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俺は授業中なはずの恭也と何通かメッセージのやり取りをして、そろそろ戻らなきゃ変に思われるかもと意を決して立ち上がる。
メディアに出まくってキャーキャー言われてるCROWNのうち二人がそこに居ると思うと、緊張して足取りは重い。
扉に手を掛けた所で中から二人の話し声がしたから、俺はその手を咄嗟に引っ込めた。
込み入った話だと俺がいたら邪魔かもしれないと思って、デイルームに戻ろうと引き返そうとした俺の耳に「ハル」って名前が聞こえちゃって、思わずその場で聞き耳を立てた。
このVIPフロア(俺が名付けた)では看護師さんもナースステーションに常駐してるようで、聖南の容態は安定していると判断されたらしく、この廊下は無人でとても静かだ。
俺の名前が出た事でデイルームにも引き返せなくて、そのまま俺は微かに聞こえてくる会話を盗み聞きする形になった。
『~~……んなに早く上げる必要なかったんじゃねぇの?』
『だってあれさえ仕上げれば翌日フリーだったからさー』
『休みがないからもぎ取ろうって気持ちは分からなくもないけど、普段は三日かけてやる仕事じゃん。無茶しすぎ』
『葉璃に会いたかったんだから仕方ねーだろ。俺もだけど、葉璃が一番戸惑ってるの分かってたし』
『連絡こなかったってやつ?』
『まぁな。葉璃は俺からガンガンいって安心させてやらねぇと、すぐ逃げちまうから』
『……そんな感じには見えなかったけどなぁ』
『俺も最初は信じらんなかったよ。あんなかわいー顔してたら普通は遊びまくってる。けどな、葉璃は、俺が愛しちゃいけねー子かもって思っちまうくらい純粋なんだ。めちゃくちゃ卑屈だし。そこが面白いんだけど。とにかく、俺も葉璃と同じくらい不安でいっぱいなんだよ』
『……セナが?』
『そ、俺が。葉璃に嫌われたらどうしよーって』
『男ってのは気になんねぇの?』
『……なんだよ、芸能記者ばりに聞いてくんな。んなもん気になんねぇよ。男って分かった最初だけはまぁ考えたけど、葉璃の性格とか話し方とかいちいち可愛く見えてさ。あー好きだわーって思ったら性別なんかどうでもよくなった』
『……へぇ~スゴイな。……恋してるな、セナ』
『だろ? 恋しちゃってんのよ、俺』
……俺の名前が出てきたどころじゃなかった。
CROWNの二人……聖南とアキラさんはなんと恋バナ真っ最中で、俺の不安なんか吹き飛んでしまうくらい、聖南は俺に本気なんだって分かった。
聞きようによっては惚気話だ。
「………………」
── 尋常じゃないくらい、照れた。
その場でしゃがんで両頬を触ると、照れた分だけ熱くて……。数分前とは違う理由で病室に入れなくなった。
盗み聞きがバレないようにソーッとその場から離れてデイルームに戻ると、自販機で紅茶を買って飲んだ。
「……はぁ……。ちっとも落ち着かない」
紅茶を片手に、今度は一人掛けの肘付きソファの方にドカッと腰を下ろす。
あんなに無防備にアキラさんに話してしまうほど気を許してる事は分かったけど、いくら何でも本心を言い過ぎやしないかな。
スゴイなって言うアキラさんも然りだ。
さっきも思ったけど、幼い頃からの付き合いだとは言えアキラさんは質問がストレート過ぎる。
盗み聞きしちゃった俺が言えた事じゃないけど、いつ戻ってくるか分からない俺を待たずにあの会話はいけないよ……。
恥ずかしくてここからすぐにでもどこかへ飛んで行ってしまいたい気持ちに駆られたけど、足をジタバタと動かしてるとその衝動も紛れた。
「……いつまでもここに居られないよね……」
鞄が病室にある以上は戻らなきゃ帰宅出来ないし、何より聖南が俺を待っている。
ちびちび飲んでた紅茶を一気に平らげて、空き缶を捨ててゆっくり立ち上がる。
今度こそ、どんな会話が繰り広げられてても入ってやると病室の前にやってきたところで、唐突に開いた扉から出てきたアキラさんとぶつかった。
俺も一歩を踏み出そうとしたせいで、アキラさんの胸に鼻を強くぶつけてしまう。
「……うっ!」
「あぁ、ごめんごめん。大丈夫?」
「……だ、大丈夫です、すみません……」
「見せて、……あー赤くなってるな。冷やそうか?」
屈んで俺の頭に手を乗せて顔を覗き込んでくるアキラさんに、続けてもう一回「ごめんなさい、大丈夫です」って言ってるのになかなか離れてくれない。
逃れるように一歩引くと、病室内から鋭い視線を感じた。
「ほ、ほんとに、大丈夫ですからっ。あの、すみません」
「謝り過ぎだって。俺がいきなり開けたんだから俺の方がごめんなさいだ」
フッと笑うアキラさんから頭をくしゃくしゃっと撫でられた。
聖南もよくこうして頭を撫でてくるけど、長身な彼等からしたら、俺が小さいからちょうど頭に手を置きやすいのかもしれない。
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