朝ホテルで以来話もしなかった俺と普通に視線を合わせてくれる事に何だかホッとした。
猛烈に怒られるんだろうなと思ってたけど、聖南はライブ後にも関わらず冷静だ。
「さぁ、アリーナ大成功の打ち上げに行こうか。 食事の件は必ず実行してもらうからな。 そのつもりで」
「はいはい。 また連絡すっから」
「よろしく頼むぞ。 あぁ、そうだった、君達が打ち上げから抜け出す事も私がうまく言っておいてやるから、気にするなよ。 序盤だけは顔を出しておきなさい」
聖南パパはそう言うと、颯爽とこの小部屋から出て行った。
スーツをビシッと着こなした後ろ姿は、会食の場でも不謹慎ながら思っちゃったけど……やっぱり聖南の未来の姿を見ているようでちょっとだけ素敵だ。
「……葉璃ー」
感慨深く扉を見詰めていたら、聖南からギューッと抱きすくめられた。
切なく俺を呼ぶ声にドキッとして、照れくさかったけど俺も聖南の背中に腕を回す。
「……聖南さん、ライブお疲れさまでした」
「ん。 お疲れ。 葉璃さぁ、まーた何かぐるぐるしてんの?」
綺麗な指先で俺の顎をクイと上向かせると、聖南が少し笑いながら瞳を覗き込んでくる。
俺がぐるぐるしてたって、やっぱバレてたんだ……。
「えっ……し、してない、……いや、ごめんなさい。 ……してます……」
「やっぱな。 何だよ、言ってみ? ぐるぐる葉璃ちゃん久しぶりだな」
「えー……っと……ここではちょっと……」
易々とこんな所で打ち明けられるはずもなくて、言葉を濁して苦笑する。
視線を彷徨わせてしまった俺を見て、聖南がフッと微笑んで頷いてくれた。
「言えないって? そんじゃ、打ち上げ顔出してさっさと抜け出さなきゃな」
「えぇ!? 抜け出すってそんな! CROWNは主役なのに!」
「もうすぐ俺の大切な人が主役になる。 だから急いで抜け出そ。 康平も社長もアキラもケイタも恭也も成田さんも、承知してくれてる」
「え?? っていうか、みんなじゃないですか! 承知してくれてるんじゃなくて、聖南さんが承知させたんでしょ……」
「ふふっ……俺の事が分かってきたじゃん。 葉璃、荷物はない? 手ぶらで来た?」
「はい、スマホと財布だけなんでポケットにあります」
「オッケー。 ……あっ! ヤバイ! 俺シャワー浴びて打ち上げ会場行くから、葉璃は先に行って待っといて!」
壁掛け時計に目をやった聖南が、見るからに慌て始めた。
く俺の頭を撫でてからバタバタと部屋を出て行ってしまって、面食らった俺だけがポツンと取り残される。
その焦りを象徴するように、廊下を走り去って行く足音が聞こえた。
……何をあんなに慌ててるんだろう。
あっ。 もしかして、恭也が言ってた事ほんとだったのかな……!
今日は覚悟しておいた方がいいって言ってたから、もしかして打ち上げを抜け出したらすぐにホテルに戻って……!?
「わっ、俺ダメだ! こんな事ばっか考えてる!」
聖南が抱いてくれなかった、って事は俺に興味が無くなってきたのかもしれない、それがほんとだったらどうしよう……なんて悪い方にばかり考えてたから、いつも通りギュッと抱き締めてくれた聖南の温もりが自然と俺を高揚させていた。
甘えん坊な聖南の背中をトントンして眠るのもすごく好きだったけど、一回くらいは……してほしかったんだもん……!
気持ちを与えてもらうばっかりだった俺は、キスさえ無かった昨日からのフラストレーションが溜まりに溜まっていて(今朝自分でしたのに)、ホテルに着いたらもう襲っちゃおうかなと企む。
だってもう、聖南から与えられるだけじゃ物足りなくなってる事に気付いてしまったから、自分から動かなきゃ……ね。
今日を逃したら来週までまた聖南と離れ離れになるし、このままぐるぐる悩むくらいならいっその事ぶちまけちゃった方がいい。
「ぐるぐるおしまい!」
誰も居なくなった室内に、俺の決意の声がやたらと響いた。
「…………んー……まずはご飯食べよ……」
大声を出して気付いた。
俺、お昼に恭也とお弁当を食べてから何も食べてない。
打ち上げ会場にはたくさん食べ物があるはずだから、聖南が抜け出そうとするタイミングまで俺は腹ごしらえする事に決めた。
今日も最高にカッコ良かった恋人がより誇らしく映るであろう打ち上げ会場で、聖南が色んな人と談笑する姿を思い浮かべる。
俺が聖南と同じ時間を過ごせる事がどんなに貴重で贅沢な事なのか、不毛だと思ってたぐるぐるの度に実感が増している事に気付いた。
大好きだからこそ、ささいな事で悩むんだ。
でもそれは好きな人がいる人間だったら当然の事。
俺は人一倍思い込んじゃうめんどくさい奴だけど、聖南はそんな俺を冷静に受け止めて理解してくれた。
聖南は自分を子どもだって言う。
───それは俺も一緒だ。
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