3 / 541
2❥
2❥
三人組アイドルグループ「CROWN」のリーダー、聖南(セナ)二十三歳は、今日の生放送の出番をご機嫌で待っていた。
元々ポジティブでマイペースで素も大差ないのだが、聖南以外の二人のメンバーはいつも以上にニコニコな彼を見て薄気味悪さを覚えている。
「セナ、どうしたんだよ? 今日は一段とすごいじゃん」
「気味悪いからちょっと真顔に戻ってろ」
同じくCROWNのメンバーであるアキラとケイタが、聖南の落ち着かないニヤニヤを他の出演者にすらチラ見されていたのに気付いて注意するも、今世紀最大に浮かれている聖南には響かない。
「嫌ー無理ー♪」
なんなんだ? と、二人は顔を見合わせた。
オープニングのテーマ曲が流れ、いよいよ本番が始まるというのに大丈夫かとも思った。
台本通り五組のアーティストがセット裏で待機し、一組ずつ司会者によって紹介されつつ出て行く、よくある音楽番組である。
しかし生放送かつ長寿番組だという事、加えてゴールデンタイムという視聴率が伸び切る時間帯での放送なのだ。
CROWNは目玉アーティストのため出番が最後の方となり、セット裏での待機が必然的に他に比べて少しだけ長くなる。
本番がスタートされても、置かれた椅子に悠々と腰掛けているご機嫌な聖南の視線の先には、緊張でガチガチの葉璃が居た。
「やっばい。やっぱ超かわいー。さっき廊下ですれ違ってさ。ガチでタイプだわ」
「ん? あぁ~そういう事か。どの子?」
ケイタが聖南の呟きに目敏く反応すると、聖南の視線の先を追う。
「珍しいな、セナが番組内でそんな事言うなんて」
「だってヤバくない? あの可愛いさ。これはまさしく……一目惚れだ!!」
「ちょっ、声でけぇから」
「おっ、これは失礼」
興奮して右の拳をグッと突き上げて立ち上がると、同じく出番を待っている共演者達の視線が次々と突き刺さってきたので、すかさずアキラに注意された聖南は一連の動作のように自然に元の態勢に戻る。
結構な声量だったため、あの可愛こちゃんと目が合うかも♡と期待して見詰める先の葉璃は、ただひたすらに自身の手のひらを見詰めていて、聖南の事など少しも気に留めていなかった。
「あ、行っちゃう! 行っちゃうぞ!」
「そりゃ行くだろ。てか俺らも出番だから」
葉璃の所属するmemoryという名のグループが、新人アーティスト紹介という枠で司会者から呼ばれてしまい聖南の視界から居なくなってしまった。
単に出番なだけだったのだが、はぁ、と分かりやすく肩を落とす聖南を無理矢理立ち上がらせたアキラは、しっかりしろよとマジのトーンで叱りにかかる。
いつも王様のようにふてぶてしくもある聖南だが、仕事だけはキッチリこなす男だ。
こうもマイペースで浮かれた聖南を見るのは初めてで、アキラとケイタは苦笑するしかなかった。
「ラストはCROWNの皆さんの登場でーす!」
リハーサル通り、司会者に呼び込まれた三人は舞台袖から持ち歌をバックに悠然とスタジオへと出て行く。
「CROWN」という名が出ただけで、左右に配置された観覧席から黄色い悲鳴が飛んだ。
聖南達CROWNが歌うのは四番手で、葉璃達のmemoryが今夜のラストだった。
この番組では、人気上昇中の売り出したい新人アーティストがトリであるパターンが多い。
葉璃達も例に漏れずそういう事になったらしいが、そんな事などどうでもいい聖南は、葉璃と端と端ほど席順が離れてしまったため、カメラの前にも関わらずムスッとしていた。
そんな聖南を横目に見ていたアキラは、本当にこんな事は初めてだと溜め息が止まらない。
番組は中盤に差し掛かった。
そこで動きがあり、まもなくCROWNとmemoryの出番なのでCMの合間に司会者の横に並び直されたのだが、なんと聖南と葉璃は同列で隣同士になった。
いつものようにスタッフから、リードボーカルでトークも達者なリーダーである聖南が司会者の真横に座るよう指示があったが、聖南はこれを右手でゴメンのポーズを作って拒否し、memoryの横に陣取った賜だ。
あまり映らない事を想定していたのか、何も知らないスタッフのおかげで葉璃が聖南の隣になるというミラクルミスが発生し、このチャンスを逃す手はないと聖南は嬉々として着席した。
CM明けまであと二分。
聖南は柄にも無く緊張していた。
「衣装が当たって不快な思いさせたらごめんね」
何とか葉璃と話したい一心で、普段なら絶対に言わないどうでもいい事を葉璃の顔を覗き込んで言った。
あなたにおすすめの小説
元アイドルは現役アイドルに愛される
陽
BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。
罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。
ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。
メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。
『奏多、会いたかった』
『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』
やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。
【R18】兄弟の時間【BL】
菊
BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。
待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!
斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。
「じゃぁ結婚しましょうか」
眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。
そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。
「結婚しましょう、兄さん」
R18描写には※が付いてます。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
嘘つき王と影の騎士
篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」
国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。
酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。
そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。
代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。
死を待つためだけに辿り着いた冬の山。
絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。
守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。
無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。
なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。
これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。