必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 関係者専用の控え室に戻った俺は、恭也と一緒に賑やかな打ち上げ会場へと移動すると、リハーサル室だったそこが簡易立食パーティーの場に様変わりしていた。

 スタッフさんや、聖南パパを含むスーツを着た大人達、ライブ後のテンションを引き摺ったバックダンサーのお兄さん達はすでに各々盛り上がり始めている。

 俺と恭也は隅っこに陣取って、なるべく誰とも目を合わさないように努めた。

 昨日デビューしたばかりの俺達がここに居ると記者さん達にバレたら、面倒な事になるらしい。

 成田さんからそう言われて納得したものの、この場でマスクをした二人組は余計に目立ってそうだ。

 紙コップに注がれたお茶を飲んで時計を確認すると、まもなく午後二十三時。

 程なく、シャワーを済ませた聖南と、アキラさん、ケイタさんがここへ入室するや拍手と指笛の嵐だった。

三人がマイクを手に、今日の日の成功、そしてツアーが順調に盛況をおさめているのはスタッフさんや関係者各位の協力によるものだと全員に感謝を述べて一礼すると、さらなる称揚の声が上がる。

 芸歴の長い彼らは演者である驕りみたいなものが微塵も無く、ただただCROWNを造り上げ支えてくれている周囲の皆に感謝していた。

 聖南を「ボス」と慕うのはケイタさんだけじゃない。

 たぶん、関わる人みんなが聖南の人柄と仕事ぶりに感嘆して、この人にならついて行きたいって思うんだ。

 アイドルとして、メディアに出る者として、事務所を引っ張る存在として、時には生み出す側の裏方として、幾多の才能を秘めた聖南が俺と居る事でもっと成長するだなんて。

 一体どこまで大きくなるつもりなんだろう……。

 いつまで経っても追い付ける気がしないよ。


「あ、美味しそう……」


 遠くでスーツの大人集団に囲まれてる聖南を確認してから、俺はひとまず腹ごしらえしようと目の前のこんがりチキンを手に取った。

「葉璃、行くぞー」

 俺は恭也の背中に隠れて、美味しそうな骨付きのチキンを食べようと大口を開けたその時。

 向こうに居たはずの聖南が、今まさにかぶりつこうとした俺の背後にやって来ていて腰を抱かれた。


「んえぇっ? 打ち上げ始まったばっかりですよ!」
「いいから。 おいで」
「ま、待って、このチキン食べてから……」
「それ持ったままでいいよ」


 行くぞって言われても、CROWNの挨拶が終わった直後だ。

 聖南は「さっさと抜け出さなきゃ」とか言ってたけど、そう簡単には無理だろうなって思ってたのにもう出ちゃうの。

 チキンを握ったまま離さない俺を見て、聖南が笑いをこらえている。


「セナさん、お疲れ様です。 葉璃、行ってらっしゃい」


 恭也にニコッと微笑まれて、そういえば俺はとても恥ずかしい事を彼に打ち明けてしまったから、ここを出る前に一応口止めしとこうと咄嗟に背伸びをした。


「あっ、恭也! あの……」
「何?」
「あの事、内緒にしててね」
「……分かってるよ。 もう忘れかけてたのに。 わざわざ、思い出させちゃってる」


 屈んでくれた恭也に耳打ちすると、またそうやって微かに目を細めている。


「……っ! 意地悪! でも好き!」
「こら、俺の前で他の男に好きとか言うな」


 言いたい事をなかなか口に出来なかった恭也が、意地悪だけどこんなに意思表示をハッキリしてくれるようになったのが凄く嬉しい。

 小声だったし聖南には聞こえてないと思ったのに、不満タラタラな顔でうなじをガブッと噛まれた。


「あぅっ! ちょっ、聖南さんっ。 こんなとこで噛まないで下さい! 誰が見てるか……」
「今のは葉璃がいけねぇよ、なぁ? 恭也」
「そうですね。 葉璃、セナさんの前では、それ禁止ね」
「何がっ? 何が禁止? ……うぅ、痛い……」


 うなじを押さえて聖南と恭也を交互に見る。

 まったく。 人がごった返してるこんな場でも、誰が見てるか分かんないのに。

 しかもちょっと痛いくらい噛み付かれた。

 二人はたまに、俺には分からない話をこうやって頭上で繰り広げるからすっかり置いてけぼりだ。

 左手にはチキン、右手はうなじを庇って膨れていると、聖南が優しく背中を押してくる。


「はいはい、時間無ぇからもう行こ。  恭也、じゃな」
「はい、お疲れさまです。 あ、葉璃、もう一つあげる」
「あっ、ありがと! また明日ね、恭也!」


 最後の最後に、仲直りの印なのか恭也はもう一個チキンを手渡してくれた。

 両手にチキンを持った俺は、なぜかクスクス笑い続ける聖南に腕を引かれて関係者通路を進み、来賓専用の特別駐車場に連れて来られた。

く「どうぞ」とドアを開けてくれたそれは、聖南の車?だ。


「あれっ、聖南さん車持ってきたんですか?」
「いや、レンタカー」
「へぇ~……。 あ!!  レンタカーなら車内でチキン食べたらマズイですよねっ?」
「プッ……いんじゃね? 窓開ければ匂い飛ぶだろ。 てかそろそろ食っていいよ? お預け状態もかわいーけど」


 ……なんでこんなに笑うんだろう……。

 ホテルに戻るだけなのに聖南がいつも乗ってる高級車をこっちでレンタルするなんて、すごいセレブな世界だ。

 その車内で、俺は我慢出来ずにチキンを貪った。

 一度コンビニに寄ってもらって骨を捨てて、その場で指先に付いた油を舐めているとまだクスクス笑ってる聖南に車内から手招きされる。

 店内で手を洗おうとしてたんだけど、聖南に車内へと引きずり込まれて唐突なキスを受けた。


「……っっんっ! ……ふっ……っ……」


 乗り込んですぐだ。

 舌をくるくる回して俺の唾液を奪いながら、覆いかぶさるようにしての熱烈なキスに一瞬で頭が思考停止した。


「あー美味し。 葉璃の口ん中めっちゃ美味いな」
「……ち、チキン食べてましたから……」
「メシはもうちょい我慢な、行くとこあるから。 指も貸して」
「えっ……ちょっ、聖南さん……っ」


 まだ綺麗に舐め取れていなかった油を、俺の手を取った聖南にペロペロされている。

 わっ……やらしい……。


「聖南さんっ……ダメ! へ、変な気分なるから……っ」
「その顔が見たかった」
「…………!! こんな時までカッコいいなんてズルいですよ! 手、洗ってくるっ」


 今日は、一昨日や昨日はあんまりお目見えしてなかった、オトナな聖南の方らしい。

 フェロモン垂れ流しな聖南に微笑まれていても立ってもいられなかった俺は、逃げるようにコンビニの店内へと走った。



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