必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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63・ETOILE初舞台当日

〜犯人との対峙〜

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 住所を入力したナビが目的地付近の到着を知らせた。

 赤信号で引っ掛かり、聖南は受信機をポケットにしまって少しだけ背凭れに体を預ける。

 どんな光景を見ても、どんな奴が犯人であっても、CROWNのセナである事は忘れてはならない。

 そう自分に言い聞かせるように、嫌いな佐々木の前で独り言を呟いた。


「……このツアーやるにあたって毎回のライブにはめちゃくちゃ神経使ってたんだよ。 こうなってるのが葉璃じゃなくても、誰かが同じ目に遭う危険があった。 俺がいるから」
「セナさん恨み買い過ぎだもんな」
「いんだよ、俺は。 恨まれようが叩かれようがぶっ刺されようが。 俺への恨みが俺以外の誰かに……不必要な刃を向けられたくねぇから、マジで徹底してたんだよ、警備も準備も! それがこんな事になるとは思ってなかった!! なんでよりによって葉璃なんだよ!!!」


 話しているうちにヒートアップしてきてしまい、言い聞かせは失敗に終わった。

 これまでの軽率な行動すべてがこの事態を招いたと信じて疑わない聖南は、今は何をどうしても頭に血が上る。

 冷静な佐々木が居るおかげで、狂いそうになる一歩手前で止められている残り僅かな理性が、何とか聖南を保たせていた。


「セナさんの最大の弱点だからだろ。 バレねぇようにうまくやれってあれだけ言ったのに」
「こんな時に正論言うな! 眼鏡割るぞ!」
「どうぞ、これ伊達なんで。 ……着いたぞ、このビルだろ。 車停めるからセナさん独りで行くなよ……って、聞けよ人の話……」


 佐々木がビル前に車を停車させるや、聖南は一目散にその中へと入って行った。

 生の確認は取れている。

 とにかくキレないように葉璃を連れてその場を後にし、あとは警察に任せればいい。

 三階建てのおんぼろビルの階段を二段飛ばしで駆け上がる。

 足音だけがやたらと響いて気味が悪く、薄暗いせいで視界は不良だ。


「………………」


 人気はないが、確かに葉璃はここにいる。

 聖南が渡した細工ネックレスを頼りに、ここまで来たのだ。 こんな事のためにGPSを入れたわけではないので、胸中はずっと複雑だったが。

 物音をキャッチするために息を殺し、一階、二階と扉を注視していったものの気配が無い。

 最上階である三階へと到着すると、奥にかけて扉が三つあった。

 どこに葉璃が居るのかと考える間もなく、当てずっぽうで真ん中の扉を開けてみる。

 コンクリートで覆われた外観や廊下とは違い、中はどこかの事務所跡のようで床がツルツルしたタイルマットであった。

 その中央には、男一名と女二名が居た。

 ついさっきここに到着したばかりのようで、呑気に休憩でもしようとしていたのか突然現れたライブ中であるはずの聖南に、三人は一様に驚いた表情を見せる。


「キャッ」
「……っえ!?」
「……見つかるの早過ぎ……」


 その場に居たそれぞれの顔を見て一瞬で事態を把握した聖南は、適切な思考回路と理性がその瞬間、いとも簡単にふっ飛んだ。

 すでに頭が割れそうに痛み、視界が揺れている。

 あまりの怒りに全身が震えた。

 両拳を握り、奥歯を噛み締めて、激情を必死で押し殺し一歩を踏み出す。

 コイツ等はどうでもいい。

 葉璃はどこだ。 葉璃は、───。

 とにかく葉璃を救出出来ればとの思いで、ビクビクして立ち竦む三人の前を通り過ぎて奥へと向かった。


「…………ッッ!!!!」


 すると長机の影に人の足が見え、恐る恐る近寄ってみるとそこには葉璃が無造作に横たえられていた。


「────ッッ葉璃!!」


 すぐさま駆け寄って上体を起こしてやるが、意識はない。

 聖南はその姿に愕然とした。

 ロープで後ろ手に縛られた両腕を解放してやり、口元に貼られたガムテープをソッとはがし、意識のない体を一度ギュッと抱き締める。

 その拍子に、右脇腹部分の衣装が焦げているのに気付いた。

 嫌な予感がして衣装を捲ってみるとそこは赤くただれていて、その衣装の状態から何度も執拗にスタンガンを当てられたのだと分かり───。

 刹那、僅かにあったはずの聖南の理性は木っ端微塵となった。


「てめぇら……!!」


 葉璃をソッと床に横たえ、完全にキレた聖南が地を這うような恐ろしい声を上げてゆらりと立ち上がる。

 その時、車を停めに行っていた佐々木も息を切らせてこの部屋へ走り込んできた。

 同時に、聖南の顔面に昔の「日向聖南」を見た佐々木が慌てて駆け寄る。


「……っ、セナさんダメだ!! 手は出すな!!」
「……ぐっ」
「……っっ」
「痛……っ!!」


 佐々木の必死の制止など、キレた聖南には届かなかった。

 長い両腕で逃げ出そうとした三人を捕まえてひとまとめにすると、勢いよく互いの頭同士をぶつける。

 ゴンっ、という頭蓋骨を殴打した接触音が二度響き、痛がる三人へ瞳を据わらせた聖南が問い掛けた。


「スタンガンやったの誰?」
「………………」


 もちろん誰も答えようとはしなかった。 だがしかし、頭部を押さえた女の一人がチラと男の方を見たその視線を、聖南が見逃すはずもない。


「あー、……なるほど。 お前な」
「……ふ、ぐッッ!」
「セナさんやめろ!! それ以上やると過剰防衛になる!!」


 男の右頬に一度左のストレートを打って倒れ込ませると、聖南は馬乗りになって男の前髪を引きちぎらんばかりに持ち上げる。

 佐々木が聖南の体を羽交い締めにして止めようとしても、まったくもって止まらなかった。


「お前……やってくれたじゃん。 俺の体に傷付けたのと一緒だからな。 最期くらい選ばせてやるよ。 大量出血と窒息、どっちがい?」
「ひっ……っっ……」
「あ? 聞こえねぇよ!? 俺にこうされるって分かっててやった事だろうが!! 今さらビビってんじゃねぇよ!! ハッキリ言え!!」
「痛い……痛っ……た、たす、助け……苦し、い……!」


 男の右手首の関節はすでにあり得ない方へと曲がり、掴んでいた前髪を数十本抜いてしまった聖南の右手が男の喉仏の上辺りを押さえ始めていた。

 答えさせる気など無かった。

 ただ単純に、葉璃の体を痛め付けたこの男など死ねばいい、そう思った。


「もうやめろってセナさん!! サイレン聞こえねぇのか! あとは警察に任せろ! あんたはここで終わっちゃいけねぇだろ! 葉璃を守ってもらわねぇと困んだぞ!」


 赤面していた男の顔面から次第に赤みが引いていく。

 佐々木の言葉に、聖南は少しだけ顔を上げた。


「…………葉璃は痛かった」
「……は……?」
「…………痛くて、混乱して、脅えてたはずだ」
「………………」
「俺はどうなってもいいんだよ。 お前が死んで詫びてくれたら俺は全部捨ててやる。 この地位も金も全部だ。 言いてぇ事あんなら俺を殺れよ。 ……なんで葉璃なんだよ……っ! なんで……! 葉璃の痛みは俺の痛みなんだよ……!!」
「……グッっっ!? ……苦し、苦……!」




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