必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 聖南の切り傷は幸い浅く、命に別状は無かったものの、三十針以上縫う大怪我となってしまった。

 右脇腹前方から後方にかけて、地面と平行に縫い目が出来ている。

 聖南が刺されたというニュースは、聖南の名前の大きさにより翌日から全局がトップニュースとして扱い、業界も世間も騒然としていた。


「── セナ、もう二日も寝たままだな……」


 一報を聞いたCROWNのマネージャー成田は、時間が空く度に聖南の様子を見に来ているが、なかなか目を覚まさない事務所の稼ぎ頭を心底心配している。

 ちょうどアキラとケイタも仕事の合間に見舞いに来ていて、心配そうに聖南を見詰めていた。

 聖南がいる個室には様々な有名芸能人、テレビ局、雑誌社からお見舞いの花が送られてきていて、むせ返るほどの匂いが充満している。

 世間には事件の真相やこれまでのスクープ遍歴を繰り返し放送されていて、一部は聖南にとっては偏向報道と捉えても仕方がないような扱われ方をされた。

 ただ聖南は、あらゆる現場において一度たりとも横柄な態度を取った事がない。

 過去の下半身事情はさておき、業界関係者からの人望は厚いと言っていい。


「俺よく事情分かってないんだけど、セナ刺した奴って何だったの?」


 簡易椅子に腰掛けながら、アキラが聖南の痛々しい点滴を見ながら成田に問う。

 ケイタは少し離れたソファに掛けて、相槌を打った。


「肩書きはグラビアタレント……かな。セナのファンだったらしい」
「ファンなら何で刺すんだよ」
「それが……セナはちょっとだらしなかったろ、あっちの方が。お願いすれば抱いてくれるって、それがモデルやらグラビアタレントやらに情報回ってるようでな」
「ふーん。それで?」
「警察には、セナから断られたと知られたら恥ずかしい、他のグラビアの子からバカにされるから刺した、と言ってるそうだ。 ナイフも予め持って行ってたっていうのが怖いよな」
「……勝手だな」
「本当にね……」


 アキラとケイタは、それぞれ深々とため息を吐いた。

 聖南が遊びまくっているのは二人だけではなく世間も事務所も、果ては長く業界に居る者なら皆恐らく知っていたであろうが、そんな情報が一人歩きするほどだとは思っていなかったために、聖南の自業自得感は否めない。


「…………るっ……」
「おい、セナが何か言ってる」
「ほんとだ。セナ、大丈夫か」


 まだ目は瞑ったままだが、聖南が苦しげに呻き始めたので慌てて成田は医師を呼びに行った。

 アキラは立ち上がり、聖南が何を言っているのか必死で聞き耳を立てた。


「…………る、……は、る……」
「るはる?」
「いや違うだろ、ケイタ。ハル、じゃないか」


 聖南が片思いの最中、妄想に度々付き合わされたアキラにはハルという名前に聞き覚えがあった。

 繰り返し聞かされたその名前を、忘れるはずがない。


「ハルだ。呼んでんだよ、ハルを」
「あー、あの噂の一目惚れしたっていう?」
「でも連絡先分かんねぇしなー」
「セナのスマホどこ? それ見てアキラがハル呼んであげればいいじゃん。俺これからドラマの撮影あるから行かなきゃだから、頼むわ」
「そっか。またな」


 現在、来クールのドラマ出演が決まっているケイタは舞台稽古とドラマ撮影の掛け持ち状態で、聖南を心配しつつも寝顔に「じゃあな」と声を掛け、病室を出て行った。

 残されたアキラは、兄弟のような間柄である聖南の物とはいえ他人の鞄を漁る事に躊躇するも、スマホを見つけ出して発着履歴からハルの文字を探した。


「あったあった」


 すぐに見付かったハルの番号を拝借し、自分のスマホでその場で掛けてみる。

 知らない番号からの着信には出ないかもしれないと危ぶんでいると、しばらくあった呼び出し音が止まった。

 電話口に出たのは、アキラの予想していたものではない若そうな男だった。


『……もしもし?』
「あ、いきなりすみません。ハル居ますか?」
『お、俺ですけど……誰ですか?』


 え、男……!?と、アキラは目を見開き、寝ている聖南を見た。

 あんなに女好きだったのに、まさか聖南の想い人〝ハル〟が男だとは想像だにしていなかった。

 だが今はそんな事で驚いている場合ではない。


「俺CROWNのアキラって言うんだけど、ニュース見た?」
『あ!! アキラ、さん……! あの、っ……はい、見ました。聖南さん、だ、大丈夫なんですか!?』
「傷は深くなかったんだけど、今は絶対安静かな。ただ困った事に、まだセナが目を覚まさないんだ。寝言でハルの名前呼んでるから、もし来れるなら来てやってほしいんだけど」
『い、行きます! 病院どこですか!』
「野本総合病院だ。タクシー使って来てどれくらいで着く? 俺が下で待ってる」



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