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62・ETOILE初舞台前日
〜アキラ&ケイタ&葉璃 編 Ⅱ〜
嬉しそうにパンケーキを頬張ってもぐもぐする様は、どう見てもうさぎにしか見えない。
葉璃が咀嚼する度にアキラとケイタはその口元に注目し、揃って存分に癒やされた。
アキラが淹れた紅茶とパンケーキに舌鼓を打つと、「ごちそうさまでした」と口元にクリームを付けたまま微笑んできたので、ケイタがティッシュで拭ってやった。
完全に歳の離れた弟扱いではあったが、甲斐甲斐しい聖南の日頃の行いの賜なのか葉璃はまったく嫌がらない。
「ハル、先にシャワー行っていいよ」
「え、お二人先にどうぞ」
「俺達ベッドメイクして明日のセットリスト確認するから、ハル君行ってきな」
「そうなんですね。 分かりました」
甘いもので満たされた葉璃は、ごねる事なく素直にバスルームへと向かう。
シャワーの音が聞こえてきてすぐに、アキラとケイタは同時に行動を開始した。
「その丸テーブルあっちにやろうよ、邪魔」
「ベッド移動してからでいいだろ。 ケイタ、そっち持て」
ツインルームにシングルベッドを三つ入れると部屋が狭くなってしまったが、一晩寝るだけなので何の問題もない。
だが、二人はこの部屋へ入ってくるなり同時に思った事がある。
───ベッドの隙間、要らなくね?
ホテルスタッフの好意を無駄にするべく、アキラとケイタは息を合わせて三つのシングルベッドをくっつけ、フラットにするために予備のシーツで隙間を埋めるなどして三つを連ならせた。
巨大なベッドの完成である。
聖南から、葉璃は窓際な、と言われたが眠る場所は葉璃に決めてもらうつもりだ。
たとえ窓際を選んだとしても、寝入った後に真ん中に移動させて川の字になれば二人の気は済む。
「あれ!? ベッドが……!!」
「見て見て、広々~! ハル君、ちょっと寝てみてよ。 俺でもこんだけゆったり横になれるよ!」
「えぇ……?」
シャワーから出てきた葉璃は、半乾きの髪をタオルで拭いながら完成された巨大ベッドにギョッとなった。
ケイタに手招きされ、とりあえず大の字になった横にちんまりとうつ伏せになる。
「なぁ、ハル。 うつ伏せじゃ広さの体感は無理だと思うけど……」
「あ、そっか! …………はぁぁ、気持ちいーっ。 もうこのまま寝ちゃいそうです……」
「ハル君、歯磨きはした?」
「あ、まだです」
「髪……ドライヤー使って乾かしたのか?」
「いえ、ドライヤー使ってないです……」
「寝る前にお水飲まないといけないよ」
「わ、分かりました」
「スマホの充電はした?」
「あっ……忘れてました」
寝そべったままの葉璃に、アキラとケイタが次々と両サイドからあれこれ言うので、右を向いたり左を向いたり大変そうである。
二人に言われた事を葉璃が一つずつこなしている間に、アキラとケイタも順にシャワーを済ませた。
葉璃がスマホの充電を確認し、水を一杯飲んだところでちょうど、二人も眠れる状態となる。
控え室で聖南に言われたからなのか、葉璃は窓際から動こうとしなかったので、ケイタを挟んだ両サイドにアキラと葉璃がいる。
「電気消すぞー」
スイッチに近い方に居るアキラがそう言うと返事を待たずに灯りを消した。
「ハル君、聞いてよ」
「はい?」
現在、隣を独占しているケイタが葉璃の方を向いて薄い布団を首元まで掛けてやる。
仰向けで寝ていた葉璃がケイタの方を向くと、眠そうにとろんとした瞳と目が合った。
アキラもこっそり聞き耳を立てている。
「俺さ、ハル君とセナが付き合ってるって知ったの、レコスタでの顔合わせの日だったんだー」
「あれ、そうなんですか? アキラさんはもっと前から知って……」
「そうそう、俺も一応知ってはいたんだけど、ずーーっと、ハル君は女性だと勘違いしてて」
「え……!」
「二人とも教えてくんなかったんだよ。 ヒドイだろー」
「教えなかったわけじゃねぇって。 何回言わせんだよ。 ハルの話になった時、たまたまケイタが居ないって事が多かっただけだろ。 そもそもそんな勘違いしてるとは思ってなかったしな」
「いやぁ、あの時は驚いたのなんの。 セナがハル君みたいな純真無垢な男の子を捕まえただなんて、未だに信じらんない」
「……ケイタさんは、俺がセナさんの相手だって知って……引きました? あっ、今もまだ引いてますよねっ? ごめんなさい……!」
寝る間際になってケイタがそんな事を突然話し始めたので、眠そうだった葉璃が少しだけ寂しそうに顔を曇らせた。
悲しませたくて話したわけではない。
「こらこらこら、一人で突っ走らない。 ……なんで引くの? ハル君の事知っても、やっぱセナは最先端いってるなって言っちゃったよ。 今になって分かるけど、ハル君とセナは結ばれるべくして結ばれたんだなぁと思うし……いいなぁ……」
「そんな……こんな俺なんかに、アキラさんとケイタさんが優しくしてくれるのが嬉しくて、たまに申し訳ないなって思ったりしてますよ……」
「何でだよ。 ハルが申し訳なく思う事いっこもねぇよ」
「……ほら、そういうとこです。 お二人は最初っから優しいですもん……。 何があっても守ってやるって言ってくれた日なんか、感動して泣いちゃいましたよ……」
「俺らに出来る事は何でもするから。 俺とアキラは、セナとは家族同然だからハル君とも兄弟って事になるんだからね。 遠慮しないでたくさん甘えてよ」
「まず手始めに免許と車だな。 どっちも俺が金出してやるから、すぐ……」
「シーッ。 ハル君、もう寝てる」
「今の今まで起きてただろ、急だな。 ……お、可愛い」
身を乗り出して葉璃の寝顔を見たアキラが、ケイタに「場所代われよ」と小さな文句をいいながらその幼顔に見入った。
嫌だと突っぱねたケイタは、気持ち葉璃の方に体を寄せてしみじみ呟く。
「こんな事言うとハル君怒るんだろうけど……寝顔は女の子だねー。 起きてると男の子だってちゃんと分かるのに」
「……てか、ほんとに十八か?」
「去年突然現れたのに……なんかずっと昔から知ってるみたいだよなぁ」
「そうだな」
葉璃の方から、すぴーっと可愛い寝息が聞こえてくる。
こんなチャンスは滅多にないので、二人ともがまじまじとその寝顔を堪能していたのだが……寝ている葉璃の全身からとんでもないα波が放たれていて、真ん中へと移動させる間もなくアキラとケイタはあえなく堕ちてしまっていた。
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