必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 あらかじめこしらえておいた明太子と各調味料と生クリームを混ぜたたらこソースを、バターでほぐしたスパゲティに器用に絡めていく。

 左手だけでは動きにくそうだからと、葉璃は少しだけ離れた位置からジーッと聖南の動作を見ていた。


「そういえば何が原因でぐるぐるしてたんだ?」


 皿に盛り付けながら何気なく問うと、葉璃はオタオタする事もなく至って冷静な答えが返ってきた。


「いや、もうほんと何でもないです」
「言わねぇ気? 言わねぇならここでヤッちゃうぞー」
「えっ? わ、分かりましたよ! ……聖南さんが一昨日から俺とエッチしなかったのは、もう俺に興味無くなったからなのかなーとか……ぐるぐるしてたけど、もう理由が分かったので……」
「そういう事か。 一昨日は俺も不可抗力だったんだけど、昨日はマジで我慢した。 死ぬかと思った」


 朝はいつもの葉璃だったのに、すでに会場に来ていると成田に教えられてもまったく会えず連絡も取れなかったのは、そのぐるぐるのせいだったらしい。

 会場でのリハーサル中、葉璃はわざと恭也の背中に隠れて聖南の視線を避けていたので、何かあると睨んではいた。

 しかしながら、また何かに悩んで不安に陥り、もれなくぐるぐるが始まっている様子の葉璃をとっ捕まえて問い詰める時間も無かった。

 まさか聖南がセックスを仕掛けなかった事が原因でぐるぐるしていたとは、可愛過ぎる。


「……聖南さん寝てたのに……勃ってましたもんね」
「やっぱり? 葉璃とセックスする夢見てたんだよ。 朝起きるまでずっと。 禁欲なんてしてたら頭おかしくなるな」
「ふふっ……禁欲なんて聖南さんらしくないですよ。 俺、めちゃめちゃ不安だったんですからね……」
「ごめんな。 よく考えたら俺いっつも満タンなのにさぁ、禁欲なんかしたら容量オーバーするっつーの」
「そ、そうですね……」


 葉璃と一緒に居ての禁欲生活など、もうこりごりである。

 夢にまで出て来て誘惑され、夜中に自身の膨張でハッと目覚めると何とも愛らしい寝顔が間近にあったのだ。

 アリーナは広い。 正面と中央のステージを走り回って歌う体力は充分にあるつもりだが、しっかり寝ておかないとバテる。

 そう膨張した自身に何度も言い聞かせて二度寝を敢行した。

 文字通りふて寝だった。


「そんなに不安にさせたのは俺が悪かったけどな、葉璃のそれ……俺とやりたくてたまんなかったって聞こえる」
「そ、それは……!!」
「嬉しいよ。 やっぱ葉璃のぐるぐるは惚気にしか聞こえねぇなー。 かわいー」


 大葉を散らしながらも、口元の緩みを抑えきれない。

 言い当てられて盛大に照れた葉璃は、聖南がニヤニヤしている事でほっぺたが膨らみ始めた。

 刻み海苔とブラックペッパーでパスタを仕上げると、聖南はその膨れた頬をツンと押す。


「葉璃と会えない日な、我慢出来ねぇって時は一人で寂しく抜いてんだからな? 早く一緒に住もうよ。 いい睡眠摂りてぇし」
「……またそんなぶっちゃけてる。 ……でも怖いなぁ、聖南さんと毎晩一緒に寝るの」
「何で怖いんだよ。 はい、完成」
「わ、わぁぁ!! 美味しそうっっ」


 約二十分ほどで仕上げた明太クリームパスタを見て、葉璃が感嘆の声を上げた。

 味見をしてみたが腕は落ちていない。

 独り暮らしが長かったおかげで、多忙によりそこまで凝ったものは作れないが、これくらいなら調味料も目分量でいける。

 葉璃が「外食ばかりだと不経済だ」と言っていた事を思い出してこうして作ってはみたが、喜んでもらえるのか甚だ疑問だった。

 だが目前の腹ぺこ葉璃は早く食べたいとばかりにいそいそと皿をテーブルへ運んでしまったので、手料理を振る舞うというのは大成功だったようだ。

 「マジで料理出来るんだぞ」アピールをする事でさらに聖南の株が上がったのなら、一石二鳥である。


「それ俺の。 こっちが葉璃の」
「えぇ!? ちょっと量が違い過ぎません!?」

 葉璃が運んだ普通サイズの皿を取り上げると、聖南は特大の皿を驚く葉璃の目の前に置いた。

 ちなみに聖南の皿は葉璃のものに比べて半分で、パスタ自体の容量は葉璃の方は三倍にしてある。


「食うだろ、それくらい」
「なんで俺を大食いキャラにしたいんですか! ……ま、まぁいいや、我慢出来ないから、いただきまーすっ」
「どうぞー」


 話をしながら準備していたバケットのバタートーストも焼き上がり、グラスとシャンパンを持って聖南も着席した。

 聖南はそれを、葉璃の分にとグラスに半分量を注いで手渡す。


「美味しーーっっ♡♡♡」


 パスタを口に入れて咀嚼した瞬間、可愛い悲鳴を上げグラスを受け取った葉璃を見て、聖南はホッと胸を撫で下ろした。

 自身では美味しく感じていても、葉璃の口に合うかは分からなかったからだ。


「良かった良かった。 俺、やればできる男だろ?」
「聖南さんは何でも出来過ぎです。 あれっ、聖南さん、これお酒じゃ……」
「これノンアルのシャンパン。 さすがにノンアルでもたくさんは飲ませらんねぇけど、お祝いだからちょっとだけ飲んでいいよ」
「えー……いいんですかっ?」


 グラスの中身をクンクンしている葉璃は、気が引けると呟きつつも嬉しそうだ。

 巷にあるような子ども騙しのものではなく、逸品のシャンパンを用意したので味も香りも本物と違わない。

 二十歳になる前に、誕生日という祝いの席で少しだけ背伸びをしてみるのもいい。


「乾杯しよ、俺も飲む」
「わぁ、何か照れますね。 十八歳の誕生日……一生の思い出だ」
「これから毎年祝うんだから、一生の思い出が毎年出来るって事になるな」
「はい……。 聖南さん、ほんとにありがとうございます。 嬉しいです。 さっき言いたかったけど言えなくて……」


 聖南を見詰めていた瞳がしょんぼりと影を落とす。

 喜びのあまり言葉に詰まり、目の奥が熱くなって感動に打ち震えるという経験は聖南も先月したばかりだ。

 同じ気持ちを共有出来たのなら、その表情だけで感謝は十二分に伝わる。


「分かってるよ。 ……あのさ、さっきの返事なんだけど、今言えそう?」
「えっ……」



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