必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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63・ETOILE初舞台当日

〜本番〜




 どういうわけか、ここへ到着してからずっと漏れ聞こえてきていたのはmemoryの曲だった。

 なぜCROWNのライブが中断されているところにmemoryの曲が流れているのだろうと、葉璃は不思議でたまらなかったのだが。


「え……なんで……うそっ……!?!」


 監督と打ち合わせに向かった聖南と別れてステージ袖へとやって来ると、捌けてきたのはよく知るmemoryの面々だった。

 葉璃は目を丸くして、春香を見付けて駆け寄る。


「な、ななななんでここに……っ!!?」
「葉璃!! 良かった……! 話は後でね! もう出番なんでしょ、驚いてる暇ないよ!」
「えっ!? あ、ちょっ……春香!?」


 葉璃もよく知るメンバー達は笑顔を向けてくれながら、何も聞けないまま成田に誘導されてそそくさと控え室へと去って行ってしまう。

 春香に「あとで」と言われ、背中をトン、と叩かれただけでは訳が分からない。 頭の中が大混乱中だ。

 アキラとケイタ、ダンサー達、当然の如く葉璃の隣にピタリと寄り添う恭也が集合したこのステージ袖で、事態を把握出来ていないのは葉璃だけだった。


「ちょっ、ど、どういう事……!?」
「説明は、あとでね、葉璃。 セナさん、来たよ」


 驚愕の眼差しで恭也を見上げても、彼は向こうからやって来る聖南を見付けて無表情を貫いた。

 スタッフを数名引き連れて戻って来た聖南が、「円陣組むぞー!」と声を張る。

 その場に居る演者全員で大きな円を作り、皆がそれぞれの右手を重ね合わせた。

 聖南は一つ大きく息を吸い、俯いたまま静かに語る。


「ここにいる全員が事情知ってると思うけど、観客には何も悟られねぇように俺がうまく回す。 嘘も方便ってやつを使わせてもらう。 お前らには口止めさせちまう事になるから、今謝っとく……ごめん。 たとえ何があっても、俺がすべての責任を取るからな、お前達はお前達のやるべき事をしてくれ」


 ぐるりと皆を見回した聖南がもう一度俯くと、会場内でアナウンスが流れた。

 それは、リーダーである聖南の容態回復により、CROWNのライブを再開するという趣旨のアナウンスだ。

 それによって、たった今までmemoryが湧かせてくれていた会場内が、テンション冷めやらぬ状態のままさらにボルテージが上がる。

 この広い会場内が、瞬く間に悲鳴を帯びた熱気に包まれた。


「……思う存分暴れてくれ。 ───行くぞ!!!!」


 聖南の一声に、円陣を組んだ男達の低い轟音が続いた。

 全員が号令と共に右手を高く掲げていたが、どうしたらいいのか分からなくて戸惑う葉璃の右手を掴んだ聖南がニヤリと笑い、その手を高らかに上げる。

 その瞬間、葉璃の心臓が、ドクン───と大きな音を立てた。

 聖南や皆の興奮と、会場の熱狂が葉璃の全身にピリピリと伝わってきて、嫌でも気持ちが昂ぶった。

 初めての感覚で、例えようのない不思議な感情が湧き起こる。

 体が震えていない。

 奇妙な事に、緊張もそれほどしていない。

 暗転したステージへダンサー達が駆けてゆく。

 葉璃と恭也も持ち場につこうと足を踏み出した刹那、聖南に腕を引かれ耳元でこう囁かれた。


「葉璃、愛してるよ」
「………………っっ!?」


 この状況でそれを言うかと、葉璃はステージへ歩みながら聖南を振り返る。

 すると、満面の笑みで送り出してくれた。



『葉璃の初舞台、誰よりも楽しみにしてたのは俺だから』



 聖南の言葉が蘇ってくるような、そんな笑顔だった。

 持ち場につく前にもう一度だけ振り返る。

 聖南と共にステージへやって来るアキラとケイタとも目が合って、その視線には「大丈夫、頑張って」とメッセージをのせてくれている気がした。

 ドームが揺れ動いてしまいそうな大歓声の中、CROWNが葉璃達を通り過ぎ、中央の楕円形ステージで歩を止めるとたちまち曲が始まった。

 イントロが流れた瞬間、何ヶ月もかけて体に叩き込んだダンスが意図せずとも葉璃の体を動かしてくれる。

 CROWN、ETOILE、ダンサー九名による振り付けが、ステージの上で見事にシンクロしていた。

 見渡す限りが人で埋め尽くされている。

 散りばめられたサイリュームの光が、まるで煌めく夜空のようで、葉璃は踊りながらステージ上から見たその美しい景観に感動すら覚えていた。

 時間の許す限り練習してきた成果を、こんなにも大勢の人々の前で発揮できる……体を動かし、全員が一丸となって一つのものを創り上げていく快感を、葉璃はこの時初めて味わった。

 そして、CROWNというグループの圧倒的なカリスマ性を目の当たりにした今、ここに自分も加われている事がただ純粋に嬉しくてたまらなかった。


 ───なんて綺麗な世界なんだろう! ……っ楽しい……! 楽しい……!  


 聖南の歌声で踊っている事、十四人もの男達が寸分の狂い無く振付を踊っている事、三万人以上もいるCROWNのファン達の前で踊っている事、───全部が、葉璃の興奮と情熱に繋がった。

 感動の中、二曲連続で踊り終えた葉璃は、日頃のレッスンのおかげかそれほど息切れしていない。

 曲が終わるや、葉璃と恭也は中央ステージに居る聖南に手招きされた。


『俺のピーピーのせいでごめんなー! 紹介が一時間以上遅れちまった!』


 二人が小走りで中央へとやって来ると、ETOILEの紹介を交えたフリートークが始まった。

 葉璃と恭也の肩を聖南が抱いて、『ごめんな!』ともう一度謝ってくる。

 本当に、「嘘も方便」を使う気のようだ。


『ピーピーって言うなよ』
『みんなー、お待たせしてほんとにごめんね!』
『昨日さぁ、普段食わねぇもんを食ったんだよ。 多分それだな、ピーピーの原因』
『セナの苦手なもんあったっけ?』
『ケイタ、ほら……あれだよ、あれ。 セナが唯一苦手な食べ物……』
『あ!! もしかして、タコ?』
『そうだよ、それ! 俺ダメなんだよ、タコとかイカとか、足がいっぱいの軟体のやつ。 昨日のなんか、刺し身だったろ。 まだ動いてて活きがいいですよ系の』
『そういえばそうだったね、苦手なら食べなきゃ良かったじゃん。 俺にくれたら良かったのに』
『出されたもんはどんなもんでも食うよ、俺は。 今日こんな有様だけど』


 ごめんな、と聖南が苦笑すると、特大モニターにその詫びの表情が映し出され、大勢の観客に「大丈夫ー!?」と心配気なレスポンスを受けた。


『……良かったな、セナ。 みんな寛大で』
『セナのピーピーでETOILEの紹介が遅れたんだから、ここは尺使おうよ』
『そうだな。 この二人が、デビューほやほやのCROWNの弟分、ETOILE、葉璃と恭也でーす!』



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