必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 はっきりとした返事をしないでいると、セナの口から思わぬ台詞が飛び出す。


「もう一回キスしてみる? 嫌だったら殴っていいよ。それはもう条件反射だろうから、殴られたら脈ナシって事で俺も諦める」
「え……」
「ただし、嫌じゃなかったら俺の背中に手回せ。出来るな?」


 そ、そんな大それた事、できるわけないじゃん!

 背中に手を回すって、それはもう抱きしめろって事だ。

 いかにも、簡単だろ?って言わんばかりだけど、俺には難易度が高過ぎる。


「俺は今日この時を死ぬほど待ってたんだ。はるの事好きだし、マジで付き合いたいと思ってるけど、はるが嫌だと思うなら俺はもう諦めたい」
「…………」
「はる本人が分かんねぇなら体に聞くしかないじゃん? 心と体は正直っつーかさ。って事で協力して」
「……ぇ、ちょっ、っんんーーっっ」


 早口で捲し立てられた直後、俺の戸惑いなんか完璧に無視したセナに両頬を捕らえられる。整った顔がアップになったと思ったら、その一瞬後にはキスをされていた。

 あの時と同じだ。

 温かくて柔らかいセナの唇が、俺のと触れ合ってる。体がじわじわポカポカしてきて、何も考えられなくなる。

 嫌だったら殴れって、そんなの無理だよ。

 抵抗らしい抵抗が出来なくなるどころか、固まって動けなくなっちゃうんだよ。

 しかもセナは、ゼロ距離でジッと俺を見てくる。

 視線が合うと猛烈に恥ずかしくなって、俺はギュッと目を瞑る事にした。


「……ん……んん……っ」


 ── それより何より、どうしよう……。俺、全然嫌じゃない。

 あの時も思ったけど、このあったかい毛布に包まれたような感覚は気持ち良いとさえ思ってしまってる。

 チュッ、チュッといやらしい音を立てながら向きを変えてきて、初心者に優しくないなと思った。

 俺の気持ちを確認するためだからか、前回よりもすごく長い時間キスしてる気がする。


「んっ……!?」


 ジッとして全身をセナに委ねていて、気が緩んでいた。

 少しだけ開いた唇の隙間から、ぬっとセナの舌が侵入してきていよいよドキドキが加速する。

 驚いて腰が引けた。でもその腰を、セナが抱いて引き止める。

 それだけじゃない。

 経験豊富そうなセナの舌は、ビクついてる俺の舌と絡ませて遊んだ。さらに上顎をチロチロと舐めたり、また舌を絡ませてきたり、好き勝手ばかりする。

 セナに抱き締められた俺は、カチコチのまま。

 気持ちいい……よりも、緊張が勝っていた。

 とても太刀打ち出来ない技を使って、セナは俺の口の中を優しく支配した。

 俺はほんとに、どうしたらいいのか分からなくて。

 隣の部屋には春香が居る。下では親が寝てる。

 騒ぎも出来ない、だからってセナのことを殴れもしない握り拳はずっと出番が無い。

 そもそも何も考えられない。

 いい匂いのするセナとぴったり密着して、それどころかこんなに濃厚なキスをして、少しもイヤじゃないと思ってる俺の答えなんか、分かりきってる。

 でも、じゃあ、どうしたらいいの。

 ……って、そっか。

 セナは、嫌じゃなかったら背中に手を回せって言ってた。

 そんなの無理だって何分か前にはそう思ってたんだけど、……。

 今なら出来るかもしれない。

 いつもより重く感じる両腕を、セナの背中に回してみる。そして縋るように服を掴んで、この甘くて蕩けそうなキスを一刻も早くやめてもらおうとした。

 俺だけじゃなくセナにも抱き締めてほしい……心のどこかで、こう思いながら。


 ……セナも、ぎゅってしてよ。


 背後に回った俺の腕の感触を感じたセナが、唇を離さないままニヤリと笑った気配がした。

 それからすぐに、痛いほど抱き締めてきた。

 力強い腕から確かにセナの体温を感じて、もっと頭の中が真っ白になった。

 密着状態でこんなに濃厚なキスをしてると、下腹部がどうしても反応し始めたのは分かってたけど、さすがにそんな事バレたくない。

 座ったままだから大丈夫、バレてない、よね……?


「殴んなかったじゃん」
「へっ? あ、……あの……」


 この間とは比べ物にならないほど熱く長くキスをした俺達は、名残惜しいと互いの思いが以心伝心したかのようにゆっくりじわじわと離れた。


「……嫌じゃなかったですから……」
「ちゃんと抱き締めてくれたな。お利口さん」
「…………」


 セナは嬉しそうに、俺の頭をヨシヨシしてきた。

 子ども扱いしないで。ていうかキス長過ぎ。好き勝手していいなんて言ってない。……って怒ってもいいはずなのに、セナの掌は優しくて温かくて、照れしか生まなかった。


「俺マジだから。はる、マジで好き。好きなんだ」


 ニヤニヤしてたはずのセナが、急に真顔になってこんな事を言った。

 おもむろに俺をぎゅっと抱き締めて、反則級に艶めいた声で「好き」と何度も想いを伝えてくる。


「も、もう、分かりましたからっ」
「これでもまだ疑う?」


 真剣そのものな瞳で、顔を覗き込まれる。

 俺の返事なんか分かってるくせに、自信なさげな様子がうまい。

 セナは策士だ。

 キスした瞬間から、きっともうセナは俺の気持ちに気付いてた。


「……疑わない、です……」


 こんなに、まるで大切なものを扱うように抱き締められた後じゃ、こう返すしかないじゃん。

 信じられなくても、信じたいって思っちゃうよ。



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