必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
444 / 541
60♡

60♡9

しおりを挟む



 関係者専用の控え室に戻った俺は、恭也と一緒に賑やかな打ち上げ会場へと移動すると、リハーサル室だったそこが簡易立食パーティーの場に様変わりしていた。

 スタッフさんや、聖南パパを含むスーツを着た大人達、ライブ後のテンションを引き摺ったバックダンサーのお兄さん達はすでに各々盛り上がり始めている。

 俺と恭也は隅っこに陣取って、なるべく誰とも目を合わさないように努めた。

 昨日デビューしたばかりの俺達がここに居ると記者さん達にバレたら、面倒な事になるらしい。

 成田さんからそう言われて納得したものの、この場でマスクをした二人組は余計に目立ってそうだ。

 紙コップに注がれたお茶を飲んで時計を確認すると、まもなく午後二十三時。

 程なく、シャワーを済ませた聖南と、アキラさん、ケイタさんがここへ入室するや拍手と指笛の嵐だった。

三人がマイクを手に、今日の日の成功、そしてツアーが順調に盛況をおさめているのはスタッフさんや関係者各位の協力によるものだと全員に感謝を述べて一礼すると、さらなる称揚の声が上がる。

 芸歴の長い彼らは演者である驕りみたいなものが微塵も無く、ただただCROWNを造り上げ支えてくれている周囲の皆に感謝していた。

 聖南を「ボス」と慕うのはケイタさんだけじゃない。

 たぶん、関わる人みんなが聖南の人柄と仕事ぶりに感嘆して、この人にならついて行きたいって思うんだ。

 アイドルとして、メディアに出る者として、事務所を引っ張る存在として、時には生み出す側の裏方として、幾多の才能を秘めた聖南が俺と居る事でもっと成長するだなんて。

 一体どこまで大きくなるつもりなんだろう……。

 いつまで経っても追い付ける気がしないよ。


「あ、美味しそう……」


 遠くでスーツの大人集団に囲まれてる聖南を確認してから、俺はひとまず腹ごしらえしようと目の前のこんがりチキンを手に取った。

「葉璃、行くぞー」

 俺は恭也の背中に隠れて、美味しそうな骨付きのチキンを食べようと大口を開けたその時。

 向こうに居たはずの聖南が、今まさにかぶりつこうとした俺の背後にやって来ていて腰を抱かれた。


「んえぇっ? 打ち上げ始まったばっかりですよ!」
「いいから。 おいで」
「ま、待って、このチキン食べてから……」
「それ持ったままでいいよ」


 行くぞって言われても、CROWNの挨拶が終わった直後だ。

 聖南は「さっさと抜け出さなきゃ」とか言ってたけど、そう簡単には無理だろうなって思ってたのにもう出ちゃうの。

 チキンを握ったまま離さない俺を見て、聖南が笑いをこらえている。


「セナさん、お疲れ様です。 葉璃、行ってらっしゃい」


 恭也にニコッと微笑まれて、そういえば俺はとても恥ずかしい事を彼に打ち明けてしまったから、ここを出る前に一応口止めしとこうと咄嗟に背伸びをした。


「あっ、恭也! あの……」
「何?」
「あの事、内緒にしててね」
「……分かってるよ。 もう忘れかけてたのに。 わざわざ、思い出させちゃってる」


 屈んでくれた恭也に耳打ちすると、またそうやって微かに目を細めている。


「……っ! 意地悪! でも好き!」
「こら、俺の前で他の男に好きとか言うな」


 言いたい事をなかなか口に出来なかった恭也が、意地悪だけどこんなに意思表示をハッキリしてくれるようになったのが凄く嬉しい。

 小声だったし聖南には聞こえてないと思ったのに、不満タラタラな顔でうなじをガブッと噛まれた。


「あぅっ! ちょっ、聖南さんっ。 こんなとこで噛まないで下さい! 誰が見てるか……」
「今のは葉璃がいけねぇよ、なぁ? 恭也」
「そうですね。 葉璃、セナさんの前では、それ禁止ね」
「何がっ? 何が禁止? ……うぅ、痛い……」


 うなじを押さえて聖南と恭也を交互に見る。

 まったく。 人がごった返してるこんな場でも、誰が見てるか分かんないのに。

 しかもちょっと痛いくらい噛み付かれた。

 二人はたまに、俺には分からない話をこうやって頭上で繰り広げるからすっかり置いてけぼりだ。

 左手にはチキン、右手はうなじを庇って膨れていると、聖南が優しく背中を押してくる。


「はいはい、時間無ぇからもう行こ。  恭也、じゃな」
「はい、お疲れさまです。 あ、葉璃、もう一つあげる」
「あっ、ありがと! また明日ね、恭也!」


 最後の最後に、仲直りの印なのか恭也はもう一個チキンを手渡してくれた。

 両手にチキンを持った俺は、なぜかクスクス笑い続ける聖南に腕を引かれて関係者通路を進み、来賓専用の特別駐車場に連れて来られた。

く「どうぞ」とドアを開けてくれたそれは、聖南の車?だ。


「あれっ、聖南さん車持ってきたんですか?」
「いや、レンタカー」
「へぇ~……。 あ!!  レンタカーなら車内でチキン食べたらマズイですよねっ?」
「プッ……いんじゃね? 窓開ければ匂い飛ぶだろ。 てかそろそろ食っていいよ? お預け状態もかわいーけど」


 ……なんでこんなに笑うんだろう……。

 ホテルに戻るだけなのに聖南がいつも乗ってる高級車をこっちでレンタルするなんて、すごいセレブな世界だ。

 その車内で、俺は我慢出来ずにチキンを貪った。

 一度コンビニに寄ってもらって骨を捨てて、その場で指先に付いた油を舐めているとまだクスクス笑ってる聖南に車内から手招きされる。

 店内で手を洗おうとしてたんだけど、聖南に車内へと引きずり込まれて唐突なキスを受けた。


「……っっんっ! ……ふっ……っ……」


 乗り込んですぐだ。

 舌をくるくる回して俺の唾液を奪いながら、覆いかぶさるようにしての熱烈なキスに一瞬で頭が思考停止した。


「あー美味し。 葉璃の口ん中めっちゃ美味いな」
「……ち、チキン食べてましたから……」
「メシはもうちょい我慢な、行くとこあるから。 指も貸して」
「えっ……ちょっ、聖南さん……っ」


 まだ綺麗に舐め取れていなかった油を、俺の手を取った聖南にペロペロされている。

 わっ……やらしい……。


「聖南さんっ……ダメ! へ、変な気分なるから……っ」
「その顔が見たかった」
「…………!! こんな時までカッコいいなんてズルいですよ! 手、洗ってくるっ」


 今日は、一昨日や昨日はあんまりお目見えしてなかった、オトナな聖南の方らしい。

 フェロモン垂れ流しな聖南に微笑まれていても立ってもいられなかった俺は、逃げるようにコンビニの店内へと走った。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️8/22新刊
BL
天涯孤独のソーマ・オルディスは自分にしか見えない【オカシナモノ】に怯える毎日を送っていた。 ある日、シェラント女帝国警察・特殊警務課(通称サーカス)で働く、華やかな青年、ネル・ハミルトンに声をかけられ、【オカシナモノ】が、吸血鬼に噛まれた人間の慣れ果て【悪霊(ベスィ)】であると教えられる。 意地悪なことばかり言ってくるネルのことを嫌いながらも、ネルの体液が、その能力で、自分の原因不明の頭痛を癒せることを知り、行動を共にするうちに、ネルの優しさに気づいたソーマの気持ちは変化してきて…? 吸血鬼とは?ネルの能力の謎、それらが次第に明らかになっていく中、国を巻き込んだ、永きに渡るネルとソーマの因縁の関係が浮かび上がる。二人の運命の恋の結末はいかに?! 【チャラ(見た目)警務官攻×ツンデレ受】 ケンカップル★バディ ※かっこいいネルとかわいいソーマのイラストは、マグさん(https://twitter.com/honnokansoaka)に頂きました! ※いつもと毛色が違うので、どうかな…と思うのですが、試させて下さい。よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

お弁当屋さんの僕と強面のあなた

寺蔵
BL
社会人×18歳。 「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。 高校を卒業してようやく両親から離れ、 お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。 そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。 プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*) 地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...