必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 CROWNとしての取材を二件と新曲の歌詞を詰めていくために事務所に居た聖南は、アキラ、ケイタと分かれてとあるスタジオにやって来ていた。

 以前撮ったスチールを確認してほしいと雑誌編集者から依頼があり、雑誌社側の都合で昼時に合わせてである。


「あ! セナさん、こちらです! すみません、ご足労お掛けして」


 受付で自分が来た事を伝えてくれと言う前に、聖南を見付けた編集者が飛んできた。


「大丈夫っすよ。俺も今日午後はフリーなんで」
「アキラさんとケイタさんは?」
「二人は別々で舞台練習があって来れないんだよ。確認は俺に一任されたんで、いくらでも付き合う」


 アキラとケイタはそれぞれ忙しく、マネージャーの成田も手が離せないと事務所に残っていて、来たのは聖南一人だ。


「そうだったんですね! セナさんが来てくれて本当に助かりましたよー!」
「あれ、memory来てるんすか?」


 いやいや……と笑った聖南の視線の先に、memory様と書かれた紙が貼られている扉があるのに気付く。


「あ、そうなんです。今動画サイトで踊りを真似する若者が増えてるらしくて、特集組む事になって……急遽でしたが」
「そうなんだ……」


 まさかここで出くわすとは思わなかった。

 よく取材場所として使われはするが、所謂マイナーな写真スタジオで同日鉢合わせるとは、よほど縁があるのかと聖南は苦笑する。

 ハルカと顔を合わせるのは気まずいが、別室で缶詰状態であれば大丈夫だろう。

 聖南は苦笑いを浮かべたまま、「行こ」と編集者を急かした。

 以前はあれだけ会いたくてたまらなかったハルカを避けるように編集部屋にこもってしまったけれど、本当はその姿をもう一度見たくてたまらない。


「ちゃっちゃと仕事して、覗きに行くかな」


 変だ、妙だとは思っていても、好きになってしまったその本能は止められない。

 すでにCROWNの写真のサムネイルがパソコンに起動された状態で、そこに待機していた技術者の青木という男と、聖南の無意識の圧力でかなり巻きで仕事をこなしていった。

 三時間を予定していた作業も半分の一時間半で終わりを見ると、青木も「よっしゃ! 休憩が取れる! あざっす!」と喜んでいたので一石二鳥である。


「少しmemoryの撮影見てってもいい?」
「いいと思いますよ!  セナさん、memoryのファンなんですか?」
「……んー。まぁそんなとこ」


 「意外ー!」という青木の声に笑いながら部屋を出ると、シャッター音とフラッシュが飛び交うスタジオの重い扉を開けた。

 聖南は伊達眼鏡を掛け、撮影スタッフに紛れて少し遠い場所からハルカの姿を探す。


 ── 居た居た。あれは……ハルカだ!


 今時の女性は大体同じようなメイクなので似たような顔が並んでいるが、ハルカは別格だった。

 その証拠に、欲目の凄まじい聖南はハルカを一瞬で見付ける事が出来た。


 ── あー……やっぱ可愛いー。今日も美味そうな唇だ。


 ハルカを見詰めていると、危うくよだれが出そうにだらしない顔になってしまうが、今日は誰も止める者が居ないので自力で自制した。

 撮影は聖南が作業している時から続いていたようで、まもなく終了、とスタッフが声掛けをしているのを横目で見ていた時だった。

 ジャケットのポケットに入れていたスマホが振動し、何かの通知を知らせた。

 短い振動だったので電話ではないと分かったが、事務所やマネージャーからのメール連絡だといけないので、聖南はいそいそとスタジオから出て確認してみる。

 するとそこには、驚きの人物の名が記されていた。


 ── は!? ハルカからLINE!?


 なんと、今ここで撮影しているはずのハルカからLINEメッセージが届いていたのだ。

 思わず聖南の背筋が凍る。


 ── ど、どういう事だ?  『今日もお仕事頑張っていますか?』 だって…… ? えぇっ?』


 ちょうどハルカをガン見していた真っ最中だったので、撮影してもらいながらスマホを扱うという高等テクニックは行っていなかったはず。

 ではこのメッセージを送ってきたハルカは何者で、カメラの前に居るハルカは誰なのか。

 まさに聖南が感じていた違和感が形となって表れ、スマホを握ったまま唖然と立ち竦んだ。


「……あれ、セナさん? 作業終わりました?」


 珍しく難しい表情をしていた聖南に、受付で会話した編集者が声を掛けてきた。


「あぁ。あのさ、めちゃくちゃ変な事お願いしていい?」
「何ですか? 変な事って」


 編集者は薄々話の内容が分かったのかニヤニヤと笑っているが、聖南はこれ以上ないほど真剣な顔で続きを紡ぐ。


「memoryの撮影終わったら、ハルカって子をさっきの編集部屋に呼んでほしいんだ、時間は取らせねぇから。出来れば一人で」
「構いませんけど……あ、もしかしてタイプなんですか? 呼んでくるのは構わないけど、ダメですよ、変な事しちゃ」
「仕事相手なんだ。ンな事しねぇよ」
「頼みますよ~?」
「分かってるって。……じゃあ待ってるんで。よろしく。一応口外禁止で」
「もちろんですよ! さすがに未成年相手じゃ記事どころの騒ぎじゃないですし?」


 物騒な事を言うな、と聖南は肩を竦めて見せる。

 唐突なお願いにも二つ返事でOKしてくれた編集者を残し、顔の筋肉がおかしくなった様に無表情のまま、聖南は先程の編集部屋へ戻った。

 記事に出来ないと言いながらも記事にしてしまうのが雑誌編集の恐ろしいところだが、聖南の場合は強力な後ろ盾と経歴、日頃の行いもあって本当に口外しないでいてくれるだろう。

 休憩だ! と息巻いていた青木の姿はもちろんそこには無く、しばらく戻って来ない事を見込んだ聖南は鍵を閉めてハルカを待った。



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